第25話 その後
あの後、ボクたちは色々あった。
まず、ボクたちによって王様が沈められたあの出来事がボクのセリフだか二つ名だかをとって『非承認革命』と名付けられた。そして民族の人たちは解放され、ナユタも無事に帰ることができたらしい。『ミッドナイト・イーグル』の面々も摘発されてそのほとんどが罪人街にぶち込まれてたし、しばらく転生者が直面する危険も少ないだろう。……残りは全て洗い出してやるって、ミサキさんが息巻いていたよ。
その他にも、ボクのメールボックスには誰がボクのアドレスを流出させたのか恋文や勝負の申し込みが大量に届くし、サクはサクで、ダンジョンの経営権を返しにいった時からダンジョンマスターと親交ができ、長時間話し込んでいたそうだ。(サク曰く、ダンジョンマスターの唱えている理論がかなり面白かったとのこと。内容はちんぷんかんであった)キーラはいろんな屋台を食べ歩いたり、国の子供の遊びに付き合ったりしているみたいだ。フェードは……お城の地下室に篭って得体の知れない実験をしているという噂だ。
まあつまるところ、ボクたちはお城をうろついても何も言われないほど、全員歓迎され、また信頼もされていたのである。
……本当に、ようやく気が抜けるようになってよかったよ。街の中心にパルスエッジが刺さってたからそれも抜いて回収できたことだし、とりあえずは武器の問題も解消できた。
「……で、なんだかんだ誘われて酒場に来てしまったと」
酒場には、冤罪で投獄されていた罪人街の大勢の収監者たちがもう集っていた。冤罪が証明されたことで理不尽に収監されていた人たちは、すぐに房を出ることを許された。
それにしても困ったことに、ボクたちはあの後、すっかり国の有名人になってしまった。サクに至っては、中心的に活躍していたこともあり王位の継承まで持ちかけられたほどである。どうやらこの世界に誕生する生命はなく、前世で死んで未練が残った人たちが転生してきて人口が増えるらしい。この世界においてはそれがいわゆる『誕生する生命』なのだという。だから、正式な王の血筋なんてものも存在しない。よって、基本的に転生者であれば誰であっても王様になることはできるわけだ。
「……俺は人の上に立てる器じゃない」
でも、サクはボソッとそんなことを言って断っていた。
ちなみに、サクが断ったからボクやキーラ、ヤマト、そして銀一さんの方にも王様にならないかという話が入ってきたんだけど、ボクたちは丁重に断った。他の二人が断った理由がどうなのかボクはわからないけど、少なくともボクに一国の王様が務まるとも思わなかった。
その後、キーラが王様から取り出した〈パペットマスター〉に関しては、国で一番信用が厚く王位を継承することになった一人の女性に託されることになったようだ。
「元気してるか?」
相変わらず黒マントの出立のヤマトがそんなことを言いながら、酒場の入り口から堂々と入ってきた。途端に、黄色い声が上がる。……この前の王様撃破に結構関わったこともあって、元から人気あったのがさらに人気になってる。
「……リンネ……その、ちょっといいか?」
……驚いた。まさかヤマトから呼び出しを受ける日が来るなんて。
夕空が見える。ヤマトがボクを連れてきたのは、酒場の裏にある河川敷だった。
「や、ヤマト…お疲れ様」
ボクは、ぎこちないなりにもヤマトに声をかけることにした。
「…い、いや、実際に動いたのはお前らの方だろ。そりゃ、俺も天才として当然の速さで洗脳解除をして回ったわけだが……。
んで、本題なんだけど」
そう言いながら、ヤマトはボクを見据えた。キッパリと、何かを割り切ったように、唐突にボクに頭を下げてくる。
「お前の姉さんの件、悪かった!許してくれ、この通りだ!」
ボクは、面食らってしまった。こんなに強く、それもヤマトから謝罪されたことなんて今までになかったからだ。
「ちょ、ちょっと、いきなりどうしたの?」
「……街で見回りをしてた時、キーラから聞いてな……。お前の姉さん、お前の大事な人だったって、正真正銘初めて知ったんだ。……汚辱の数々、本当にすまない!」
「……わかってもらえて嬉しいよ。でも、意外だな……ヤマトが謝るなんて」
少し棘が伝わってしまったのか、ヤマトは苦笑しながら言った。
「おい、俺のことどんだけ嫌いなんだよ?」
「嫌いなものランキングワースト2位だった」
自分でもびっくりするぐらい舌が回った。…まあ、今は多少好きになれたんだろうけど。
「即答すんなっ!傷つくだろ!」
ヤマトは勘弁してくれよ、みたいな表情だったけど、ボクは少し意外だった。
「1位は何か、とか聞かないの?」
「聞かねえよ。自分の嫌いなものを語るとか、ダサい以外の何者でもねえ。お前だってそう言うノリ嫌いだろ?」
確かにそうだ。ボクは嫌いなものを話してくるやつは大嫌いだ。
「ヤマトって、案外さっぱりしてたんだね」
褒めたつもりだ。…少なくともボクは。
「おい、このスーパーエリートなA型に向かって失礼なことを言うんじゃねえ!さっぱりなんて当然だ。実際俺は陰口や悪口は言わねえだろ?汚ねえことは人として三流以下のクズ野郎がやること。大嫌いだ。
……だからマジで、今回のことも反省してる」
確かに、ヤマトは自慢はしても陰口や悪口は言っていなかった。…というか。
「ヤマトってA型だったの!?」
