ユウとマオのデート 2.5(あるスタッフの1日)
5/26 23:30 誤字訂正しました。
報告ありがとうございます。
「今日って予約入ってましたっけ?」
ホール担当のスタッフが受付担当に尋ねる。
「1件入ってるわね」
「平日なのに律儀なもんですね」
このレストランのランチは他所とは違い時間の制限を設けていない。
その為に人気店ではあるのだが目まぐるしい程に忙しくなるのは土日祝日のみであり、平日はフラッと立ち寄った有閑マダム達がのんびりとお茶をする場となっている。
その為にしっかりと予約を入れて席を確保してくるお客と言うのは珍しいのだ。
「田中さんって……またありきたりな名前ですね。
電話だとどんな感じでした?」
「ネット予約だから分かんないなぁ。
年齢は18歳と若いみたいだけど」
「そんな若い子が平日にウチみたいなレストランに予約入れるなんて珍しいですね」
「そうね……って、あんまり無駄話してないで仕事仕事。
今日水溢すような粗相をしたら許さないからね」
「気をつけるんで勘弁してくださいよ」
実は男性スタッフは未だ研修中の身であり、ディナーの場にはまだ出すことは出来ないという事でランチタイムに修行している最中であった。
ランチタイムで注ぐのはほぼ水だけであり、余程大きく溢さない限りは客も目溢しをしてくれる。
そんな中で仕事をしているからだろうか?
青年は技術的には問題ないのだが、その緊張感の無さからマトモに水を注げることの方が少なかった。
「いらっしゃいませ」
扉が開き歓迎の言葉が飛ぶ。
どうやら予約客の田中様がやってきたらしい。
案内がてらどんな人物か確認しようと田中様の前に立った青年は驚愕する。
彼が今までの人生で見た事がない……いや、モニターの二次元の世界でしか見た事が無いような美少女がいたからだ。
特にゴスロリ服に身を包んだ少女はまるで意思を持ったドールのように感じて更に驚いた。
しかし、内心の動揺を悟られないように席まで案内して店内のルールを説明する。
ひとしきり説明を終えて後は水を注いで終わり……なのだが、ここで一つ問題があった。
2人が興味深げに水を注ぐのを見ていたからだ。
何か下心があるわけでは無い。
だが、男としてこんな美少女の前で失敗などしたく無い。
青年は未だかつて無いプレッシャーを感じながら水を注いでいく。
一つ一つの所作を思い出して頭の中で反芻しながら動きにトレースしていく。
今まで発揮できなかった集中力を持って無事に水を注ぐことに安堵する。
定位置に戻っていく最中に後ろから聞こえてくる賛辞の声には心の中で思わずガッツポーズをしてしまった。
定位置に戻って店内を見回していると別のホールスタッフの女性が近寄ってきた。
彼女は面白いおもちゃを見つけたような顔で青年に語りかける。
「今日は完璧に出来てたじゃないか。
しかし、あの女の子達の前で良いところ見せる為に今までにない集中力を見せるとは思わなかったよ。
案外ロリコンなんだね、きみ」
「そういう訳じゃないんですけど……先輩、あの漫画知ってます?
ネジを巻くか巻かないかってやつ」
「ん、テレビは見てたけど……ああ、そういう事か」
「そういう事っス。
俺、あの漫画のファンなんすよ」
「あの漫画から飛び出してきたような見た目だから緊張したわけだ。
まぁ、ロリコン疑惑は消えないけどね」
「勘弁してくださいよ」
そうして暫く働いていると流石にマオの姿に見慣れて平静を取り戻しつつあった。
のだが……マオがふと眼帯を取った時に見えた目が金と赤のオッドアイであるという事に気がついた彼は再び性癖を抉られることになるのであった。
この間ランチに行ったレストランで、スタッフがこの注ぎ方で水をボトボト溢していたのを見て吹き出しそうになりました。
作中の彼は頑張りましたね。