樹木の山と妖怪の里 15
生前が何の生き物だったのか分からぬが、我として意識が産まれたのは動物霊となってからであった。
霊はより強い霊に捕まれば吸収されてしまう。
我は低位の動物霊だった為に逃げながら自分よりも弱いものを探して吸収して力を付けてきた。
自分よりも強い霊がいなくなっても油断は出来なかった。
退魔士や陰陽士という霊関係のスペシャリスト達に散らされて浄化されればあっという間に我という自我が失われてしまう。
そうして逃げながら力を付けていた時だった。
ある瞬間から我の格が上がったとはっきり分かった。
この格が人間たちの言う神である事を魂で理解した。
こうなると先の人間たちにも我を祓う事など出来ない……安全な生活が待っていると思った。
だが、神になった事で信仰を得なければ存在が保てない事が分かったのだ。
我は生き残るのに必死だった……だが、その活動を中々上手くいかない。
同じような低位の神から聞いた話では次の段階に格を上げれば最早そんな心配をする必要はないらしい。
ここまで上げるだけでも大変と言う言葉で片付けられない出来事だったのに、更にもう一つ上の格に上がれるものなのだろうか?
だが、我は死にたくなかった。
そこで我の少ない数しかいない信者に探らせたところ、この地に樹木子と生贄になった少年がいた事。
その力を奪う事で格を上げる計画を考えた我は手駒に命じてその準備を進めていた。
計画通りにこの身体を奪い我は再び格が上がるのを感じた……だが、そんな我の前に3人の女が立ち塞がっていた。
強力無比な技を使い我は縦横無尽に攻め立てる。
ついでにこいつらの力も吸収してやろうなどという考えを浮かべながら。
だが、そのうちの2人……いや、1人がやたらと強かった。
格を上げて力を得た我が全く歯が立たない。
そこでもう1人の女に照準を合わせて単独撃破をおこなおうとした。
人間にしては強い方だが剣を持った人間よりは遥かに弱い。
もう少し攻めれば1人は打ち倒せる……そう思ったのだがバットを持った女の雰囲気が変わった。
そして、その身に宿る霊力も変わった。
何故か自分よりも遥かに強い神の力を感じる。
まずい……そう思った瞬間に我は押し込まれていた。
我が操れる枝も葉も根も全てを根絶やしにされて封じられた。
更に巫女服の女性が構えていた弓から破魔矢が解き放たれる。
神である我に神性属性の矢は効かない。
そう思って我はわざとその攻撃を受けた。
この攻撃を受け止めて無限の再生力で責め立てれば必ず勝機がある……そう思ってその矢を受けた瞬間である。
破魔矢が我の身体に触れた瞬間であった。
(この身体返してもらうぞ)
生意気そうな人間の声がしたと思ったら身体の中に何かが侵入してくる。
その何かを判別する前に我は外に弾き出されたのだった。