ある日の晩酌
久しぶりに甘い話を書きたくなりました。
「本当にこちらの酒というのは美味いもんじゃ」
酔う体質では無いのだが酒好きのマオは今宵も晩酌を楽しんでいた。
本日のお酒はスーパーでパックで売られている日本酒なのだが、それでもマオにとっては自分の世界にあるお酒よりも遥かに上等なものと感じていた。
「僕はよく分からないからジュースの方が好きだけどね。
はい、これおつまみ」
そんな事を言いながらユウが台所から持ってきたのは同じくスーパーで売られているパックの刺身であった。
この世界に来てから初めて生の魚というものを食べたのだが、2人はその美味しさからお気に入りの一品となっている。
もちろん寿司も大好物で月に一回は回るお寿司屋さんに食べに行っては舌鼓を打っていた。
「スーパーの刺身ならそのままでも良かったのじゃが、並べるのは手間じゃったろう?」
ユウが持ってきた刺身は綺麗に皿に並べられていて心遣いは嬉しいのだが面倒じゃなかったのかと心配になっていた。
「まぁまぁ、とりあえず食べてみてよ」
そんなマオに対してユウは少し嬉しそうにしながら食べる事を勧める。
何か裏がありそうではあるのだが箸で一切れ摘んで口に入れてマオは驚愕した。
「むむむ……これはいつも食べている刺身より旨いのじゃ!!」
「美味しくなってるなら良かった。
実は一手間加えてみたんだよね」
「ふむ……このような品は手の加えようが無いと思っておったがのう」
「難しい話じゃ無いんだけどね。
軽く水洗いしてから水気を取って、それから酒と塩を混ぜて揉み込んでからまた水気を取っただけなんだけど」
「しかし、元は海の魚であるから塩で味が引き立ち酒のおかげでまとまった印象を受けるのう。
いや、天晴れじゃ」
「そこまで褒めてくれると手を加えた甲斐があるよ」
「いや、素晴らしいのじゃ……そのまま出しても完成しているものに手を加えて更に美味しくさせるとは。
ユウは良き嫁になるのう」
「え〜マオちょっと酔ってない?」
そう言いながらユウはマオの横に腰掛ける。
「いや、酔ってはおらぬがどうしたのじゃ?」
「もうマオのお嫁さんみたいなもんじゃん。
そこは良き嫁になるじゃなくて素晴らしい嫁って言って欲しかったな」
悪戯っぽく笑いながらユウはそう言うとマオのグラスに酒を注いでいった。
「これは一本取られたのう……妾達は種族も性別も超えた所におると思っておったから意識してなかったのじゃが。
そうか……夫婦みたいなものじゃな」
「性別が同じだから日によって夫と妻の立場を変えれると思えばお得な感じしない?」
「そうじゃな。
明日は妾が嫁の役をやるから今日はユウが妻の日というわけじゃ」
「そういう事。
それじゃ旦那様、もう一献いかが?」
「遠慮なく貰うとしようか」
こうしてユウが隣に座って注いでくれた日本酒は更に美味しくなった気がした。
マオは酒とつまみを美味しくする一番はこう言った信頼して愛すべき人物なのだろうなと思いながら杯を傾けるのであった。