「おいおい、逆になんだと思ってたんだよ?」
この機会だ。素直に返してやった。
「協調性がないからB型だと思ってた」
「おいおいおい、B型なのはお前だろうが!」
そういえば、前世ではそうだった。と言うか、なんでヤマトはこんなにボクの情報について詳しいんだ。そして回数を追うごとに『おい』の数が増えていくのが気になるのはボクだけだろうか。
「ったく…今日リンネ毒舌過ぎないか?」
ヤマトが呆れたような顔でこちらを見てきたが、今はその顔に持つ苛立ちが少しだけ軽くなった気がする。本当に、キーラの言った通りだ。100%悪いやつって、そうそういるもんじゃないんだな。
「本心で話せって言ったのはヤマトだよ?」
「そりゃあそうだけども…」
ヤマトは苦笑した。
「…はは。…前世で言いたかったこと、ちょっと言っていいか?」
「…うん?」
前世のヤマトといえば、一方的にボクにウザ絡みしてきて、試合では攻撃的な対応をしてきた覚えしかない。
「…あの、な……」
ヤマトは、とても言いづらそうにしていた。なんとなく、ボクはこれを遮らない方がいいんだろうな、って言うのを直感した。
「…えっと…率直に伝えるけど。友達にならないか?」
意外な言葉が飛び出した。おそらくボクは、初めて告白されてポカンとしている女の子のような顔をしていただろう。
「…お前を初めて見た時から、ずっと思ってたんだよ。ずっと教室でも一人で、誰とも話さずに、ただ黙々と剣を振るってるだけのやつで。…正直に言わせてもらうと、全然生きた感じしなくってさ。だから、心配になっていろいろ話しかけたけど、結局なぜか怒らせて終わっちまったし……」
…そんなことを考えていたのか。……いや、それでも初対面の相手に『お前ボッチ』は言い方に問題があるだろ。
「で。結局まあお互いいろんな理由があって死んで、またここで会ったんだ。次は、お前はヒロインのリンネとして、俺は天才剣士のヤマトとして、友達になってくれないか?」
…不器用なヤマトのことだ、ここまでのことを言うのに、きっと相当の勇気を振り絞ったのだろう。ボクに歩み寄るためだけに。……だったら、ボクも答えなきゃいけない。次はボクの番だ。正直、全く考えていないから何を言うべきかはよくわからない。だから、感じたことをそのまま言おうと思う。
「ヤマトの言いたいことはよくわかったよ。よく話し合いもせずに拒絶して、ごめん。ヤマトのことをエンフィニに来てから知って、印象ほど悪くない奴だなっていうのはすごく感じたんだ。君のこと、まだよくわからないけど……」
これは……言っちゃおう。
「……それに、今世はお互い、敵意なしに高め合いたいんだ。だから、友達になるのもボクでよければ大歓迎だよ。
ただ、一つ言わせてね」
すうっ。ボクは息を吸った。
「ボクはヒロインじゃないんだってばああああああ!」
ボクのシャウトが、夕空にこだました。
酒場に戻ってきて5分。ボクがヤマトと話した後、サクとキーラ、銀一さんがやってきて宴会はさらに盛り上がっていた。
……でも、銀一さんはずっとぼんやりとしていた。
「……銀一さん」
ボクは銀一さんの隣に座り、声をかけた。
「……俺は正しかったのか?」
銀一さんは返事こそしたが、上の空でボクの方を見てはいなかった。……当然、複雑だよね。
サクが静かに近付いてきて、銀一さんの真正面に座った。静かな感情を目にたたえ、銀一さんの目を射抜くように見つめる。
「……権力者たちは永遠の痛みと暗闇を共にすることになったが、決して死んではいない。そして死なないと言う事は、死ぬことよりも辛い。このことを街の人たちが認識するだけで、だいぶん事は落ち着いてくる。
そうなったら、時期女王も決まったことだし、国民たちも女王も力を合わせて、二度とこんなことが起こらないように様々な工夫を凝らすだろう。腐っても人間だ」
「……」
銀一さんは黙っている。うーん、暗い。ここらで、一旦先を見据えないと……
「饂飩屋さんするのが、銀一さんの夢なんですよね」
銀一さんは、俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「……ああ」
「お店出すってこと!?銀一さんの饂飩、食べてみたい!」
キーラがニッコニコの笑顔で銀一さんに言った。
つられたように、銀一さんも笑顔になった。
「……うん。そうだな。ここらで切り替えるよ。
……3人とも、本当にありがとう」
銀一さんは腕まくりをして、酒場の入り口から出て行った。その背中は堂々としていて、何かが吹っ切れたように見えた。
「……サクは、工夫を凝らすのが人間だって言ってたけど。それでもまた事件が起きたらどうするの?」
ボクの質問に、サクはすぐ答えた。
「俺は探偵だ。また駆けつける。………それに……今は心強い仲間もいることだしな……」
サクは最後を少し濁しながら締め括った。
「サク?顔赤いよ?」
キーラが不思議そうにサクを見上げる。
「もしかして照れてる?」
「……うるさい」
ボクがちょっとからかうと、サクはそっぽを向いて無理やり話題をすり替えた。
「さあ、ことが落ち着いたら、俺たちもやることがある。ほとぼりが冷めてきたところで、この国のギルドに行くぞ」
第1章完結!一山超えた感じはあるけど、まだまだ第2章もあるから頑張らないと……




