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冥王星で恋愛を

 西暦2235年3月20日。月面都市内の沿宙域警備隊訓練学校では、卒業式が執り行われていた。

「天野大河!」

「はい!」

 卒業生の一人、天野大河(あまのたいが)は大きな返事をして校長から卒業証書を受け取った。


 卒業式が終わり、宇宙港に集まった卒業生たちはそれぞれの配属先へと向かう。

「天野!おーい!」

 天野を呼んだのは、親友の羽藤(はどう)聡史郎(そうしろう)だった。

「羽藤!お前希望の交通調査部に入れたんだってな、良かったな!」

「ありがとう。そういえば天野の配属先をまだ聞いてなかった。希望は巡視船勤務だったよな?」

「あぁ。それなら……」

 天野は鞄から書類を取り出して羽藤に見せた。すると、羽藤の顔はみるみると曇っていく。

「天野、お前冥王星基地に配属なのか……。あそこ最前線なうえに生活しにくいって聞くけど、いいのか?」

 羽藤の心配をよそに、天野は満面の笑みで返す。

「いいんだ。最前線だから警備隊の巡視船だけじゃなくて軍の艦艇も居るだろう?色んな船に会えるんだから自分にとっては素晴らしいところさ」

 それを聞いた羽藤は、ため息を吐きつつも安堵する。

「お前ならそう言うだろうなとは思った。でも、配属先の人とは上手くやるんだぞ?お前は人間との付き合い、特に女性の扱いが下手っぴだからな」

「解ってるって。……お、もう少しで冥王星行きの船が出る」

「それじゃ元気でな、たまには連絡してくれよ!」

「そっちも!じゃあな!」

 そうして天野と羽藤は互いに手を振りながら別れた。


 天野の配属先である冥王星へは、中型の貨客船で向かうことになっていた。天野は割り当てられた船室に荷物を置いて、それから窓から宇宙空間がよく見えるラウンジでくつろいでいた。外を眺めていると、他の船舶とすれ違ったり、資源採掘のため小惑星を掘り進めている作業船団と遭遇したり、スペースコロニーの外壁を修理している工作艇を見かけたりする。それらを天野はうっとりとした表情で眺めていた。

 しばらくして、そろそろ船室に戻って睡眠をとろうと思い立ち上がった天野の目に映ったのは、ラウンジのテーブルを拭きとっている作業服を着た女性型アンドロイドだった。一見すると普通の女性のようでもあるが、首の裏に電源ケーブルのコネクターが着いていることから機械の身体であることが解る。天野は声をかけた。

「こんにちは、貴女はこの船の義体ですか?」

「はい、この『ヴァニーシア号』の義体です。何かありましたか?」

「いえ、この船はいい船だなって思って。それを一言伝えたかっただけです」

「まぁ。お世辞が上手なんですね」


 西暦2200年代に入ると、ほぼ全ての宇宙船には省人化や船内作業効率の向上を目的として、人工知能が搭載されるようになった。初期のものでは船のメインコンピューターに直接搭載されていたため船内の端末から会話を行っていたが、船が事故などで沈没した際に人工知能を回収するのに失敗する事例が複数回発生した。そこで2210年代には人型統括制御デバイス、通称「義体」と呼ばれるアンドロイドに人工知能を搭載することで機能はそのままに、事故が発生した際にはすぐ船外へ逃げ出せるようになった。最初は新型の軍艦から始まった義体システムだったが、今では殆どの船舶や艦艇が義体システムを採用している。


「でも義体なのに、なんでラウンジで掃除をしてるんですか?」

「人手が足りないんですよ。この船は月面から冥王星までの定期便ですが、長時間の航海なうえに母港の冥王星がちょっと生活しづらい場所なので、人が集まらないし、雇えてもすぐ辞めちゃうんですよ……」

「大変なんですね……」

「でも、こうしてお客様にいい船だって言ってもらえたので元気が出てきました」

「それは良かった!」

 それからラウンジを離れた天野は船室に戻って睡眠をとり、配属先での業務に備えた。


《冥王星、キラッゼ港に到着いたしました。ご利用ありがとうございました》

 船内に、ラウンジで話した義体と同じ声のアナウンスが響く。天野はヴァニーシア号を降りると、キラッゼ港内に置かれた沿宙域警備隊の冥王星基地へと歩き始めた。キラッゼ港には太陽系外との貿易に使われる大型貨物船が数多く停泊しているほか、遠くに目をやると軍の基地に停泊している何隻かの巡洋艦が見えた。

「ふふ、ワクワクしてきたぞ。こんなに素敵な船が沢山居るなんて!」

 天野は思わず声を上げた。

 天野は船と、船舶用人工知能が好きだった。訓練学校でも練習船の義体と仲良くしてばかりいたので、付けられたあだ名は「船に恋する男」であった。

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