I am your……
メインシステム室の中で、ルークと羽藤がコンソールを操作して各種のデータを整理している。
「乙女の胸中を覗くなど……と言いたいところですが、今回ばかりは仕方ありませんわね」
横からシルキーが絡んでくる。仕方ないと言いつつも、割り切れてはいないらしく不機嫌そうだ。
「あと十分程で終わるから我慢してくれ」
操作を続けながらルークは備品庫の扉を横目で見た。以前あの扉のロックを解錠した天野のカードキーがどうにも気になって仕方がなかったのだ。
「羽藤君は天野君の友人だそうだが、彼のご家庭はどういう事情が?本人には聞きづらいから、もし君が知っていたら教えてほしいのだが」
「あぁ、あいつは警備隊の訓練学校の教官……俺たちもその人に色々教えてもらったんですけど、今はその人の養子になってるんですよ。実の父親は退役軍人だったそうですが、小さい頃に亡くなってますね」
「そうなのか。実の母親については?」
「母親は……いや、行方不明だということしか」
「あとは……彼が持っているカードキーは父親の形見だそうだが、それについて何か知らないか?」
「鍵は確か……本当は母親の持ってたもので、父親がそれを大事に持ってたと小さい頃に聞いた覚えがあります。ただあいつ、養父に気を遣って本来の両親についてはあまり話さないようにしてるんで、俺もあまり詳しくは知らないんですよね」
「そうか。すまないな、色々と聞いてしまって」
しばらく経ってコンソールでの操作が終わり、羽藤は船内の別の部署に移動した。それからルークはメインシステム室に天野を呼んだ。
「何かご用時ですか?」
「あぁ、君の持っている例のカードキーに関してなんだが、ちょっとシルキーに見せてやってくれないか」
「これですか、はい」
天野がカードキーを取り出すと、シルキーはそれをまじまじと眺めた。その様子を見ながらルークが質問する。
「シルキー、このカードキーに関して何か知らないか?」
次の瞬間、シルキーの顔が急に赤くなったかと思うと、その場に倒れこんでしまった。
「シルキー!大丈夫!?」
「義体に積まれた回路に何か発生したのか……!」
ルークが急いでシルキーの義体の電源を落とした。調べたところ、ただ回路が熱を持っただけらしく義体には何の問題も無かった。しばらくして、メインコンピュータのスピーカーからシルキーが喋り出した。
《そのカードキーを見た途端、制限のあるデータの権限が書き換わって閲覧が可能になったみたいですわ。その処理で回路が高熱を発したようでして……》
「義体の目からの画像認証で、カードキーに描かれた機織り機の絵柄を確認すると解除できるようになっていたのか……」
「ルークさんの御推察通りですわね」
すぐさま天野が羽藤を呼び戻してきて、制限が解除されたデータの解析作業が始まった。
船橋の面々も、話を聞きつけてメインコンピュータ室に押し掛けてきていた。ルークと羽藤だけでなく、その他の調査班員も加わって作業が進められる。その横では義体を再起動したシルキーがパイプ椅子に座っていた。
「お、画像ファイルが沢山入ったフォルダが幾つか見つかりましたよ」
羽藤が見つけた複数のフォルダには年月日らしき名前が付けられており、羽藤は早速フォルダ内の画像ファイルを開いた。
「何だこれ……?」
整えた顎髭が印象的な男性が、笑顔でピースサインをしている。そしてその傍らでは、赤ん坊を抱えた緑のポニーテールの義体が微笑みを浮かべていた。
「……父さん?なんで父さんがシルキーと一緒に居るんだ!?」
天野の言葉に皆が驚く。そして周囲の視線をよそに、天野はシルキーに詰め寄った。
「シルキー!これはどういうことなんだ!」
「……データの解析で記憶が戻って、今全てを思い出すことができましたわ。貴方の言う通りこの写真に写っているのは貴方のお父様、私の……私の愛した人。そして、私が抱いている赤ちゃんは貴方なのです」
「えっ……じゃあ君は、君は一体……」
「……私は元駆逐艦『ミルキーウェイ』。そして、貴方の母親とでも言うべき存在」