ハロウィンの日 3
「ええ、とても良い餌でしたよ。
お陰様で揉める前に事が収まりそうです」
「これ、ひょってしてだけど、依頼主ってあっち側だったりする?」
「おや、よく分かりましたね。
馬鹿2人がこっちに向かったことに気が付いたヨーロッパの怪異界隈が神界に連絡。
そこから高天ヶ原に連絡がいって、我々退魔士協会の方に指令が下ったという流れですね」
「なにか、上の方に手のひらで転がされているようで気分が悪いのう」
巫女の説明に、マオが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「まぁ、そう言わないでください。
実際、何か起こって揉めるとかなり面倒な事になっていましたからね。
どの業界もある程度のルールのもとに成り立っているのが現状ですから。
それが破られる前に捕まえるのが必須だったんです」
「はぁ、仕方ないか。
それで強い力を求めているから、僕たちみたいなのが囮に有利だったって訳なんだ」
「一応、花鳥風月にも動いてもらってはいましたけどね。
ただ、やはり一番確実な手札を切っておきたかったんですよ」
「……これ、簡単な仕事に思えだけど、結構ヤバかった案件だったりする?」
巫女と花鳥風月は全国の怪異事件を解決する退魔士協会に属している人間であり、ユウとマオはその協会とは何の関係もない一般人という括りではある。
そんな彼女達に助けを求めること自体が稀であり、巫女も余程のことがない限りは救援を求めるようなことはしないのだ。
「一番最悪のケースでは、日欧妖怪大戦争が勃発していたかとしれませんね。
我々人間以上に舐められたら負けみたいな世界ですから。
だからこそのお二人なんですよ」
「妾達のような力を持ったものが動いたということで、欧州には借りを作れるし、力が全てであるからこそ日本の妖怪も黙っておるしかないということじゃな」
「そういうことです。
お二人には感謝してもしきれませんよ」
「まぁ、こっちの神様にも向こうの神様にもお世話になってるしね。
特に身バレ防止に関してはいまだに協力してもらってるし」
ユウとマオを中心に、くじよじ所属のタレントには身バレ防止の為の加護が授けられている。
隣人の響子が、バーチャルのユウとマオのファンでありながら、リアルで交友を深める2人を同一人物と繋ぎ合わせられないのもその為であった。
こうした恩もあって、ごく稀に来る神界絡みの依頼はこなす事にしているのである。
「それで、この2人はどうしたら……」
ユウが捕縛した2人の処遇を聞こうとした時であった。
5人のいる場所に大型のトラックがやってきた。
「すいません、手間をかけて。
こちら、回収に来ました」
「あ、それじゃ荷台の方にお願いします」
巫女の指示で吸血鬼の2人を移動させる。
トラックの荷台には大きめの棺桶が二つ並んでいた。
2人はそのまま棺桶の中に収まって行く。
「あれ、何してるの?」
「送り返すのに必要なんですよ。
吸血鬼って基本、流れる水の上は通れないので。
力があるなら普通に耐えられるんですけどね」
「ああ、こ奴らは下級じゃから耐えられぬというわけか」
後日、魅了の効果が高すぎて中々解除されなかったのだが、それ故に後処理がスムーズにいったという事で、2人に感謝状が送られてくるのであった。