異世界のプロレス
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いつもありがとうございます。
かつて異世界には闘技場という文化があった。
犯罪者や奴隷をお互いに、或いは捕獲した魔物と戦わせて見せ物にしていたのだ。
現在は禁止されて忌まわしき文化として語り継がれている。
だが、この闘技という文化を復活させようとしている集団がいた。
「くっはっはっはっはっ!!
女神の教えなどクソ喰らえだ!
この世は弱肉強食、自分さえ良ければいいのだ」
「そんな事はない!
人を信じる力は必ず助けとなり更なる大きな力となるのだ!!
なぁ、皆んな!
そうだろう!?」
丸いステージの上で白い鎧を着た騎士と黒い鎧を着た騎士が戦っている。
お互いに一進一退の攻防が続いていたのだが、黒騎士の卑劣な罠によって白騎士は一転してピンチに陥っていた。
倒れた白騎士を挑発するように自分の正しさを語る黒騎士に対して、白騎士はステージの下にいて戦いを見守る観衆に呼びかけた。
「そうだ〜!
助け合う事は素晴らしい事なんだ!!」
「白騎士〜負けるな〜!!
「しろきし〜がんばりぇ〜」
観衆達が声援をあげると白騎士の鎧が光り輝き、その光と共にゆっくりと立ち上がる。
「な、なんだ?その忌まわしき光は!!」
「これが人の優しさの力だ!
皆の信じる心がある限り私は何度でも立ち上がる!!
人々の優しさがお前を撃つ力をくれる………
喰らえ!ブリュンヒルデ・ブレーーーーード!!!!」
白騎士の鎧の光が剣に移っていく。
そして白騎士が雄叫びと共に剣を振るうと、その剣の光が一直線に黒騎士に飛んでいった。
「何という温かさ………これが人の心の強さか………。
ぐわあああああ!!!」
黒騎士から目が開けていられないほどの光が漏れ出し、直後に爆発音が鳴り響く。
観衆は目と耳を閉じてその衝撃に耐えていた。
そして、再び目を開けたときには……
「皆の力で悪は滅びた!
これからも女神様を信仰して人に対する思いやりを大事にしてくれた!!」
と剣を頭上に掲げて高らかに勝利宣言する白騎士の姿があったのであった。
♢ ♢ ♢
白騎士は自分たちに与えられている建物に向かっていた。
扉の前でカブトを脱ぐ。
そして、素顔になった白騎士は
「おつかれさまです!!」
と言って扉を開けて中に入っていった。
「おお、お疲れ様。
今日もいい演技だったぞ」
黒騎士の鎧の横にいる女性が白騎士に語りかける。
「とんでもないです。
先輩のタイミングがいつでも完璧で助けられています」
「ははは、嬉しい事言ってくれるじゃないか。
明日の公演も頑張ろうな」
「はいっス!!」
彼女達こそ現代の異世界に闘技を復活させようと目論んでいる白黒騎士団である。
彼女達は異世界の勇者の話に着想を得て完全な物語として闘技を行い、最後に見た目は派手だが全く威力のない必殺技で戦いを締めるという方法を編み出した。
灯りの魔法の出力を上げ、大きな音が鳴るだけの魔法。
この二つの魔法により人々は黒騎士が強力な必殺技を浴びたと錯覚する。
更に光と爆音で視覚と聴覚を奪っている間に黒騎士がその場を撤収する事により、跡形も無く消し飛んだように見せるという演出を思い付いたのだ。
更に白騎士は女神の教えを広めて伝え、道徳心を与えるストーリーも人々にウケた。
女神の教えを広める演目をやり続けた事で、教会はこの活動に注目をした。
白黒騎士団に接触して今後の活動や展開を聞いた結果、この活動のスポンサーになる事を約束してくれたのだ。
こうして強力なスポンサーを得た白黒騎士団は各地で演目を行い、この活動を広めていった。
現在は新たに出てきた2人の悪の騎士に対してピンチに陥った白騎士の元に改心した黒騎士が助けに入り、2人の光と闇の力による必殺技の演出で悪の騎士を倒すという話になって人々を更に喜ばせていた。
この活動は異世界の配信から名前をとり『プロレス』という名前で広く知れ渡ることになるのであった。
♢ ♢ ♢
「という事であちらの世界にプロレスの概念が生まれましたよ」
「それってプロレスというよりはヒーローショーじゃないの?」
「話を聞く限りにはそうじゃよな。
微妙にヒロインショーも混じっておる気がするがのう」
「きっかけはユウ達のプロレス話が原因ですからね」
「まぁ、どっちも似たようなもんだからいいか」
ある日の田中家の会話である。