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星色菓子職人

 宇宙空間を航行中のシルクロードの船橋では、シルクロードが淹れた紅茶を皆が飲んでいた。

「紅茶だけでも凄く美味しいけど、お茶菓子もあるといいよね」

 リノが呟くと、シルキーがむっとしながら答える。

「とはいいますけれど、お菓子は購入していませんのよ」

「『図書館彗星』へ寄港した時に買えばよかったのに」

「茶葉の代金は天野さんのポケットマネーから出していますし、お菓子まで用意する余裕はございませんわ」

「お菓子の代金ぐらいなら私が出すよ」

 リノの言葉を聞いて、瀧尾が急に反応した。

「次の寄港地が火星のカンドル港なんだが、そこの近くに有名なパティスリーがある。そこのアップルパイがおすすめだ」

 天野は呆気にとられる。仕事熱心で冷静な瀧尾がそのような発言をするとは思いもよらなかったのだ。

「あれ?天野君は瀧尾君が甘いもの好きってことは知らなかったの?」

「全く知りませんでした」

「いつもどこかに寄港する度にお菓子買ってるんだよ。ネットじゃお菓子レビュアーとして名を馳せてるし」

 リノが携帯端末の画面を天野に見せる。SNSでの瀧尾のアカウントが表示されているが、投稿した菓子の写真は数万単位で閲覧されていた。

「大昔は男が甘いものを食べると軟弱者扱いされたなんて話も聞くが、今はいい時代だよな。俺みたいな奴でもこうして色んな甘いものを楽しんで、それを沢山の人に共有できるんだから」

 瀧尾は笑顔で語った。


 火星のカンドル丘に造られた港、そこでシルクロードがエネルギー補給を行うことになっていた。スペースコロニーの「図書館彗星」で食料などの物資の搬入のみを行っていたため、残っているエネルギーは少なかった。補給作業は長時間かかるということであり、船橋の要員は保尊を残して船を降りていた。港町の中を走るバスに乗って彼らが向かったのは当然瀧尾が勧めたパティスリーだったが、問題が発生した。

「まさか臨時休業とはね」

「俺が営業時間を調べた時はそんな情報は出ていなかったんだがなぁ」

「SNSの公式アカウントだと、臨時休業が発表されたのは3時間前みたいです」

「『パティシエが体調不良で味を保証できないため』……職人ですわね」

 仕方がないので、彼らはカンドル港に戻るため再びバスに乗り込んだ。しばらくして、瀧尾がいきなり停車ボタンを押した。どういうわけか、彼の目は輝いている。

「途中のバス停で降りるんですか?」

「今な、道路沿いにまだ見ぬ菓子店が見えた」

 一行はバス停で降り、少しばかり歩くと道路のすぐ近くに建つ「永芋」と書かれた看板を据えた和菓子店にたどり着いた。早速瀧尾は店内のおばさんにお勧めを聞く。

「この店の定番は芋羊羹さ。この町の近くの農場で、火星のテラフォーミングが終わってすぐの頃から栽培され続けてるサツマイモで作るんだよ」

「なるほど、それならその芋羊羹を5つください」


 シルクロードの船橋に戻ると、瀧尾はSNSに投稿するための芋羊羹の写真を撮影した。保尊は後で食べるということで、芋羊羹を受け取った後で別の部署に行った。

「未開拓の場所を見つけると気分が上がるのって、やっぱりどのジャンルでも同じなんだね」

 リノがうんうんと首を縦に振る。

「……芋羊羹って紅茶に合うんですかね?」

「どちらかといえば緑茶や麦茶と合わせたほうが良いのでしょうけども。ストレートティーにしましょうか」

 シルキーが紅茶を淹れ終わると、早速4人は芋羊羹を食べた。サツマイモの食感を少し残した羊羹を噛む度に程よい甘さが口に広がる。

「これは『当たり』だな……SNSはやってないから知名度はそんなにないと店主は言ってたが、この芋羊羹はもっと評価されるべきだ」

 全員が食べ終わると、瀧尾はSNSに投稿する文章を書き始めた。その背中を見て天野とシルキーが残りの紅茶を飲みながらぼやく。

「どことなく背中が大きく見える」

「瀧尾さんのお菓子に関する情報は頼れますわね、また参考にいたしましょう」

 瀧尾のレビュー文章の推敲は、自由時間が終わる直前まで続いたという。

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