大きなお風呂は良いところ 2
更衣室に来た2人は貰ったロッカーキーの番号を確認し、自身に割り当てられたロッカーへと向かう。
着ていた服を全て脱いでからロッカーの中にしまい、手提げ袋から小さいタオルと大きなタオルを取り出しておく。
準備が完了した2人は早速奥の扉を開いて浴室に向かう。
広い室内には様々な種類のお風呂があったのだが2人は先ず扉のすぐ横にある大きな壺の前に立った。
「お風呂を楽しむ前に身体を綺麗にしておかないとね」
「このままシャワーに向かっても良いのかもしれぬが、とりあえずは流しておくとするかのう」
そう話しながら壺にあった柄杓で中のお湯を掬って自分たちの身体にかけていった。
この壺の中身は温いお湯であり、お風呂に入る前に下界の汚れを落とすためのもの……いわゆる掛け湯というものである。
こうして身を清めた2人だが、更に念入りに身体の汚れを取るために洗い場に向かう。
置いてあるシャンプーやボディソープを使って汚れを落とした後に再び合流する。
「最初はどのお風呂に入る?」
「ふむ……先ずは露天の方を楽しまぬか?」
「賛成!」
こうして室内から室外に通じる扉を通って2人は露天コーナーへとやってきた。
露天には大きな露天風呂の他に寝っ転がって入るために水深の浅い寝湯。
大きな船の形をした木で作られた舟湯。
そして蓋の開いている樽の形をした壺湯があった。
壺湯は3つあったのだが、その前にはテレビのモニターがあってニュースバラエティを流している。
「先ずは舟湯かな?」
「そうじゃな。
この露天の花形となる風呂じゃから入っておかねばな」
舟湯の中は白濁に濁っており中は見えない。
恐る恐る足を踏み入れた2人だったが、手前が思ったよりも浅く、更に一歩踏み入れたところで深くなっている事に気が付いた。
濁っていて見えないが手前はここから出るために段差になっているのだろう。
確かにユウや現在のマオならば段差が無くても出るのは難しくないが、子供や老人に段差を使わずに脱出しろというのは酷な事かもしれない。
「マオ、大人の姿になってて良かったね」
「そうじゃな……下手を打てばユウに抱えられながら脱出するところじゃったわ」
もちろん子供の姿でもこの世界の人間より遥かに優れた身体能力を持っているマオならば脱出は容易であろう。
しかし、この場所は沢山の人が利用するスーパー銭湯の一角。
周りを見渡すと子供から老人まで幅広い数の女性たちがお風呂を楽しんでいた。
こんな場所で見た目が子供のマオがその身体能力を使って舟湯から脱出するなどという目立つ行動は取りたくない。
その為に脱出するのであればユウに抱えれれながらになるのだが、流石にそれは元魔王としてのプライドが許さなかっただろう。
つまり大人の姿でここに来たのは大正解であり、今後も利用する場合は大人になってからにしようとマオに決意させるに十分な理由となったのであった。




