角と尻尾は親愛の証 〜過去編5〜
「おはよ〜」
「おはよ〜なのじゃ」
「あら、おはよう。
昨日はゆっくり眠れたかしら?」
起きてきた2人に里中が話しかける。
「うん!寝るって本当に久しぶりの感覚だったからぐっすり眠れたよ」
「妾もじゃな。あれ程深く眠りについたのは初めてのことかもしれぬ」
「そう・・・そう言えばそうだったわね。
貴方たちは本当によく頑張ったわ」
里中はそう言って2人の頭を撫でた。
「えへへ〜なんかこう言うの久しぶり」
「妾は初めてかもしれんが悪くないの」
「頑張った子にはたくさんご褒美あげないとね。
あ、いま触れないように気をつけてるけど角とか尻尾とか親しい人以外に触らせないとかあるのかしら?」
里中の質問にマオの目がカッと開く。
「お、お、お、おぬし!
どこでその情報を!?」
「あ、やっぱりそうなのね。
私たち人間にない部分だからデリケートな問題があるかと思ったんだけなんだけど」
「そうか、おぬし中々に鋭いな」
「ええ!?そうだったの?
マオの角とか尻尾とかよく触ってたけど・・・というか、寝てる時にマオの尻尾がよく巻きついてくるじゃん」
ユウがそう話すとマオの顔が真っ赤に染まっていく。
「ユウは妾の初めてで唯一の友達で互いに名前を付けあった仲じゃぞ。
特別に決まっておろうが!」
「わ〜ありがとう!
僕もマオのことが一番大好きな特別だよ」
「朝から熱いわね〜窓開けようかしら」
里中がそう言って窓に向かい下を覗くとビルに入ってくる人影が見えた。
そして程なくして事務所の扉が開く。
「おはようございます、社長!
って、どうしたんですかこの子達?」
入ってきたのは里中の姪でくじよじのマネージメント全般を引き受けている女性「里中 唯」である。
「ああ、昨日ちょっと色々あってね。
ウチで預かることになったのよ」
「色々・・・ですか?」
唯は不審な人物を見る目で里中を見る。
「何を考えているかは知らないけど、現実は貴女が考えている以上のことよ。
簡単にいうとね、この子達は異世界から来た勇者と魔王なのよ」
里中の言葉に唯の思考が停止する。
その表情はまるで宇宙空間にいる猫のようだ。
「おじさんもそんな冗談言うのね。
流石に今のは仕事モードも解けるわ」
唯はやれやれといった様子で2人に向き合い、
「こんな怪しいおじさんの言うこと真に受けちゃダメよ。
・・・それにしてもよく出来てるわね、これ」
と言ってマオの角を触ろうとする。
しかし、
「唯、やめなさい!!」
里中から今までのオネエ言葉が嘘のように本気のトーンでの叱責が飛ぶ。
唯はその言葉に思わずビクッとして手を引っ込めた。
更に2人の方を見るとマオは手で必死に角を隠そうとしており、ユウはそんなマオの前に立ち彼女を守るように陣取っていた。
「え?私、そんな酷いことをするつもりじゃ・・・」
「唯、貴女に悪気がなかったのは知ってるわ。
でも、事情を知らなかったでは済まない事が世の中にはあるの。
2人とも、この子は事情を知らなくて未遂で終わったから許してあげてくれないかしら?
私からよく言って聞かせるから」
里中の言葉にマオは頭の手を下ろす。
そして心配そうに見つめるユウに頷き前に出た。
「妾も過剰に反応しすぎて済まなかった。
しかし、今はこの場所はユウにしか触れて欲しくないのじゃ。
それを分かってもらえるなら水に流そうと思う」
マオの言葉に里中は安堵のため息を吐いた。
「ですってよ、唯。
事情は後で説明してあげるから仲直りしてあげたら?
ちなみにこの子が魔王のマオちゃんで、そっちが勇者のユウちゃんよ」
「は、はい。
ゴメンねマオちゃん。
仲直りの握手しよ」
「うむ!これで妾たちも仲良しじゃな!」
そう言ったマオの後ろから見える尻尾はフリフリと左右に揺れていた。
その動きの自然さと里中の態度から彼女は悟った。
異世界から来た勇者と魔王の話は本当なのだろうと。