妾の勇者と僕の魔王
破壊力の高い話が出来たと思います。
「うーん……」
ユウがベッドの中で唸る。
「なんじゃ、眠れぬのか?」
その唸り声は隣のベッドに眠るマオにも聞こえていたらしい。
この世界に来た当初はお互いを求め合って、側にいなければ眠れぬ2人ではあったが一年を過ぎると流石に床を別にすることは出来るようになった。
部屋を別にするまでは無理なのだが……。
「うん、さっきやったゲームの事を考えてて……勇者って何なんだろうね?」
「急にどうしたのじゃ?」
「魔王って悪の象徴みたいに描かれることが多いけど、あの話みたいにいなかったりマオみたいに魔族の国の王様って意味だったり、しっかりと実態があると思うんだ」
ユウの中でも考えはまとまっていないのだろう。
その言葉はまるで自分にも説明しているようであった。
「でも、勇者って悪い魔王を倒す存在としての意義しか無いわけじゃん。
あの世界の勇者は魔王がいなかったから魔王になった。
僕の世界は魔王はいるけど、それは勇者が倒すべき悪い魔王じゃなかった。
きっと、その事を理解した時に僕は勇者じゃなくなったんじゃないかな?
という事をいま説明しながら理解したけど、それが分からなくて唸ってた。
結論を知ってしまえば勇者じゃない自分の事なんてとっくに受け入れてたのにバカな話だよね」
ユウはそう言ってハハッと笑った。
勇者じゃない自分を受け入れているという言葉に嘘はないのだろう。
そこには失った悲しみや怒りといった負の感情は全く感じられなかった。
ただ……寂しいという消失感だけは感じられる気がした。
そんなユウの気持ちを察したマオも言葉を紡ぐ。
「妾だって同じじゃよ。
魔族の国の王じゃから魔王であった。
あの日の戦いで次元の狭間に飲み込まれて戻れなくなった時点で妾は魔族の国の王では無くなった。
ユウと同じ瞬間に妾も魔王という実態を失ったのじゃよ。
あの瞬間、妾には何も無くなっておった。
聞いてはおらぬし今更聞く気もないがユウにはあの世界での名前があったのじゃろう?」
「うん……呼ぶ人はいなかったけどね。
皆の呼び名は勇者だったよ」
「それでもじゃよ……勇者はその実態を失っても名前が残っておった。
妾は産まれた時から名前は無かった。
ある日、突然継承した魔王という言葉のみが妾の呼び名であった。
そんな事に妾は疑問の一つも浮かべておらなかったのじゃ。
魔王は妾1人、魔王という呼び名さえあれば生活に困ることは無かったからのう」
その時の事を思い出したマオが悲しげな表情を見せる。
「知らなければそれで良かった。
しかし、知ってしまったのじゃ。
魔王で無くなった自分には何も無い。
呼ぶ名前さえも無いという事に。
じゃが、其方は妾に名前を付けてくれた。
そして妾に合わせて今までの名前を捨てて新しい名前を名乗ってくれた。
それがどんなに輝かしく美しい事であったか。
真っ暗だった世界を光で照らしてくれたのはお主なんじゃよ、ユウ。
勇者とは魔王を倒すだけでは無い。
世界に光をもたらす存在でもある。
その点においてユウは間違いなく妾の勇者じゃよ」
「……僕も魔王が一緒にいてくれたから光を失わずに済んだんだよ。
勇者が魔王が存在しなければ存在を立証出来ないというのなら……間違いなく貴女は僕の魔王だよ、マオ」
ユウがそう言うとマオは照れ臭そうに頬を掻いてから大人の姿に変身した。
「久しぶりに一緒の布団に眠るのも悪くなかろう。
今日はこっちの布団に来ると良いのじゃ」
「ふふ……じゃあ、お邪魔させてもらおうかな?」
こうして2人は互いにキツく抱きしめあって眠りに落ちる。
この日2人が見た夢は全く違うものであった。
しかし、隣で互いに必要とする人物が笑いかけていたという共通点はあったようだ。