今後のV業界を考える 〜200話突破 特別企画〜
トレンド入りもしていたあの人の3D配信見た感想です。
「あれ?社長、何を見てるんですか?」
何かの映像を食い入るように見ている里中を見つけた唯が話しかける。
「あ、唯ちゃん。
ちょっとこれを見てちょうだいよ」
それは3Dで作られたキャラクターがチョロチョロと動いている映像であった。
「ああ、個人配信者の方ですよね。
この間新3Dのお披露目ってやってたのは知ってましたけど」
「そうなのよ。
それでチェックしてたんだけど・・・」
そこで里中は敢えて言葉を濁した。
そこには何と言ったら良いのか分からないという感情が含まれているようであった。
「評判は凄く良かったみたいですけど、そんなにですか?」
「悔しくなるくらいにね。
個人の可能性と箱の限界を感じさせられた気分だわ」
「ちょっと私も失礼しますね」
里中のあまりの落ち込みように唯もモニターを確認する。
そこにはアイドル衣装に身を包んだ美少女が嬉しそうにステージを動き回っている。
そしてそれに合わせてカメラが切り替わるのだが・・・
「このカメラってゲストがVRのゴーグル使ってるんですか?」
「そう見たいよ。
その為にキャラのモデルだけじゃなくて彼女の為のステージまで用意したそうだわ」
「これって2人が同接してますけど、大元のコンピューターがパンクしない限りもっと人が入れますよね」
「そもそも作り出した世界の一部を映し撮ってるだけだし容量なんて微々たるものでしょ。
これ、本当に世の中から3次元のアイドルいなくなっちゃうかもしれないわね」
カメラマンゲスト2人のリクエストに答えて様々なポーズを取る少女。
「これ現実にやってたらグラビアアイドルの水着撮影会とかと変わらないですもんね」
「それでいて今こうしている最中も様々な意見が出てて早速モデリングを担当したパパがやる気になってるみたいよ。
この柔軟な意見と動きの早さは個人勢の強みよね」
「会社としての依頼として通してOKを出している以上、追加の要望って出しにくいですもんね」
会社として要望を出している以上は仕事という面が大きい。
仮に新しいアイデアが出たとしても、また新たに発注してスケジュールを調整してもらわなければいけないのでどうしても遅くなってしまう。
幸い、くじよじにはその辺りに理解の深いリーブ先生がいるので彼が絡む仕事ならば問題ない。
しかし、2桁の配信者を抱えるくじよじで全ての仕事をリーブ先生に押し付けるわけにはいかない。
それが会社という箱の縛りである。
だが、画面で可愛らしく動いている配信者は違う。
イラストを担当したママも3Dのモデリングを担当したパパも仕事というより趣味なのだ。
人間、好きなことには幾らでも時間が注ぎ込めるものだ。
そして、仕事ではないのでフットワークも軽い。
こうして最高の協力者に出会った少女はV界でトップクラスの身体を手に入れていた。
「昔のアイドルって殆どテレビでしか見る事が出来ないし、一方的にファンレターを送ることしか出来なかったわ。
偶にテレビに出て目立てばどんな人物かも知れるけど、殆どプライベートは謎のまま。
メンバー同士仲が良いんです!
っていうのは雑誌に掲載されている写真でしか見れないし、本当に仲が良いのかどうかなんて分からないじゃない?」
「そうですね」
「でも、Vの配信ってほぼ毎日やってるからその人がどういう人か理解しやすいし、コラボをどんどんやっていれば人間関係も分かりやすい。
リスナーと雑談してくれる配信で距離も近く感じるわけじゃない。
その上でこんな配信出来る様になったら、握手会もどきやミニライブなんて簡単に開けるわよ。
それが家にいながら参加できるなんて・・・夢のような話よね」
「2次元のモデルは現実離れした可愛さですしね。
今後は益々テレビが廃れて配信人気が加熱しそうです」
唯の言葉に里中は大きく頷き立ち上がる。
「私たちも負けてられないわ!
これからも全力でウチの子達をサポートするわよ!」
「はい!」
お互いに気合を入れ直してまだ続いている映像を一旦ストップする。
画面の中では美少女の笑顔がアップで映っていた。
「それにしても・・・これで中身が男の人だなんて信じられないわ。
理想の自分になれる場所よね」
想像以上の出来と技術力に驚くというレベルを通り越しましたね。
あの技術が広まると本当に2次元と3次元の境目がほぼ無くなるのではないかと思います。