異界の女神 お盆前のご挨拶 1
この日、ルーナはとある場所に来ていた。
そこは人の身では絶対にたどり着けない場所……とある河原の近くを歩いていた。
しばらく歩くとみすぼらしい格好をした老婆がいた。
「連絡を入れていたルーナと申します」
「ああ、聞いてるよ。
ブツはあるんだろうね?」
「これでよろしいでしょうか?」
ルーナはそう言って懐から真ん中に四角い穴が空いた古い硬貨を六枚取り出して老婆に渡した。
「ひい、ふう、みい……確かに。
それじゃアレに乗りな」
老婆が顎をクイっと向けた先には小さな船があった。
「ありがとうございます」
と言ってルーナはその船に乗ると、船は勝手に動いて川を渡っていく。
川を渡った先には枯れた大木があり、そこで濡れた服を木の枝に懸ける老人を見つけた。
ルーナが軽く会釈をすると老人もペコリと頭を下げた後で作業に戻っていく。
その様子を見ていると船が川を渡り切ったので降りて先に進んでいった。
しばらく進むと和風の立派な宮殿が見えてきた。
その入り口には馬の頭と牛の頭を持つ鬼がいた。
彼らは手に持っていた槍でバツ印を作るようにして入り口を塞いだ。
「大王に会う予約をしていたルーナと申します」
彼女がそう言うと事前に連絡を受けていたのだろう。
鬼達は槍を手元に戻して道を開けてくれた。
「ありがとうございます」
ルーナが頭を下げて開けてもらった入り口を通る。
その先を進むと広間に出たのだが、そこでは何かの業務をやっている最中でした。
近くに見知った顔を見かけたルーナは彼の近くによると
「大王はお仕事中ですか?」
と尋ねた。
「ええ、今裁かれている亡者が揉めておりまして……約束の時間にも関わらず申し訳ありません」
「いえ、こちらもお忙しい中で時間を空けてもらっていますのでお気になさらずに。
それに、こういう機会でも無ければ裁判を見る機会もありませんから」
「そう言って頂けるのであれば幸いです。
気になる事があれば何でもお答えしますよ」
「それでは……あの亡者のそばに置かれている鏡は何でしょうか?」
「あれは浄玻璃の鏡と言って生前の彼らの行動を写す力がある鏡ですね。
現代で言うなら録画できる防犯カメラの高性能な物と思ってください」
「非常に分かりやすいですが不思議な道具感は無くなりますね。
というか、防犯カメラなどの現代の機械をご存知なのですね」
「公平な裁判を行う身として現代の情勢を知る事も必要ですから。
実は私達は定期的に現世に行っているのですよ」
「そうなんですか?
まだ時間がかかりそうなので詳しくお話し聞いてもよろしいですか?」
「もちろん喜んで。
では、立ち話も何ですから食堂の方に移動しましょうか。
裁判が終わったら部下に呼びに来るように命じておきますので」
こうしてルーナは知り合いの鬼と共に食堂に向かったのであった。