都内が白く染まった日 2
街に多少残った雪を楽しみながら2人は散策する。
路面の雪は殆どなくって表面を凍らせているが、街路樹の葉や花壇の中、駐車場に止められた車の上にはまだ白い塊が残って2人の目を楽しませていた。
「こういう雪にお湯をかけたらどんな風に溶けるか見てみたくない?」
「興味はあるのじゃが、それは絶対にやってはいけない行為らしいぞ」
「え〜何で……って、雪が溶けた後の路面が凍って危ないからか。
考えてみれば確かにやっちゃいけないね」
「都内ならそうは積もらぬじゃろうが、雪国では掻き出して別の場所に貯めておく様子がテレビで見れるからのう。
溶かすという行為は得策では無いのじゃろう」
そんな事を話しながらのんびり歩いていたのだったが……
突如けたたましい音が鳴り響く。
2人がそちらの方向を向くと倒れた女性と自転車がいた。
「大丈夫かのう?」
マオが慌てて女性の方に駆け寄る。
「僕は自転車を傍に寄せておくね」
マオの行動を見たユウは道路の真ん中に転がった自転車を動かす事を決めたようだ。
軽々と自転車を持ち上げると車の通行の邪魔にならないよう場所に置く。
「ほれ、落ち着くのじゃ。
ゆっくり息を吐いて深呼吸をすると良いぞ」
恐らくは路面の凍結によってタイヤが滑って転倒してしまったのだろう。
その恐怖から女性はガタガタと身体を震わせていたのだが、マオは背中を優しく摩りながら息を整えさせていた。
幸いと言って良いのかは分からないが、女性は寒い気候の対策に全身を厚着していた為に外傷は無さそうだ。
マオが宥めている間にユウが近くの自販機から温かいお茶を買ってきた。
「これ……飲むと落ち着くと思うし、カイロ代わりにもなると思うからどうぞ」
「あ……ありがとうございます」
ユウからお茶を受け取った女性はお茶を少し口に含む。
そうして少し落ち着いたのだろう。
「あの、何から何までありがとうございます。
お茶代払いますね」
そう言って鞄に手をかけたのだが
「僕が好きでした事だから気にしなくていいよ。
それよりもこの路面の状態で自転車移動は危ないと思うけど帰れそう?」
「何なら妾たちが付き添っても良いがのう」
「いえ……大丈夫です。
いま家の人間に電話して迎えにきてもらいますので。
良ければお礼をしたいのでお名前を教えていただけませんか?」
「ああ、そんなの全然気にしなくていいよ。
大丈夫そうなら僕達は行くけど、本当に気をつけるんだよ?」
「寒い中待つのも辛かろうて。
ちょうど余っておったからこれも持っておくと良いぞ。
それではのう」
マオが女性の手に使い捨てのカイロを握らせて2人はその場を立ち去った。
女性はペコリと頭を下げてから何処かに電話している。
聞こえてくる単語から家族に連絡をしているのだろう。
「やっぱりこういう日に自転車は危ないね」
「車のようにチェーンを巻く訳にもいかぬからのう」
こうして雪の日の危険さを目の当たりにした2人は一層気をつけて帰り道を歩くのであった。
私も同じように前輪が滑って転びかけましたがギリギリ踏ん張って耐えました。
しかし、生きた心地はしなかったので雪の日は皆さん本当に気をつけてください。