お礼参り
「あ〜もしもし……はい……はい。
ええ、それで依頼とか関係なく僕達が勝手にそこに行ったって事にしてくれれば。
まぁ、そうですね……教えてくれないのであれば、こちら側の神様の手を借りることにしますよ。
いやいや、僕達が悪辣な訳無いじゃないですか。
単に後輩が世話になったからお返しに行くだけですんで……はい、はい。
○○県の××山の中ですね……はい。
じゃあ、ちょっくら行ってきますんで。
情報ありがとうございます、巫女先輩」
自分たちの先輩である巫女に電話をかけていたユウは欲しかった情報を見事に引き出して通話を切った。
「場所は分かったようじゃな……しかし、何じゃな。
ユウも電話ではしっかりとした敬語を使うんじゃな」
「言葉だけだと誤解される事も多いからね。
じゃあ、早速行こうか。
ルーナ、全部聞こえてたと思うからお願い」
大きな袋を背負ったユウがそう叫ぶと玄関の扉がガチャリと開く。
だが、開かれたドアからは森の中といった光景が広がっていた。
「相変わらずお主の空間魔術は見事じゃな」
「大体の場所しか分かりませんから適当にしか繋いでいないですよ。
後の調査は自力で頑張ってください」
「オッケ〜オッケ〜、こういうのは手慣れたもんさ」
「何度同じような事をやってきたか分からんからのう。
サクッと終わらせてこようぞ」
♢ ♢ ♢
また、我の縄張りに無断で侵入してきたものがいたか。
以前と同じ連中ならば実に美味しい獲物だ。
あれだけ極上の霊力を持つものであるならば我を更なる高みに昇らせてくれるだろう。
………今度の人間は2人、しかも片方は幼児か。
何の力も感じぬ辺りただの迷い人であるようだな。
!?……まさか?
遠見の術で見ているのに目が合った?
いや、偶然に決まって……そこにいたか?
なん!?
♢ ♢ ♢
「見られておるのう」
「だね……おかげさまで位置が把握できたよ、アレだね」
「おお、おお、驚いておるのう。
ならばサッサと終わらせるとするかのう」
「んじゃ、サクッと行きますか」
ユウはそう言うと足に力を込めて一息に飛び上がる。
目標に向かって一直線に飛ぶその姿は解き放たれた矢……いや、その勢いは銃弾のようであった。
「な……お前は一体何者なんだ」
突如として目の前に飛んできた人間に対して上位妖怪……蜘蛛に女性の上半身が生えた妖怪は大いに動揺していた。
「名乗るつもりもないから気にしなくていいよ。
ただ、可愛い後輩がお世話になったみたいだからお返しをしておこうかと思ってね」
「ふ、ふざけた事を!
我が結界の中で封じてくれるわ」
蜘蛛の妖怪はそう言うと両手を合わせる。
徐々にユウの周りの空間が暗闇に閉ざされていく。
その暗闇が薄くなって消えた時にはユウの姿は跡形もなく消え去っていた。




