樹木の山と妖怪の里 16
カコから放たれた破魔矢は一直線に樹木神の核である鶴吉の身体に向かっていった。
そして、その矢が鶴吉の身体に激突した勢いで追い出される形で何かが飛び出した。
弱々しい光を放つ小さな輝き……それはゆっくりと自分の姿を取り戻すように動いていく。
そうして現れたのは小さな狐であった。
その一方で樹木神は動きをピタリと止めていた。
そして先の方からゆっくりと伸ばした枝や根が消滅していく。
やがて、樹木神ではなく元の大樹……樹木子としての姿を取り戻していた。
「はぁ……はぁ……どうやら上手くいったみたいね」
全ての霊力を使い果たしたカコはその場で片膝をついていた。
「よく分かんないけど上手くいったみたいだね」
戦闘態勢を解いたユウがカコの元に向かう。
彼女が両手に持っていた剣はいつの間にか無くなっていた。
「そんなに力使い果たした状態だと辛いでしょ。
大黒様、あれ使うよ」
(好きにするがいい)
「珍しく物分かり良いんだね」
(その娘もカザと同じ立場になりそうだからな)
「よく分かんないけど取り敢えず回復しとくね」
カザはそう言って手を前に出す。
そこから温かな光が現れてカコの体を包み癒していく。
「ありがとう……でも、こんな事出来るならさっきの不味い水は要らなかったんじゃないの?」
「今は大黒様って言う神様と融合してるから使えてるけど、さっきは無理。
本当は大黒様がしつこく求婚してくるから使いたくなかったんだけだね」
「……そうか。
あんたも私と似たようなもんなのね」
「それってどう言う事?」
「地上げに来たシロとクロからこの土地を守る為に鶴吉を憑依させた事があるのよ。
そうしたら人柱の嫁って認定されちまって……ここから出る事が出来なくなったの。
大樹の中の鶴吉と繋がってしまったせいで、あれが霊体として動ける範囲しか移動出来なくなってしまったのよ」
「なるほどねぇ……確かに僕と状況は似てるかな。
僕の場合は自由に動けるから助かってるけど」
(それは神と霊の格の違いというやつだな。
本来は我のような高位の神に見染められるなど幸運な事なのだぞ)
何処からともなく響く声にカコが肩をすくめる。
「そいつは羨ましい事だが、正直勝手に嫁になったなんて言われても困っちゃうって」
「そうそう、ちゃんと段階を経てくれないといきなり嫁になれなんて言われてもね」
(ぐぬぬ……)
同じ立場だからか、意気投合したかのように大黒様を攻める2人。
「あ、あのう……」
そんな中で一際大きな声が響いてきた。
声の主を探して周りを見渡すと樹木子がふるふると身体を震わせているのが分かる。
「その話題の中だと話しにくいんだけど……現在の状況を確認していいか?」




