ユウとマオの晩酌
「それでどうしたの?
何か思うことがあったんでしょ?」
「言わなくても分かってしまうものかのう」
「普段お酒なんて誘わないからね……そりゃ分かるよ。
ジェシーと何かあった?」
そう言いながらユウはグラスを軽く回す。
グラスからはカランと氷がぶつかる音がした。
「ジェシーは関係ないのう。
ただ、こうやって身一つで異国の地に来てポジティブに振る舞うジェシーの事は尊敬するがのう」
「確かに……1人でというのは凄いよね。
僕たちにはとても真似出来ないよ」
「今は平気になったのじゃが……どうしても次元の壁での出来事がのう。
今でも偶に考えるのじゃ。
もし、あの時にユウがおらなんだら妾はこうしてこの地で幸せに暮らせていたのかと。
そうして、そんな事を考えた日には決まって同じ夢を見るのじゃ。
ここでの生活もユウという存在も1人の寂しさに耐えられなくなった妾が勝手に作った妄想で、本当の妾は心を壊しながらあの地を彷徨っているという夢を」
その話を聞いたユウはすぐに答えずにグラスの中の液体を呷るように一気に飲みほした。
常人ならばすぐに燃えるような暑さが胃を襲うのであろうが、毒耐性のあるユウには苦味だけが口の中に残った。
その苦味を舌で確かめ、自分は現実に生きているという事を確かめながら言葉を紡ぐ。
「僕も……僕も同じだよ。
偶にマオがいなくなったらって考えちゃって、その度に怖くて怖くて身体が震えて心も押し潰されそうになって……勇気ある者が勇者だというのであれば、この世界に来る前から僕は勇者じゃなくなっていたんだと思うよ」
その言葉を聞いたマオは同じようにグラスの中の液体を一気に呷る。
そして、お互いのグラスに少しずつ液体を注ぎ足してから口を開いた。
「それを言うのであれば魔族の国の王で無くなった時点で妾も魔王では無いのじゃがな。
それはともかくとして妾達は1人の辛さと言うものを誰よりも理解しておる訳じゃな」
「そうだね」
「だからじゃな……その、ユウが良ければなのじゃが」
「いいよ」
しどろもどろに声に出そうとするマオに対して、その全てを聞かずに察したユウが許諾を出す。
「へ?妾はまだ何も……」
「家が見つかるまでジェシーをここに置いておきたいって言いたいんでしょ?
1人になった自分を見てるみたいで放って置けないんだ」
「はは……全てお見通しか。
やはりユウには敵わんのう」
「そんな事はないと思うよ。
だって、僕も全く同じ気持ちだったからね」
「ふふ……そうじゃったな。
妾達は一心同体。
気持ちが違うことなどそうそう起きぬか」
「そう言うこと……じゃあ、気持ちが通じ合った所で改めて乾杯しようか」
「何に対して乾杯しようかの?」
「全部でいいんじゃない?
元の世界もこの世界も拾ってくれた社長や唯さんやくじよじのメンバー、Vの仲間達にジェシーも含めてとにかく全部」
「そうじゃのう……それでは、この世の全てに」
「僕たちに関わる全ての人たちに」
『乾杯』
♢ ♢ ♢
「そういえばジェシーはユウのベッドを使っておるが、今日はどうするのじゃ」
「そりゃ、決まってるでしょ」
「ふむ……では、今日の晩酌はこの辺にして寝るとしようかの」
「今日は寂しい夢見なくて済みそうだね」
「ふふ、お互いにのう」
ちょっと最終回っぽくなりましたが終わりません。