初めてのドライブとお姉ちゃん〜過去編6〜
朝の顔合わせが終わってから、里中の頼みで唯は二人を連れて近くの洋服チェーン店に向かった。
とりあえず2人には服装は事務所にあったジャージを着せておく。
そしてマオにはニット帽もかぶせておいた。
「服くらいなら問題ないけど下着も買わなきゃいけないでしょ?
それは幾ら私でも無理だから唯ちゃんお願いね!」
と里中に財布を渡された。
とりあえず車で行くかと2人を連れていった時のハシャギっぷりは凄かった。
「これがこの世界の乗り物なの?」
「椅子がフカフカで良いのう」
「馬車とは大違いだよね!」
とテンプレなハシャギっぷりに先ほど確信を持ったにも関わらず本当に異世界人なんだと改めて実感する。
「これはスピードが出てぶつかった時の衝撃が危ないので、安全の為にシートベルトを締めて下さいね」
と2人に後部座席のシートベルトの締め方を教える。
「身体がキッチリ固定されたね!」
「うむ、準備万端じゃ」
「よし、じゃあ出発するわよ!」
車を動かすと2人のテンションは更に上がっていく。
「わ〜早い早い!」
「振動も少なくて快適じゃのう」
そんな2人をミラーでちらりと覗くとハシャギながらも2人の手は固く繋がれていた。
(勇者と魔王って言ったら敵対関係のはずなのに随分と仲良しなのね。
まぁ、今はそういう話も珍しくはないけど)
何となく気になった唯はその事を聞いてみた。
「2人とも勇者と魔王って事は敵同士じゃなかったの?」
「それはね〜」
唯の問いかけに2人は昨日里中にしたことと同じ話をした。
勇者と魔王として戦ったこと。
次元の壁に穴が空き吸い込まれたこと。
その壁の中でどれだけの時間か分からないほどに長い時間を2人で過ごしたこと。
そして、出口を見つけてこの世界に来たこと。
その直後に里中に拾われたこと。
唯はその事を聞いて後悔した。
何故なら・・・
キキーーーッ!!
涙が溢れて事故りそうになったからだ。
唯は慌てて車を端に寄せた。
そして、そのまま泣き出してしまう。
「お、お姉さん。大丈夫?」
「お、落ち着くのじゃ」
唯の泣き声に2人はオロオロと慌てる。
シートベルトをさりげなく外した唯は、そんな2人を抱えて抱きしめた。
無論、マオの頭の角には触れないように気をつける。
「2人とも苦労したんですね。
本当にここまでお疲れ様でした。
この世界でも今いる日本は本当に平和な国なのでお二人は安心して仲良く過ごして下さいね」
2人の身体を軽く抱きしめながら話す。
ユウとマオもそんな唯の優しさを感じてその背中に手を回した。
「なんかお姉ちゃんみたいで嬉しいな。
僕一人っ子だったからお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな?」
「妾も一人っ子じゃったな。
家族も知らんがこれが姉がいるという感覚なのかのう」
「ふふふ・・・体感時間としてはずいぶん年下の筈だけど姉と思ってくれて構わないわよ。
これから色々と大変だと思うけど出来るだけ手助けするからよろしくね」
「うん、よろしく!」
「よろしく頼むのじゃ」
こうして唯は通常の倍くらいの時間をかけて洋服屋にたどり着いたのだった。