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キラッゼ港に来た新人

  西暦2100年代の終わり頃に太陽系内をあらかた開拓し終えた地球人類は、テラフォーミングを行った惑星や衛星に都市を築き、宇宙空間に多数のスペースコロニーを建設。豊かな生活を送っていた。

 しかし2200年代に入ってから太陽系外に進出してみたところ、複数の異星文明と遭遇。幸いなことに戦争が勃発することは無かったが、各国と国交を持ったことで複雑な利害関係に巻き込まれる形になってしまった。また他国との関係を考え、西暦2204年に地球人類は太陽系内を自国領とする「ブルーアース連邦」を樹立、対外的には地球は「ブルーアース星」、地球人類は「ブルーアース人」と名乗ることとなった。


 キラッゼ港は、冥王星のキラッゼクレーターに整備された宇宙港である。宇宙港といっても冥王星もテラフォーミングによって地球と同じ大気を有する天体となっているため、整地・舗装された地表に宇宙船が停泊している。もちろん人間も問題なく外を歩くことができた。

 太陽系外で活動する大型貨物船には1000mを超すものもあり、それに合わせてキラッゼ港は桁違いの面積を有している。そのため、天野は港内に敷かれた鉄道で沿宙域警備隊の基地へ向かっていた。

《まもなく「沿宙域警備隊基地前」、「沿宙域警備隊基地前」です》

 基地のゲートは駅の改札を出てすぐだった。ゲートの前には二人の隊員が立っており、天野を出迎えてくれた。片方は真面目そうな男性で、もう片方は落ち着いた雰囲気の女性だった。

「予定より約2時間早い到着か。少し早すぎるような気もするが、上出来だな」

「交通の便が悪い辺境の基地なせいで、新人は毎年予定の時間ギリギリか遅れて到着するんだ。今年の新人君は珍しいね」

 遅刻しなかった自分が珍しいと聞いて目を丸くする天野だったが、気を取り直して自己紹介をする。

「天野大河と言います。今日からこの基地に配属になりました。これからよろしくお願い致します」

「俺は瀧尾隆二たきおりゅうじだ。期待してるぜ」

「リノ・ニュートン。よろしくね」


 基地の本部長のスケジュールが空いていたので、予定より早く本部長と新人の顔合わせが行われた。

「君が天野君だね。これからよろしく頼むよ」

「精一杯頑張ります。ところで、自分以外の新人はまだ到着していないのに顔合わせの時間を早めて良かったのですか?」

 それを聞いた本部長は苦笑いしながら今年度の新人の名簿を取り出す。その名簿は殆どが空欄だった。

「今年の冥王星基地配属の新人は君だけなんだ。この星は住むには少し不便だからだろうがね」

 本部長にまで言われるとは冥王星はよほど住みにくいのだろうと、天野は今後の生活に少しだけ不安を覚えたが、その代わり沢山の船に会えると考え不安を紛らわすことにした。


 時間が大分余っていたので、天野は二人に基地の中の施設を案内された。基地内の隊員の食事を一手に担う食堂、煙草や酒も数種類扱っている充実の購買、そこそこ広く石鹸とシャンプーは備え付けの浴場、少し狭めだが一人一部屋の宿舎など、住み込みで働く公的機関の施設にしてはかなり豪華である。本部長の言葉を聞いてある程度の覚悟を決めていた天野は、意外な光景に驚いた。

「石鹸が備え付けで買う必要が無くて、部屋も一人ずつ割り当てなのになんで新人がこんなに来ないんですか?」

 天野の疑問を聞いた瀧尾は笑い、天野の肩を叩いた。

「そうじゃない。これぐらいはしないと誰も配属されたがらないんだ。お前しか来てないのが何よりの証拠だ」

 リノが携帯端末の画面にキラッゼ港付近の地図を表示し、天野に見せながら説明した。

「キラッゼ港って大型の貨物船とか軍艦とかが沢山来るから、墜落した時の被害を大きくしないために近くに大きな都市が造れなかったんだ。近くにあるのは船員や港湾作業員向けの定食屋と居酒屋が数件とスーパーマーケットが一件だけ、そこに行こうにもキラッゼ港自体が広いから鉄道に乗らなきゃだし」

「生活には困らないけど、娯楽のための施設が無いって感じなんですね」

「娯楽施設が無いぶん貯金がしやすいってのはあるがな。特にこの基地は衣食住の費用が殆ど警備隊持ちなのも大きい」

「自分で娯楽を見つけれる人ならそんなに問題は無いんじゃないかな。私はゲームに課金したりしてるし」

 そんな会話を交わしつつ、一行は天野の配属先となった巡視船が停泊している第8岸壁へ向かった。

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