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紅茶の達人

「ねぇ、なんで開かずの間になってた備品庫の中にシルキーの義体があったんだ」

「それが解らないんですのよ」

 しばらく航海に出る予定が無いシルクロードの船橋では、シルキーの義体について天野が幾つかの質問をしていた。

「じゃあなぜ自分が初めて乗船した時に、『今のところ義体は搭載しておりません』って言ったの」

「その時は義体に関するデータが欠損していたので、そういう言い方しかできなかったのですわ」

 シルキーと天野の横で、ルークがうんうんと頷きながらメモを取っている。

「……技師長、これはいつまで続けるんです?」

「まだ質問は沢山あるぞ」

「自分でシルキーに聞けばいいじゃないですか」

「君じゃないとシルキーがまともに受け答えしてくれないんだよ」

 天野は正直疲れていたが、なるべくシルキーの義体について不明な点を減らしていきたいとルークが言うので、仕方なく付き合っていた。

「えーと。前はやかましく喋ってたのが、義体に接続した途端にお淑やかになったのはなんで」

「技師長はもう少し言葉を選んだほうがよいのではなくて!」

「すまない、質問は急ぎで用意したものだから選ぶ余裕が無かったんだ」

「まぁそれは置いておくとして。義体に残されていた過去のデータがメインシステムにフィードバックされて、人格に影響したようですの」

「船舶用人工知能の複雑な感情や知性は、船舶で運用されていくうちに形成されるとは言うが……もしや記憶が一部無くなっていたということか?」

「多分、そういうことなのでしょう」

 それからも、質問は長らく続いた。


「で、結局どうなったんだ」

 船橋へ天野たちの様子を見に来た瀧尾が聞くが、天野は管制士席でげっそりしていた。

「技師長が今メインシステム室でシルキーの各部を色々調べてるみたいですけどね、怪しい箇所がかなり多いみたいです」

「ううむ。確かにシルキーには昔のことを聞いても答えてくれなかったりはしたが」

「リノさんも前に言ってましたね。あれは答えないんじゃなくて、答えれないんだそうです。データが欠損してたり、シルキー自身にも解けない閲覧制限のかかったデータが大量にあるとか」

「なんだよそれ……」

「とりあえず交通調査部の本部に問い合わせの文書を送っておいたんですけどね」

 そんな会話を交わしていると、調査が終わったのかシルキーが船橋に上がってきた。しかしなぜか備品庫に放置されていた段ボール箱を持っている。

「天野さん。備品庫にこんなものがありまして」

 中にはホコリを被ったティーカップとソーサーが2つずつと、ティーポットが入っていた。天野はホコリを落とすために一度洗うことを提案し、シルキーと共に基地内の水道がある場所に向かった。


 ティーセットを洗い終わると、シルキーが急に頼み事をしてきた。

「このセットで紅茶を淹れてみたくなってきましたの。茶葉はありません?」

「いいけど、茶葉はすぐに用意できそうにないなぁ」

 二人は購買に行ってみたが、流石に茶葉は取り扱っていなかった。その後シルクロードに戻って瀧尾に聞いてみたところ、偶然リノがキラッゼ港の近くにあるスーパーマーケットに行っているというので、携帯端末で連絡して買ってきてもらうことになった。

「はい茶葉。代金は経費じゃ落とせ無さそうだし……天野君からかな」

 船橋に来たリノから代金を徴収される天野をよそに、シルキーは早速紅茶を淹れる準備を始めた。停泊中と言うこともあって船内の調理場は使われていないため、シルキーはやかんでお湯を沸かし始めた。

「おい、本当に大丈夫なんだろうな」

「シルキーって調理技術なんてあったかな」

「もし義体にそういうデータがあれば大丈夫だと思いますけど……」

 調理場のドアから、瀧尾とリノと天野が3人で様子をのぞき込んでいた。義体のデータによって少し落ち着いたとはいえ、シルキーが調理をすれば何か問題が起きるのではないかと気が気ではなかった。

「これをこうやって、茶葉はダージリンだからこうして……」

 しかし、予想とは裏腹にシルキーは慣れたような手つきで準備を進めていく。

「……シルキーに何をやらせとるんだね?」

「あぁ、備品庫にあったティーセットで紅茶を淹れたいと言い出したそうなんですが」

 天野たちのところへ、保尊とルークまでやってきた。5人でシルキーの手さばきを眺めるが、保尊は不可解そうにしている。

「技師長、義体の過去のデータに紅茶の淹れ方に関する物はあったか?」

「いえ、そのようなものはありませんでした。なのになぜ……」

 そうしているうちに、シルキーは紅茶を淹れ終わり、2つのティーカップに注いで持ってきた。

「はい天野さん、どうぞ。お熱いのでお気をつけあそばせ」

「え、自分?」

 他の面々が見つめる中、天野はカップを口に当てて紅茶を飲んだ。

「……美味しい」

 天野が呟く。保尊たちも味を確かめようと、調理場にあったコップを持ってきた。

「いけませんわ、これは私が天野さんに淹れた紅茶ですもの。……といっても茶葉を買ってきてくださったリノさんのこともありますし、特別に」

 そう言ってシルキーは4つのコップに紅茶を注ぐ。各人は紅茶を飲むと、やはりその味に驚いた。

「……シルキー、君はどこでこの技術を?」

 ルークが聞くので、シルキーは顎に手を当てて考えた。

「やっぱり解りませんわ。閲覧制限のかかっているデータかもしれませんわね」

「そうか……交通調査部の回答待ちだな」

 シルキーはカップに入れた自分の紅茶を飲み、少し遠い目をした。

「なんだか、懐かしい味ですわ……」


 翌日、船橋で天野とシルキーが紅茶を飲みつつ会話をしていた。

「そういえばシルキーは、なんで全ての船舶用人工知能が女性の人格なのか知ってる?今までいろんな船に聞いたけど、誰も知らなかったんだ」

「データが欠損していたりする私に聞いても、知っているわけがないでしょう」

「ごめんごめん。でも人工知能とかには凄い技術が使われてるけど、あんまり公表されてる部分が少ないよね。義体に食物をエネルギーに変換できる構造が積まれることについても説明が無いし」

「人工知能と義体の製造は月の工場が独占していますけど、最初に造った方の想いが何かしらあったのではなくて?そういう理由でもないと説明が付きませんわ」

「確かにそうかもね。こうしてシルキーと一緒に紅茶を飲めるのも、最初に義体を造った人のおかげなのかも。その人も義体と一緒に食事をしたかったのかなぁ」

「そうかもしれませんわね」

 シルキーはそう答えつつ、天野と共に過ごす時間を心地よく感じていた。

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