某大手焼肉屋さんに 2
「元々、魔物という生き物は限界以上に魔力を溜め込んでしまった為に、それに適応する為に動物から魔物へと変化したと言われておる。
魔力が溢れてしまう前に器を大きくしたと言えば分かりやすいかの?」
「なるほど……溢れるとかだと優しい言い方だけど、要はパンパンに膨れた風船だよね。
破裂したらバラバラになって死んじゃうみたいな」
真面目な会話をしながらも肉をジュウジュウと焼くことは忘れない2人。
食事をしながらもマオは器用に魔力を用いて目の前にデフォルメされた牛の魔物のイメージ映像を出した。
魔力によって制御された映像なので、この場でこれを確認できるのはユウだけである。
何か問題が起こるということは無いだろう。
「結末はあっておるのじゃが風船を大きくするのは難しいからのう。
今回は器と表現させてもらった訳じゃ……が、この器は無理やり広げた為にかなり歪じゃ。
正気を失って暴れまわるのもこれが理由じゃな」
「暴れ回る理由は分かったけど、美味しく食べられないってのはどういう事?」
「歪に器を広げた結果がどのような変化をもたらすのか予想できぬということじゃな。
肉が固くなって食用に向かなくなるという程度なら御の字じゃな。
肉や血に毒を持つ可能性もあるし、身体に残った魔力を口から取り入れた者が許容範囲を超えてしまう可能性も考えられる。
試しに……で食べるには危険すぎるのじゃよ」
そこでイメージ映像はシュンとかき消えた。
「まぁ、あれじゃな。
そういう話の流れじゃから仕方ないかもしれぬが……美味い飯を食べながらする話ではないのう」
「あはは〜確かに!
ちょっと口の中をさっぱりさせたいから、わかめスープでも頼もうかな」
「ならば妾はたまごスープを頼むとするかのう」
こうして2人は時間いっぱいまで食事を楽しみ、最後にはデザートまで堪能する。
「そう言えば焼肉屋さんのデザートがアイスクリーム中心なのは何故か知っておるかの?」
「言われてみればアイスクリームやシャーベットが多い気がするね。
何でなの?」
「あれは脂まみれになった口の中をさっぱりさせる為と言われておるのじゃ。
諸説あるがのう」
「出た!
何かの蘊蓄を語るときに言うと間違っていても大体許される言葉、諸説あるだ!」
「便利な言葉であるよな。
コメントのリスナーのアドバイスも様々に分かれてしまった時はこれを言っておけば許されるのじゃからな」
以前マオがゲーム配信をやっていた時にリスナーにアドバイスを求めた結果、意見が様々に分かれてしまった。
その為にコメント欄の雰囲気が悪くなりかけて一触即発だったのだが、「諸説あるということじゃな」と強引にまとめた結果何とか場が収まったことがあったのだ。
「本当、便利な言葉だね。
それはそうと今日のご飯も美味しかったから、また一緒に食べに来ようね」
「それも諸説あるのかの?」
「うーうん。
これは確定事項!」
そうして笑って手を差し出すユウ。
その手を同じような笑顔で握り、2人仲良く帰路に着いたのであった。




