日常
よろしくお願いします。
「レオナルド様、おはようございます。」
「ん、おはよう、アル。」
「本日は、アッサムをご用意致しました。」
「ん〜、ありがとう。」
傍目から見ると貴族の優雅なアーリーモーニングティーのお時間のようだ。
でもひとつだけ違うのは僕がある人に支える「執事」だということだろう。
「ん〜。今日も紅茶美味しい。ありがとね。」
勿体無いお言葉でございます。
そう言って微笑みながら僕の着替えの準備をするのはアルフレッド。僕の執事。
なんで執事の僕に執事が付いてるのか気になる?
話せば長くなるんだけどね。
僕、元々は貴族だったんだ。でもとある貴族さんにお屋敷ごと買われちゃったんだ〜。
買われたって言うかそうしないと生きていけないって言うか。
それもそのはず僕のお家はお祖父様の代で繁栄したいわゆる「一代貴族」ってやつなんだ。
それを細々と続けて僕の代まできてたんだけど、やっぱりそんなに欲がなかった僕にはそれ以上のものにすることはできなくて。
お父様もお母様も厳しい貴族社会に揉まれないように僕には好きなように生きていい。って言ってくれて。後継とか考えなくてもいいように育ててくれた。もう二人とも亡くなっちゃったけど、本当に尊敬してる大好きな二人だった。
だから僕の家は貴族って言うほどお金持ちでも厳しくもなかったけれど、唯一執事はいた。
僕なんかには勿体無い凄く良くできる自慢の執事。
なかなかお給料もいっぱい出せなくて本当申し訳ないんだけど、レオナルド様に支えられる事こそ私の幸せでございます。ってアルは言ってくれてて。
こんなところまでついて来てくれてる。
「レオナルド様、お支度整いました。」
「ん、今日もありがとう、アル。」
「滅相もございません。」
「じゃあ行こうか。」
寝衣から執事用の服に着替えてこれから僕の支える「旦那様」のところへ行く。
僕の最初のお仕事は旦那様を起こすこと。
アルが事前に用意してくれてた新聞とモーニングセットを持って使用人用の扉から部屋に入る。
アル直々に教えてもらったやり方で今日も準備をする。
カーテンを開けて新聞、身支度セットなどなど色々用意して旦那様が起きる時間が近づいてきたら紅茶を淹れる準備を始める。
「レニー、」
「おはようございます、旦那様。」
「あぁ、おはようレニー。」
今日もグッドタイミング。
紅茶を淹れ終わったところで旦那様の声がした。
「本日はセイロンのハイグロウンティーをご用意いたしました。」
ついさっきまで僕がしてもらっていたことをそのまま旦那様にする。
「レニー、それより起こす時はカーテン開けないで俺に直接って何回も言ったよね」
でた。僕の旦那様は何故か僕を困らすのが好きみたいで、そんなことできるはずないのにいっつもわがまま言う。
「旦那様、失礼ながら私も再度申し上げさせていただきますと、それはできません。」
「まぁ、悪態つけるようになっただけ進歩か。」
「お紅茶が冷めてしまいます、」
訳の分からないこと言ってないで早く紅茶飲んでほしい。僕は別にそんなでもないけど他のメイドさんとか仕事が遅れちゃうだろうし。
「ん、レニーの淹れたお茶はいつも美味しいね。」
「滅相もございません。」
「だめだよ、それは。」
そう言って僕のことを手招きする。
仕方がないので近寄ってみると、ひょいっと僕を抱き上げてこう続ける。
「そんな言い方はだめ。ありがとう、でしょ?」
なぜか旦那様の膝に乗せられながら怒られている。
「あの、旦那様、私、旦那様の執事ですので、このような行為やそのようなご要望にはお応えできかねます。」
膝から降りようとすると、顎を掬われチュッとおでこに口づけられる。
「違うよレニー、俺はレニーに執事になれって言ったけどそういうことじゃないよ。結果的にこうなってるけど俺はレニーと一緒にいたいだけなんだよ。」
「旦那様、訳のわからぬことを仰らずにお支度ください。」
「冷たいレニーもいいんだけどね。」
そう言いながら僕を下ろしてくれる。
全く、旦那様ほど僕を困らせる人はいない。
コンコン
ため息をつきかけてるところにノックが響く。
入れ。の一言でアルが入ってくる。
「旦那様、お時間です。」
「チッ、こいつレニーが遅いから痺れ切らせて迎えに来たよ。」
あ〜〜〜アルごめん………最初は順調だったんだよ……でも旦那様がいつものわがまま発動して……ほんとごめん………
そっからはもう本当僕邪魔なんじゃないかってぐらいテキパキと準備進めてあっという間に身支度整えた旦那様の出来上がりだ。
「はぁ〜あ、もっとレニーとゆっくりしたかった〜」
そんなことしたらいろんな人に迷惑かかるのわかってて言ってる旦那様。旦那様はそんなことないだろうけど僕は怒られるんだから。
ベッドメイキングに来たメイドさんと入れ替えに部屋から出る。
今日は旦那様のわがままが少なく平和に終わりますように。
廊下を歩きながら、大きな窓から見える綺麗な青空に僕は祈った。
お読みいただきありがとうございます。