プライベートな新人歓迎会 2
「それじゃ、2人のデビューを祝しまして・・・かんぱーい!!」
「かんぱいなのじゃ」
『かんぱーい』
4人はそれぞれにグラスを持って軽く打ち付け合う。
ユウと八起子はソフトドリンク。
マオとナコはビールを選択していた。
そのために今日のマオは大人の姿になっていた。
「いや〜しかし、実際に生で観るとビビるっスね。
幼女が一瞬で妖艶な美人に早変わりするんスから」
「初めて見るとビックリしますよね。
私も最初は驚きました」
「あれ?八起子は前に見た事あるんスか?」
「え?あ、はい。
デビューする前に」
八起子がそう答えるとナコは首を傾げた。
「そう言えば八起子ってデビュー前の話を全然聞かないっスね。
自分はデビューする時にかなり打ち合わせして入念に準備したんスけど、八起子は気が付いたらデビューしてたというか。
あれ?そもそもいつデビューするって話聞いたっスかね?
うーん、なんか記憶が曖昧なような」
「えっと、それは」
返答に困るナコに対して先輩2人がすかさずフォローに回る。
「それはナコが働きすぎて記憶が曖昧になっているだけじゃろう」
「そうそう、働き過ぎは良くないよ。
偶には休まないと」
マオがナコのグラスにビールを注ぎ、ユウは料理を取り分けてナコの前に置く。
それを見るとナコもすぐに表情を笑顔に変えて
「そうっスね。
それに折角の楽しい場で難しい事考えても仕方ないっスよね。
あ、マオパイセンもおかわりどうぞ」
とマオのグラスにお酒を注いでいく。
「八起子ちゃんも遠慮せずにどんどん食べなよ。
おかわりはいっぱいあるからね!」
「ありがとうございます」
こうして楽しい宴の時間はあっという間に過ぎていったのだが、夜も遅いという事で2人は田中家に泊まっていくことになった。
余っている部屋に布団を二つ並べてナコと八起子は床に就く。
「いや〜今日は楽しかったっスね」
「そうですね。
こんなに楽しかったのは初めてかもしれません」
「うーん、八起子ってひょっとして今までぼっちだったっスか?」
「分かりますか?
今まで一人でいる事が多くて周りの事も信頼できなくて一人でいる事が多くて・・・それで平気だって思ってたんですけど。
私は本当の仲間と一緒の楽しい時間を知らなかっただけだったんだなって思います。
ナコさんはお友達多そうですね」
「そうでもないっスよ」
八起子に背を向けながらナコが答える。
「自分、断れない人間なんスよ。
それでいて一度関わってしまうと心配になって放っておけなくなるんスよね」
「それは・・・頼りにされてそうですが」
「頼りにはされてたと思うっス。
でも、そういう評判が立つと周りは段々と自分を利用するだけの人達しか集まらなくなるんスよ。
それは友人から家族まで。
それで自分が限界で遂にこれ以上は無理だって伝えると皆がこういうんでしょ。
友達のことを、家族のことをもっと考えてよって。
その時に分かったんスよね。
この人達の言う友達や家族ってのは自分を都合よく利用するための言葉に過ぎないって」
普段のナコからは考えられないほどに暗く悲しそうな声色で自分の半生を語るナコ。
彼女の言葉から大凡の事を察した八起子は何も言えなかった。
自分よりも遥かに明るくてコミュニケーション能力が高く、ある種の憧れを抱いていたナコが抱えた闇。
彼女は自分以上の孤独を抱えている事が分かってしまった。
無言の時間が数分続き、このまま就寝するかと思ったのだが、唐突にナコが八起子の方に向き直った。
「暗い話して悪かったっスね。
今は信頼できる社長や頼りになるパイセン。
それに自分の心情に寄り添ってくれる同僚がいるっスから随分とマもマシになったっスよ」
「そう・・・ですか。
私は幾らでも力になりますからいっぱいコラボとかしましょうね」
「いいっスね!
是非ともお願いするっスよ。
それじゃ、今後の活動に備えるためにも今日は寝るっスかね。
おやすみっス」
「おやすみなさい」
こうして眠りについた2人であったが、八起子はナコのマシになったと言う言葉が頭に残ってしまっていた。
何があったのかは分からない。
でも、彼女の心は当時の友人や家族関係によって大きく傷つけられてしまっているのだろう。
マシになったと言う事は多少は癒えたのかもしれない。
だが、それは完治せずに未だに彼女の中で痼りとなって苛んでいるのだろう。
同期として、初めての友人として何とか力になってあげたい。
どうしたらいいのかを悶々と考えているうちに、いつしか八起子の意識も眠りに落ちていくのであった。