#三国教授の講義 馬編 3
「さて、良き時間が経過したので解説に移りましょう。
ユウさん、この戦況がどう動くか予想できましたか?」
「正直こうなるだろうって予測できたのはカルタゴ軍の左翼にいる騎兵がローマ軍の右翼にいる騎兵を撃破したくらいかな?
ここからの騎兵の動かし方が……歩兵の側面を突いても後方を突いても完全包囲にはならないし、二分して囲むほどの兵力ではないよね?」
・そこまでは分かる
・何も思いつかん
「そうですね。
左翼の騎兵を多く見積もって7千としても7万の軍の側面と後方を取り囲むというのは現実的ではないですね」
「それとカルタゴ軍の中央部が突出してるのも分からないな。
包囲するのであればむしろVの字の陣形にして中央部に引き込むもんじゃない?
歩兵の突出と騎兵の使い方が鍵だとは思う……けど、それ以上が思い浮かばない」
・そこなんだよなぁ
・強調されてる辺り何かありそう
「考え方は非常に良い線をいっておりますよ。
正にポイントはそこです。
では、正解を見ていきましょうか。
先ず、歩兵の中央部ですがローマ軍の圧力に押されてジリジリと後退していきます。
但し、後退のスピードは中央ほど早く両翼にいくほど遅いです」
「えっ……それって?」
「お気付きだとは思いますが、この後退するスピードのコントロールによって逆Vだった陣形がいつの間にかVの字になっています。
しかし、ローマ軍は自分たちの力でカルタゴ軍を圧倒していると考えて自分たちの状況が悪化していることに気付いていません」
・誘い込みか
・最初から仕掛けるよりも油断して罠にかかってくれると
「これってVの中央に引き込まれた事で前方と両側面の包囲が完成しているって事だよね。
あ、でもローマ軍の左翼には騎兵部隊が残ってるんだっけ?」
「実はこの時左翼の騎兵部隊も既に全滅しています」
「え、なんで!?」
・は!?
・ええ?
「ローマ軍の右翼にいる騎兵を破ったカルタゴ軍左翼騎兵部隊は、ローマ軍歩兵を無視して進軍。
後方から回り込んでローマ軍左翼騎兵の後方から襲いかかります。
挟み撃ちを食らったローマ軍騎兵部隊は全滅ですね」
「これって歩兵だけで270度の包囲が完成しているから……」
・前方と両側面抑えてるな
・あとは残った背後だけか
「ええ。
合流した騎兵部隊はローマ軍の後方に移動して蓋をする形に。
こうして完全包囲されたローマ軍は呆気なく殲滅されてしまいます」
「これは鮮やかという他ないかな」
「追記しておくと、この時代の歩兵は重装歩兵と長槍を前方に構えたファランクスという陣形を行っている歩兵というのが普通です。
これは前方には滅法強いですが側面や後方からの攻撃に弱く、反転も難しいです。
なので包囲された時点でローマ軍の全滅は確定だったわけです」
・横向くのも一苦労か
・詰んでるな
「歩兵の運用もすごいけど、やっぱり騎兵の電撃的な運用が目を引くね」
「そうですね。
馬というものはそれだけ強力な戦力であったわけです。
歴史上、奇跡のような勝利を収めている人物の多くはこの人類の相棒を上手に使っていたわけです」
「馬というものがどれだけ人類に尽くしてくれたかわかった気がする」
「大事な事ですね。
さて、次のステップとして当時の馬の価値の講義を行いましょう」