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巫女見習い

『父上様、母上様

 私は、もう駄目です。

 もうあと一刻で、永久に資格を失ってしまいます。

 この二日間、一睡もできていません……。

 この養成所に引き取られ、一年近く修行を積んでまいりました。

 けれど、精霊様は私の前に出現なさってくださいませんでした。

 ひとえに、私の不徳の致すところでございます。

 この養成所を出た後のことは、なにも決まっていません。

 いずこかの寺社に奉公させていただければ幸いですが、それが叶わなければ、返済の為に我が身を売って……』


 その少女……優奈の目から涙がこぼれ、書いていた日記帳の上に落ちた。

 ポタポタと、連続して落ち、優奈は書きかけの日記を一旦、横にずらした。

 そしてそのまま机に顔を伏せ、泣いた。

 南向藩精霊巫女養成所、その一室。

 才能があると見込まれた少女達が過ごすこの宿舎には、小さいながらもそれぞれ個室が与えられている。

「精霊巫女」は、その候補も含めて特別な存在であり、それ故に「藩」から衣食住、不自由なく過ごせる環境が保証されているのだ。


 しかし、それにも期限がある。

 満十六歳の誕生日になるまでに精霊と契約し、正式な「精霊巫女」と呼ばれる存在になれなければ、彼女達はその後一生、資格を得られることはないのだ。

 優奈は、まだ精霊と契約できていなかった。

 期限まで、後一刻 (約二時間)しか残されていない。


 同期の少女二人は、三ヶ月以上前に精霊巫女になっていた……しかも、二人とも年下だった。

 普通は、期限の数ヶ月前には、彼女達の適性に合う精霊が現れるものなのだ。

 しかし、優奈にはその兆候すらなかった。

 もう、彼女は覚悟を決め、この夜までに荷物を纏めていた。

 優奈の父親は下級武士であったが、二年前に戦で死んだ。

 母親はその後、重い病を患った。

 優奈は母親を安心させるために、安い薬を分けてもらっていると偽り、実は高額な薬を、我が身を担保にして借金して購入していた。

 容姿端麗な彼女は多額の借り入れができたのだが、母親は結局、一年前に帰らぬ人となってしまっていた。


 優奈は借金返済の為に「身売り」されそうだったところを、聖職者による霊視にて「精霊巫女」の素質が十分にあると判断され、この精霊巫女養成所に招かれていたのだ。

 しかし、その望みは潰えかけていた。

 机に伏して泣いていた彼女は、二日間、一睡もできていなかったことも影響し、ひとしきり泣いた後、そのままの体勢で眠ってしまっていた。


『――優奈、優奈、起きるんだ!』


 ふと、彼女の彼女の頭の中に、直接、何者かの声が聞こえた。

 彼女は半分、意識がないままだったが、その者の声を無視できず、重い頭を上げて部屋の中を見渡した。

 すると、彼女のすぐ横にふわふわと浮かぶ、『ぬいぐるみ』のような何かが、必死に彼女に声をかけていた。

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