ジェシー、ハスターになる
「つまり、ユウちゃんとマオちゃんが本物の勇者と魔王だと確信して、異世界への憧れの気持ちが爆発して向こうの柵を全部捨て去って日本にやってきた……って事でいいのね?」
「イエーーース!
私、ユウとマオに会いたくて会いたくて堪りませんでした。
ええっと……日本語の諺で……そうでーす!
震えるくらいに会いたかったんでーす!」
「それ、諺では無いわね。
それはともかくとして2人に会って何かしたかったの?
例えば異世界に行く方法が聞きたいとか」
里中がジェシーにそう尋ねると彼女はあっけらかんとした顔で
「考えてなかったデース!」
と答えた。
「確かに異世界に行けたらベリィハッピーです。
バット、そっちでの生活がとても厳しくなるのはユウとマオの配信を観て理解してまーす。
それに今日、ニホンを歩いてるだけでも驚きっぱなしでーした。
異世界、興味ありますがニホンもとても興味しんしーんでぇす」
「あ、向こうの世界に行きたいとかじゃなかったんだ」
「それを相談されても妾達にはどうしようもないからのう」
「異世界があると分かって、そこから来た勇者と魔王に会えただけでベリーハッピーよ。
こちらの世界に来てくれてベリーセンキュー」
ジェシーはそう言ってまた2人に頬擦りし始めた。
「ふーん……それじゃジェシーちゃん、私の会社で働かない?
具体的に言うとユウちゃんとマオちゃんの後輩としてVとしてデビューしてみないかしら?」
「リアリイ!?
ワタシもバーチャルな身体もらえるんですか?」
「でも、絵を描いてもらって動かすとなると結構時間かかるんじゃないの?」
「幾つか動かせるアバターが合って中に入ってくれる人を探していたのよ。
ジェシーちゃんみたいな行動力の塊のような子ならこの業界絶対に成功すると思うのよね」
「確かに、この業界は行動し続ける事が大事じゃからのう」
「というわけで幾つかあるんだけど、自分の身体にしてみたいイラストあるかしら」
そう言って里中はプリンターから幾つかのイラストを印刷する。
今までの騒がしさが嘘のようにユウとマオを解放してイラストにジッと見入るジェシー。
数分後、彼女は一枚のイラストを指差した。
「ワタシはこの子の中に入りたいデース」
ジェシーが指差したイラストは、髪の色は黄色でスタイルの良い女性であった。
頭から首元にかけて布を巻き、胸はビキニのような布で隠されている。
下は胸と同じ素材の布で出来た全体を覆うようにゆったりとしたズボンを履いている。
砂漠の踊り子と言った雰囲気の女性であるが髪の毛、服が全部同じ黄色なのが気になるところである。
「あら、この子を選んだのね」
「何かビビッと来るものがありましたネ。
普通なようで普通じゃない、そんな雰囲気です」
「使いづらいとは思うけど、この子に関しては別の衣装もあるのよね」
そう言って里中が出したイラストには先ほどの女性と思わしき人物が描かれていた。
思わしきと言ったのはその姿が頭からつま先まで黄色い衣に覆われ、顔の部分は黒い闇で隠されていたからである。
「え?なんか全然可愛くない」
「頭からつま先まで黄色い衣じゃと?
これはつまり……」
「オー!ハスターですね。
ワタシ、クトゥルフも大好きでーす」
「それじゃ、これで決定ね。
契約書や住むところはこれから用意するとして……そうね。
今日は2人の家に泊めてあげたら?」
「リアリイ!?」
「僕は別に構わないよ。
マオはどう?」
「可愛い後輩で初めての異人さんじゃからのう。
妾も構わぬぞ」
「それじゃ決定ね!
2人とも新人ちゃんのこと頼むわよ」
里中の言葉にジェシーは2人に向き合って頭を下げた。
「これからよろしーくおねがいしまーす!!」




