巨砲鳴動、コデ・マイシツク
EEZ外縁部の警備に出るために冥王星を発進するシルクロード。しばらくして、宇宙空間に浮かぶ見慣れない構造物が船橋の窓から見えた。瀧尾とリノが話を始める。
「あれが『プレゲトン』か」
「太陽系防衛戦略の要だって聞くけど、他の国からしたらどう見えるんだろうね」
「既にサンター帝国から非難声明出されたって言うしな」
「ま、天野君には政治的なお話は関係無いみたいだけど」
リノの言う通り、天野は巨大な宇宙要塞を建設するために集まった宇宙船たちを見て心を躍らせていた。
「私というものがありながら……よよよ」
シルキーがわざとらしく泣き真似をするので、天野は慌てて管制士席の端末に視線を移し、点検を始めた。
「これからワープで太陽系外に出るって時に大丈夫かな……」
「その不安要素を無くすための『話相手』だったんだがな……まさかこんな関係になるとは予想もしなかった」
瀧尾と保尊は呆れ気味に二人を見ていた。
「ワープアウトしました。現在位置は太陽系外EEZ、小惑星エップルの周辺宙域です」
瀧尾は無事にワープアウトできたことに安心しつつ、報告する。しかし、安息の時は長くは続かなかった。
「レーダーに反応有り。識別信号は……サンタ―の空警です!」
リノの扱うレーダーシステムから情報がメインコンピューターに周り、シルキーが解析・照合を行う。導き出された答えにシルキーは驚愕した。
「サンター帝国軍第三艦隊所属、砲艦『ユモ・マイシツク』……退役したという情報はありましたが、まさか空間警備局に転用されていたなんて」
シルキーが船体各部のカメラを作動させ、レーダーで捉えた船を確認する。その船は小惑星エップルに横付けするようにして停船しており、ホログラム映像投影システムにより旗を掲揚していた。白を下地に黄色い丸が円形に配置され、中央に赤い星が大きく描かれたその旗は、間違いなくサンター帝国の国旗であった。
「領有権を主張しているのだろうが……」
保尊は由々しき事態だと判断し、各員に情報収集の徹底を命じる。
「見たところ兵装は殆ど撤去されていませんわね。流石に登録船名は警備船に変更されたようですが、シュネーカ砲まで維持するとは」
シルキーのカメラが警備船を睨む。船体に書かれた文字はサンター帝国の言語で、「コデ・マイシツク」と書かれていた。サンター帝国の公船は船種や艦種を表す単語が頭に付くようになっており、「ユモ」は砲艦、「コデ」は空間警備局の船であることを表す。サンター帝国の空間警備局はブルーアース連邦の沿宙域警備隊と同等の組織だが、コデ・マイシツクの武装は警備船としては過剰なものであった。
「意図としては、プレゲトンの建設を進めるブルーアース連邦に対する報復措置……といったところか」
保尊は悩んだ。プレゲトンは太陽系外から迫る敵に対し遠距離攻撃を行うシステムを搭載した要塞であるが、そのシステムの射程圏内には今現在シルクロードが留まっているエップルの周辺宙域も含まれている。この宙域は領有権を主張するためにサンターの公船も定期的に来訪するが、その公船をプレゲトンで攻撃することが可能だと、サンター帝国政府は非難声明を出したのだ。
「表面部への人員の降下、ボーリングなどによる資源探査などの行為は認められません。無害通行権の範囲内ですから、これでは接近して退去を勧告する以外の行動は無理ですわね」
星間国際条約では、機関の不調や重力制御システムの異常などの緊急時に船体を安定させる必要性などを考慮し、採掘行為や人員の降下を伴わない小惑星への横付けは無害通航権の範囲内であると定められている。しかしコデ・マイシツクの行動は政治的なアピールとしては十分であり、対処の必要はあった。
「瀧尾操舵士、警備船への接近を。天野管制士は電光掲示板による退去勧告を行ってくれ」
瀧尾の操舵で警備船への距離が狭まる中、天野はサンター帝国の言語で退去を要求する文章を電光掲示板で表示した。回答は船内の誰もが予想していなかったものだった。
「コデ・マイシツクより発砲反応!」
リノのレーダーシステムが警報音を鳴らす。次の瞬間、エネルギー砲から放たれた光がシルクロードの右舷を通過した。
「威嚇射撃だと!?いくらなんでもやり過ぎだ!」
保尊が声を張り上げる。天野が手元の双眼鏡で警備船を見ると、巨砲が細かく揺れ動いているのが確認できた。
「射角を調整している!?」
それを聞いて、シルキーはカメラを用いて砲口の向きを確認し、予想される射線をレーダーシステムに反映した。
「私の操船で回避行動をとります!」
「よし、そのまま現宙域を離脱しろ!これは私たちの手に負えない問題だ!」
保尊が指示を出し、瀧尾からシルキーに操船権が移る。コデ・マイシツクから距離を取るため、シルクロードは回頭しつつ離脱の準備を始めた。
「発砲反応!」
再び光が通過する。先程の砲撃より近い位置を通ったことから、シルクロードに狙って照準を調整していることは明白であった。シルキーはサブエンジンを点火して速度を上げつつ、ワープによる離脱を図った。
「シュネーカ砲が直撃すれば、一発で轟沈してしまいますわ……!」
大口径、高威力、長射程のシュネーカ砲。コデ・マイシツクの小柄な船体には少し不釣り合いとさえ思える巨砲が、シルクロードへの砲撃を執拗に繰り返した。船体を掠めかねないほど至近を通過する一発もあり、内心焦りつつもシルキーは的確に対処する。
「準備完了!ワープしますわよ!」
シルクロードのメインエンジンから青い光が激しく噴射され、船首が空間を切り裂く。その裂け目に船体が突入し、シルクロードはその宙域から姿を消した。




