異世界のその後
その日、世界で大規模な戦争が起ころうとしていた。
発端は人間の国の王達である。
彼らは魔族側の動きが分からないことを必要以上に恐れた。
結果、単純な方向に考えが転んでしまった。
分からないのであれば力で叩き潰そうと。
各国は兵を出し合い連合軍が結成された。
だが、兵たちの士気は低かった。
当然の話である。
彼らは相手の戦力も分からず補給すら困難な土地に攻めていけと言われているのだ。
指揮官達は何度もこの作戦に反対した。
しかし、王達は勇者が裏切った可能性を試算し強行させた。
各国の指揮官や騎士団長達は勇者の裏切りに憤慨していた。
それは勇者に対してではない。
彼らは何度も彼女に助けられていた。
ある者にとっては自分の娘と変わらぬ年頃の少女が自分の命を懸けて魔王を討ち取ろうと奮闘していたのだ。
そんな少女に対して裏切りの可能性を考えていた王達に対して怒っていたのである。
魔族側は人間の動きを把握していた。
彼らは人間達が攻めてくると思われる場所の守りを固めた。
魔王様はいない。
しかし、彼女が残してくれたものが自分たちを守ってくれている。
誰にでも分け隔てなく優しく接し、国を興して自分たちを盛り立ててくれた女性。
彼女の為にも人間達の暴挙を阻もうと必死であった。
互いの軍勢が睨み合い緊張感が高まっていく。
何かのきっかけがあればそれは爆発し、正面から互いの軍勢がぶつかっていくことだろ。
人間側の指揮官が突撃を支持しようとした瞬間である。
空に巨大な何かが映し出された。
それは勇者と魔王の動く絵であった。
そして、その絵は2人の声で語り出した。
いま自分たちが異世界にいること。
自分たちは幸せであり元の世界に戻る気は無いということ。
やっと、1人の普通の人間になれたということ。
勇者を知る者、魔王を知る者。
其々が2人の気持ちと環境を知り涙を流す。
更に彼女達は話を続けた。
自分たちは仲良くやっていること。
人間と魔族は仲良くやれると証明したと。
そして、自分たちの世界の平和を願う。
みんなが手を取り合えば世界はきっと良くなると。
そして、彼女達は王族とその側近達の悪事についても言及していた。
人間と魔族の指揮官が互いに軍を置いて前に出る。
「貴国の王の話、実に心打たれる内容であった。
我々はここで戦うべき存在ではないと判断する」
「貴国の勇者殿の願いも心打たれる者であった。
私達は戦うのではなく協力し合うべき存在なのかもしれない」
2人は固い握手を結び戦争は回避された。
この不思議な映像は戦地だけではない。
人間の国、魔族の国、様々な場所で流れていた。
人々は仲睦まじい2人の姿に微笑み、話す内容に心を打たれ、王に対して怒った。
王達は何とかこの火を止めようと動いたが、強権で軍を動かして不平不満が溜まっていたところに燃料が投げ込まれたのだ。
不満は止まらずに各地で反乱が行われた。
反乱と言っても一方的なものだ。
何故なら魔族討伐に集まった連合軍が丸々敵になってしまったのだから。
この後各国は統一され共和国として生まれ変わる。
また、魔国側でも人間と共存しようと少しずつ動き始めた。
この後、人間と魔族が共存するまで長い期間が必要となった。
しかし、彼らが勇者と魔王の願いを忘れることは無い。
何故なら偶に反射するものの中に仲良く会話している彼女達の姿が見えたのだから。