ユウと修羅のデート〜続キックボクシング編〜
2022/08/08 誤字報告受け付けました。
いつもありがとうございます。
「次はこのサンドバッグを叩くんだが、その前にバンテージを巻いてグローブをしようか」
そう言ってトレーナーはユウの拳に器用にバンテージを巻きグローブをはめていく。
「本来体験の人は拳を痛めないようにスタンディングバッグを使うんだけど・・・」
と言いながらトレーナーは修羅の方を見る。
「ああ、この娘はサンドバッグで良いんじゃないかしら。
ユウちゃん、ちょっと見ててね」
修羅はそう言ってサンドバッグに向かうと様々なコンビネーションを打ちわけながら打撃を叩き込んでいく。
その勢いは強く、蹴りを繰り出すとサンドバッグが少し浮かぶほどであった。
「ほんと、プロになってくれれば良い線行くと思うんだけどねぇ」
打ち終えた修羅にトレーナーが話しかける。
「またそん話?
うちゃ若う無かばいし今しゃらプロデビューなんて無理ばい。
それより・・・」
と修羅が話しかけたところでサンドバッグに爆音が響き跳ね上がる。
慌てて2人がそちらを見るとユウが先程の修羅を凌駕する動きでサンドバッグを叩いていた。
激しい動きにもかかわらず、淀みがない。
常に軸は安定しており、打っている最中のガードも下がらずに付け入る隙は全く無かった。
にも関わらずサンドバッグは先程よりも激しく揺れる。
遂には吊るしている鎖の方が悲鳴を上げ始めた。
「はーい、ユウちゃんちょっとストップ。
それ以上やるとサンドバッグ壊れちゃう」
修羅が叫ぶとピタッと止まる。
「えへへ〜楽しくてついやりすぎちゃった。
トレーナーさん、ごめんなさい」
「い、いやいいんだ」
トレーナーは放心状態ながら何とか声を絞り出した。
「最後はミット打ちと言って僕がこのミットを持って打つべき技を指示しますからその通りに打ってください」
と言ってトレーナーは普段のミットを持ってリングに上がろうとした。
しかし、それを見ていた修羅は近くにある別のミットを確かめるとそちらの方を投げる。
「うわ!っと、これは」
「悪いことは言わないからそれ使っときなさい」
それはワタの入ったミットであった。
通常の体験レッスンの場合はワタ抜きのミットで行なっている。
これは当たる時に派手な打撃音がするからだ。
その一方で殆どパンチやキックの威力を軽減する能力はないが体験レッスンの女性なら普通はこれで十分なのだ。
その感覚でリングに上がろうとしたことにゾッとする。
この事務の女性の中で最も力強い打撃を繰り広げるのが修羅だ。
修羅相手にはワタありのミットで対応している。
しかし、ユウはそんな修羅を超える打撃を繰り出せるといま証明されたのだ。
ありがたくワタありのミットを持つと構える。
「先ずはジャブからいきましょうか」
ユウが言われたようにジャブを繰り出す。
「いい調子ですよ!次はジャブからのストレートを」
いわゆるワンツーと呼ばれるコンビネーションである。
ユウがジャブから腰の入ったストレートを打つとトレーナーのミットはまともに受け止められずに後ろに引いて反動を逃す。
更にコンビネーションの指示を出していき正確にそれを実行していく。
いつしかトレーナーは本気になり、その迫力のあるミット打ちにジム内の誰もが釘付けになっていた。
3分間を示すタイマーが鳴った時にはジム内の全員が拍手と歓声を上げた。
トレーナーは肩で息をしており、誰もがその健闘を讃える。
一方のユウは息1つ乱れていない。
「凄いじゃねえか、嬢ちゃん!」
「あんな子うちにいたか?」
「何でも今日初めて体験レッスンで来た子らしいぜ」
そんな周りの様子に修羅は何をしていたかというと荷物をまとめていた。
そして皆から声をかけて褒められ照れるユウの手を取った。
「ユウちゃん、このままだと面倒なことになりそうだから一旦出ましょう」
そう言ってユウの手を引いて出口に向かう。
「それじゃ皆さんさようなら〜」
修羅はそう言うと脱兎の如くジムを出て行った。
あまりの逃げ足の速さに皆が呆気にとられている。
その時、ジムの奥から1人の老人が出てきた。
「世界を狙える器がいるじゃと?
そいつは何処にいるんじゃ!」
と興奮しながら出てきた老人こと会長に皆は首を振って出口を示すことしか出来なかった。