本物の勇者と魔王 〜過去編10〜
2022/08/10 誤字報告受け付けました。
いつもありがとうございます。
「里中さんから貰ったキャラクターの設定としては同じ世界からやってきた勇者と魔王ね。
マオちゃんの方は角と尻尾も付けて準備万端だ。
しかし、設定が300歳とはいえこんな小さな子をデビューさせて大丈夫なんですか?」
「あら、それなら大丈夫よ。
それ設定じゃなくて履歴書だと思ってくれたらいいから。
300歳というのも本当だし、尻尾と角も飾りじゃないわよ」
リーブの問いかけに里中は答える。
彼としてはどう頑張ってもギリギリ中学生にしか見えない少女をデビューさせるのはどうかと思った。
現実のアイドルとしてはいるが、Vの世界は外側と年齢さえ決めてしまえば中身が大人でも問題ない。
ましてや300歳という設定を与えるのであれば子供を使う理由などないに等しい。
メリットとデメリットが噛み合っていないのだ。
しかし、里中の答えはそこに書かれていることは真実であり、事実だから問題ないという。
リーブは心の中でこの人はこんな馬鹿げた事をする人だっただろうか?
と思い、今後の仕事付き合いを考えたほうがいいかもしれないと思い始めていた。
自分が絵を担当したVが何かしら問題を起こせば自分は悪くなくとも仕事は確実に減るだろう。
何せこの世界は絵師など腐る程いるのだから。
担当したVが問題を起こしたと言う縁起の悪い絵師にわざわざ頼むこともないという事である。
うーんと悩んでいると右脚が締め付けられる感触がした。
何事かと思いそちらを見ると足に何かが巻きついている。
それを辿っていくとマオに行き当たり、尻尾だということに気づいた。
「ちょっと、マオちゃん!
尻尾に触れて大丈夫なの?」
初めてあった時に拒否られた唯が真っ先に声を上げた。
「うむ、この世界には無いものじゃし恥ずかしがっておっても仕方ないからのう。
そもそも買い物に行くたびに子供に触られるのじゃからいい加減慣れたわ」
「角はどうしてるの?」
「角はちょうどよさげなカバーがあって買ってきたのじゃ。
直でなければ気にならぬわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。
何の話してるんだい?
それにこんなに自在に動く尻尾のおもちゃ見たことない。
何か機械で制御してるの?」
「まだ言うか。
ちょっと怖い気分を味わうがええじゃろ。
ユウよ、パスじゃ」
マオがそう言って尻尾に力を込めて投げ飛ばした。
「うわああああ!!」
リーブの叫び声が事務所にこだまする。
そんな彼をユウは慌てずに空中でキャッチして抱きかかえて救出した。
「うん、魔法は使えないし身体能力も落ちてるけど体内の魔力を循環させればこのくらいは出来るね」
と言いながらそのまま着地する。
「ごめんね。
このくらいしないと信じてもらえそうになかったから」
「という事で分かってもらえたかしら?
この世界は設定を借りた紛い物ばかりよ。
うちに所属してる子だってそうだから。
でも、彼女たちは本物なの。
本物の勇者と魔王がバーチャルデビューして、それを見ている人達は偽物だと思いながらも、その人物がその場にいるかのように扱う。
本当に存在しているとも思わずに。
これってとても楽しい事だと思わない?」
里中は腰を抜かしてヘタリ込むリーブに手を差し出す。
「ははは、貴方は本当に性格の悪い人だ。
でも、面白い。
里中さん、貴方の悪巧みに僕も一枚噛ませてもらいますよ」
リーブはそう言って手を取り立ち上がるのであった。