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第15話 押してダメなら引いてもダメ

 一人目の刺客、霊媒師の田中君が無惨に破れてからはや一週間。

 俺たちは隙を見ては喫茶店に集まり、作戦を立てては刺客をあかりに送りつけていた。

 結果は全滅だ。失敗を糧に色々と試行錯誤してはいるんだが、いかんせんあかりのフィジカルが凄すぎる。

 人類最強候補のあかりを変えるには同レベルの怪物が必要だろう。しかしそんな人材がそうコロコロと転がっているわけもない。

 これまでに自称霊媒師も自称超能力者も見つけた。

 でも自称催眠おじさんだけがどこにも見つからない。催眠おじさんさえいれば全て解決するというのに、なんで現れないんだ……!


「ちょっと、ふざけてないで真面目に考えてくれる!?」


「考えてるわ! お前も少しは催眠おじさんの重要性を理解しろ!」


「なんなのその人! どうせなんかのアニメとかでしょ! キモイからやめてくんない!?」


「くっこのアマ……! 涼華もなんとか言ってくれ!」


「薄い本の見過ぎ」


 涼華、お前まで……。

 どいつもこいつも俺をただのオタクだと思って見下しやがって。

 というか、そもそも久遠さんの人を見る目がダメなんじゃないのか。

 連れてくるやつみんな出オチみたいにあかりにぶっ飛ばされるし。

 百人斬り企画じゃねえんだぞ。真面目に人材集めてくれよ!


 ……だめだ、熱くなるな東雲清太。

 クールになれ。

 感情に任せて怒鳴ったって有意義な話し合いはできないじゃないか。

 俺は一息つくためにコーヒーを口に運ぶ。空だった。

 どうやら相当に話し込んでいたみたいだ。

 俺はコーヒーカップを置いて、同じものを頼もうと店員さんに目を向ける。

 すると横から俺が頼もうとしていたコーヒーが差し出される。


「はい。これサービスね。最近たくさん来てくれるから」


「え、あ、ありがとうございます」


 楽しそうに微笑む店員さんにお礼を言って受け取る。

 この喫茶店の店員は毎回この人だけだけど、他にいないのか?


「作戦会議? 面白そうなこと話してるよね、いつも」


「ははは……そんなでもないですよ」


 聞かれてたのか。

 まあ当たり前か。他に客がいないことをいいことに、割と迷惑を気にせずに話してたし。

 むしろ今まで一回も注意されなかったのが不思議なくらいだ。


「人の心を変えるって簡単にはいかないとわたしは思うな。

 心っていうのはね、その人の本質なんだ。だから人は変化を恐れるし、拒む。強引に変えようとしても強く反発するだけじゃないかな」


「それは、そうですね」


 もしかして諭されてる?

 ばかなことしてないで学生は勉強しろってか。

 こっちは本気だっていうのに。


「あ、一応言っておくけどやめろなんて思ってないよ。

 ただね、アプローチを考えた方がいいかもしれないかなって話をしてるんだ」


「アプローチ?」


「そう。押しても引いても抵抗は生まれる。ならどうすればいいと思う?」


「記憶を抹消します」


「涼華、その手があったか!」


「あはは、それもアリかも」


 店員さんは面白い答えを聞いたとばかりに笑う。

 これは光明が差したんじゃないだろうか。

 あかりの記憶を俺に告白する以前に戻せば全て解決だ。


「うーん。不都合な記憶をピンポイントで抹消する手段はわたしの知る限り存在しないね。拷問に近いやり方で強力な負荷ストレスを与えることで記憶をごっそり飛ばすことは可能かもしれないけど、倫理的に難しい」


 店員さんは難しそうな顔で言った。

 どうやらあかりの記憶を消して関係を元に戻す手段は不可能らしい。

 なんでこう現実っていうのは不可能ばかりなのかね。神様にでもなればこんなことで悩んだりもしないのに。


 俺ががっくりと肩を落としていると、涼華が店員さんに問う。


「参考までに、その手段を教えていただけませんか」


「あれ、興味あり? かわいい見た目でなかなかサディスティックな思考をお持ちだね」


「あくまで参考です。興味なんてありません」


「……きみには、ちょっと言えないかな」


 涼華、顔が怖いぞ。

 店員さんに迷惑をかけるんじゃない。

 せっかくの集会場を出禁にでもなったらどうするんだ。


「そうだ!」


「うわ、なんだよ急に」


 バンっとテーブルを叩いて立ち上がった久遠さん。

 久遠さんは自信満々に言う。


「押しても引いてもだめなら誘導すればいいのよ!

 今のあかりはヤンデレなんでしょ! それであんたが好きって言うなら、まずはそのヤンデレをどうにかした方がいいわけじゃん!」


「いやだから今までもそういう話だったろ?」


「は? あたしはあかりと前みたいに仲良くできればいいだけだし」


「なんだァ? てめェ……」


「お兄ちゃん、落ち着いて」


 危ない。

 涼華が止めてくれなかったら正気を失っていたところだ。

 そういえば久遠さんはあかりと仲直りすることが目的だった。

 自分のことばかり考えてて久遠さんの目的を忘れてた。


「じゃあ具体的にどうするんだよ」


「それは……わかんない!」


「脊髄で話すのやめてくれる? これだからギャルってやつは」


「なによ! さっきまで催眠がどーとか言ってたくせに! あんたの方こそ空想と現実の折り合いつけてから口開いてくんない!?」


「あんだと!」


 立ち上がって睨み合う。

 この女、最近態度がデカくなってきたな。

 下手に出てれば好き勝手俺を罵倒しやがって。それはあかりの仕事だろうが。


「あはははははははは!」


 俺たちを見て、店員さんが腹を抱えて爆笑する。

 ……ちょっかいかけて楽しんでただけだったのか。人畜無害そうに見えて結構いい性格してるな。

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