ナコの洋楽話 3
ユウが合流した事で先程の話をもう一度する羽目になったのだが、同じ話を二回した事で、ようやくナコの気持ちも落ち着いて整理できたらしい。
「まぁ、やっぱり地道に啓蒙活動するしかないんですよね」
自分で結論を出せるくらいには。
しかし、そこに水を差したのが八起子であった。
「啓蒙活動はいいんだけど……正直、洋楽オンリーだと視聴回数は伸びてないよ。
その辺りも考えないと」
ナコ相手には砕けた言葉になるのだが、その内容は現実的であった。
そう……配信者として視聴回数は気にする必要があるのだ。
「むぅ……確かにそうなんだけど。
やっぱり人気の楽曲に一曲、二曲混ぜておくのが無難って感じかな?」
ナコも八起子に対しては砕けた言葉になるのだが、その意見は現実的で表情はキツい。
そうして2人で云々と唸っている時、ユウがボソッと思いついたことを呟いた。
「そもそもなんだけど、日本人に向ける必要があるの?」
『え?』
ユウの言葉に2人は同時に顔を上げた。
「いや、日本人がアメリカへの憧れが薄くなっちゃったのは時代だから仕方ないじゃん?
でも、本場では人気だし知名度も高いんだから、海外ニキに向けて発信していけばいいんじゃないかなって」
「確かに……それなら視聴回数は稼げるかもしれないっスね」
「でも、問題はどうやって海外ニキ達にアピールするか……」
「そんなもの、ハニーに頼んでコラボしつつ宣伝して貰えばよいじゃろう。
通訳代わりに使ったとしても喜んで引き受けてくれるであろうよ」
ハニーとは、日本のアニメ文化に憧れて来日し、くじよじでバーチャルデビューしたユウ達の後輩である。
日本語での配信と英語の配信を分けており、双方に多数のファンがいる彼女。
実のところ、多くの海外ニキを取り込んでいる分、くじよじの中で最も視聴者数が多いのはハニーの配信なのである。
彼女の配信にゲストで呼ばれ、往年の名曲を披露すれば間違いなく話題になるであろう。
そこで海外ニキから飛んでくる英語のコメントや、そのコメントに対する2人の反応などを通訳してもらえれば、2人の実力であれば間違いなくウケるであろう。
「こうしちゃいられないっス!
ちょっと企画書書いてマネージャー通して実現してみせるっすよ」
「親しき中にも礼儀ありじゃからのう。
仕事として頼む以上はちゃんと謝礼の話もするのじゃぞ」
「それはもちろんですよ。
先輩達にもまた改めてお礼を言いにきますね」
ぺこりと頭を下げてバタバタと帰宅していく2人を見守るユウとマオ。
「解決したみたいで良かったね」
「上手くいくかは今後の展開次第じゃがのう。
とりあえず、その洋楽のアーカイブでも見てみるとしよう」
こうしてナコと八起子が帰った後に2人の洋楽歌ってみた配信をチェックする2人。
実はそこが沼の始まりであることを、この時の2人はまだ知る由も無かったのであった。