指輪の話
「指輪を付けるのいいのじゃが、どちらがどちらか分からぬのは不便じゃの」
「うーん、向こう産の指輪だからサイズが勝手に合ってくれるのはいいんだけどね。
どちらを付けても問題ないとはいえ自分の分は見分けを付けたいよね」
ユウマオの2人は指輪を前にウンウンと唸っていた。
先日ルーナが持ってきた袋を整理していたら出てきた身代わりの指輪。
2人は安全のために外出するときはこれを装備して出かけることにしていた。
しかし、どちらも同じデザインな上に指に付けようとするとサイズが勝手に合わさる仕様になっているためにパッと見でどちらが自分のものか見分けがつかなくなっていた。
何かいい方法は無いかとマオがスマホをぽちぽち弄っていると興味をそそられる情報が載っていた。
「ユウよ、これを見てみるのじゃ」
「なになに、貴方の指輪に好きな文字を刻印します。持ち込み大歓迎・・・いいじゃん、これ」
「そうじゃろう。
早速行ってみるのじゃ。
ふむ・・・この手の店に子供が指輪をしてやってくるのはおかしな話じゃよな。
大人になっておくかの」
「了解!
それじゃ準備終わったら玄関に集合」
こうして用意を整えた2人は広告の店を目指した。
左手の薬指にはしっかりと指輪が装備されている。
実はこの指輪という装備品は薬指に装備しないと効果を発揮しない。
2人とも聞き手は右であるので左手の薬指に装備しているのだ。
もちろん彼女達はこの世界における左手薬指の意味を全く理解してなかった。
「こんにちは〜」
「よろしく頼むのじゃ」
2人は広告にあった宝飾店に入っていく。
「いらっしゃいませ。
今日はどのようなご用件ですか?」
2人を出迎えた若い女性店員が応対する。
「実はこの指輪なんですけど」
「何も刻印されておらぬので文字を入れて欲しいのじゃ」
「!?」
2人が取り外して見せた指輪だが彼女は見逃さなかった。
左手の薬指から出てきたことを。
内心の動揺を抑え込むように数度深呼吸をする。
「はい、承りました。
どのような文字を希望でしょうか?」
「えーっと、僕はY・Tだね」
「妾はM・Tじゃな」
「これはお二人のイニシャルですかね。
あら、苗字の文字が同じなのですね」
彼女は日常的な会話として何気なく聞いた。
しかし、その後に再び彼女を動揺させる発言が飛び出した。
「えへへ、そうなんだよ。
最近同じ苗字になったんだよね」
「そうなんじゃよ。
それも合っていい機会じゃから彫ってもらおうと思ってのう」
「そ、そ、そ、そ、そうなんですね。
そういう記念の品というのはう、嬉しいものですよね」
彼女は動揺して自分が何を口走っているのかよく分かっていなかった。
(え?どういうこと?
同じ苗字になったっていつから日本は同性婚が認められたの?
・・・いやいや、落ち着け私。
同性のカップルは遺産相続のために片方を養子にするという話も聞いたことがあるわ。
きっとその方法で同じ苗字になったのよ)
「そうなんだよ。
だからお願いできるかな?」
「もちろんですよ。
お任せください」
「うむ、それでは任せたのじゃ」
2人は連絡先を教え、出来上がったら連絡を貰うということで指輪を預けて店を後にした。
「ありがとうございました!」
手を繋いで外に出ていく2人を見ながら店員は上がった口角を下げるのに苦戦するのであった。