天使なので人助けをしてみた
「ふぎやぁあああ!!???…………きゅぅぅ」
盛大な悲鳴と共に巨大な人型の何かが雷雲を抜け山の斜面を駆け降りて行く。悲鳴が途中で消えた。
だん、だん、だん、と山を急降下してもうすぐ降りきるという所で山肌を蹴る。まるで砲撃のような勢いで地面が爆発した。
ズドォオオオン!!!!
爆発によって生まれた土煙から出てきた彼は平然と姿を現し周りを見回した。
家が何軒もある。それに並べられて板に縛られている恐らく村人、では他は盗賊、なんだろうか?彼等は例外なく彼の起こした着地の衝撃で全員が倒れていた。
彼は良かったとばかりに頷いた。
ちょうど村に着地したようだ。ユキナに助けて欲しいと頼まれた村の真ん中辺りと思える所に謀らずとも降りた。誰も巻き込んでなくてホッとした。地面が陥没して近くの家は崩壊していたが。
後は村にきた目的である盗賊を倒せばいいのだが、誰が盗賊なのだろうか。手の上の少女に聞こうと彼は思い手の上のユキナを見てみると……指に抱きついた形で寝ている。成るべく落下の衝撃が行かない様に気遣ったが衝撃はあったせいか。
顔から液が漏れて女の子がしてはいけない顔になっている。ソッと誰も見えない様に隠した彼は紳士だ。
「な、なにが、なんだってんだ」
突然起きた巨大な何かが落ちてきた衝撃に倒れた盗賊達、起き上がった彼等は何が落ちてきたか目撃することになった。そして目撃しなければ良かったと誰もが思った。
「「「「ぎ、ぎゃぁああああ!!?」」」
「ばばば化け物!化け物が現れた!!?」
「う、嘘だろおい!森の魔物は村には来ないんじゃなかったのか!?」
「い、幾ら魔の森だからってあんなの居るわけねぇだろ!?」
「そもそも森じゃなくて上から来たろうが!」
「上から…あの山の上から来たって言うのかよ!」
叫び声に彼も驚いた。姿を見ただけで化物と呼ばれるとは、天使の姿が化け物、彼は天使と言うのは随分と恐れられてるモノなんだなと思う。
「ひいいいい!!」
「あ!ま、待て!」
そんな事を染々と思っていると盗賊?おそらく盗賊が逃げ出した。盗賊か不明だったが逃げたし人相も悪いしきっと盗賊だと思うことにした。
逃がしたら不味いなと攻撃しようと思うと額の目から光が出た。
「ーーーーー!!??」
光りに飲み込まれた逃げようとした盗賊と巻き添えに数人の盗賊。
光の線は線上にある岩だろうと巨木だろうと全てを消した。当然光に飲み込まれた盗賊の末路も、盗賊が居たところには溶岩と化した地面だけが残っていた。どんな高熱ならそうなるのか。
光りに飲み込まれた盗賊の姿は文字どおり影も形も残っていない。彼は目から攻撃出来るとは便利な体だなと自身の身体に感心した。罪悪感?特にない。盗賊みたいな悪党に慈悲はない。たしか盗賊は悪党、盗賊が今一何なのか思い出せないが。
盗賊たちは嫌でも理解させられる。相手はなんと言うか意味不明だが、とにかくこれだけはわかる。自分達の命の重大な危険。
「…に…にげろぉぉおおおお!!」
今度は盗賊全員が逃げ出した。
盗賊家業をしているからか逃げるのにまるで躊躇いがない。命の危機に逃げるのは当たり前だが、しかし今回は熊を相手に後ろを向いて逃げるような行為だ。
ニャンコが本能的に猫じゃらしを肉球で叩くように、彼はほぼ反射的に光の線は再度発射する。
光が逃げていく盗賊を消していく。家や木に隠れれば隠れた場所ごと盗賊の姿は消えていった。
何本も道の様に続く溶岩の道。地獄絵図、ほんの数分で多く居た盗賊は誰も居なくなった。村ひとつを滅ぼそうとした外道たちは僅かな時で断末魔さえ上げることも出来ずに消えた。
いや一人だけ逃げずにガクガクと震えて膝を着いている若そうな盗賊が残っていた。
彼はドシドシと近付いていき最後の一人に額の瞳が向けられる。盗賊はブツブツと何か言っている。彼はなんか怖いなと思いながら最後の締めとばかりに額に光が集まっていく。その集まる光量はどうみても盗賊ごと村が大変な事になりそうだ。
しかし
「ふゃぁあぁ!!?……は、は、わ、わ、わたし生きてる。地面がある。地面がある。生きてる!!アレ?ここ村?……村?ーーんん?焼け焦げた臭いが…………ひやぁ!?マグマ道だらけになってるぅう!!?」
ユキナの声に額の光がヒューと消えた。
確かに見回すと村が溶岩だらけ……改めてみると満遍なく地面が燃えた感じな地獄絵図。盗賊が村を襲ったせいでと被害の責任は盗賊にあるのだが、流石に額からの光で溶岩を増やすのはどうかと思い止めることにした。
最後の盗賊はどうするか。
ユキナに残った盗賊をどう始末するのか訊ねてみた。ユキナは無理無理とばかりに首を振った。
「え、は、はい??最後の一人?……き、気絶してる間に盗賊倒してたんですか。最後の盗賊の人のこと、私が決めるんですか!?そ…そのーーさ、流石に土下座して命乞いしてる人に死刑宣告するのは、ちょっと」
命乞い?ブツブツ言ってるのは命乞いだったのか。本当に命乞いしている?小さい音は彼には聞き取れなかった。耳が遠い訳じゃなくサイズ差的な問題。盗賊に降伏するのか訊ねてみた。
「もももも、勿論でございますです!!」
ブンブンと頭を縦に振って肯定していた。
降伏するなら別にいいかと思うことなくアッサリと盗賊への攻撃を止めた。
盗賊の神経が限界を迎えたのか気絶する。
ユキナが降ろして欲しいと頼んだので降ろす。ユキナは膝をガクガクさせながら移動して板に縛られた村人の拘束を解いていっている。此処まで来れば村を助けてほしいというユキナの願いは叶えたと言っていいだろう。これだとユキナが盗賊の文字通りの殲滅を頼んだ事になるが。
この次は何をするか。やはり…魔神の封印を守護していた天使とすれば魔神を見つけ出して再封印するべきだろう。そう思う彼は天使としての責任感がある。
しかし肝心の魔神について記憶喪失であり何も知らない。なので彼は魔神についての情報をユキナが解放した村人から収集する事にした。
村人の顔に盗賊が居たときより絶望感があるのには……特に気付かなかった。
代々ワシの家系が村長を勤めるこの村は辺境と言うにも生易しい程の僻地にある。周りは高位の魔物の生息する森に囲まれマトモな人間なら来ないような場所だ。
何故御先祖がこの様な危険な僻地に村を作ったのかと言えば…村の傍にある巨大な山……自然に出来たとは思えないまるで剣の様な形をした山が原因じゃ。
今では女神セリフィアさまが唯一の神とされているが、太古の昔には、女神さま以外にも多くの神々がいたという。そんな神々が存在した太古、強大過ぎる力を持った魔神が暴れ殆どの神々は魔神によって打ち倒されたという隠された言い伝えがある。
太古の時代、此のままでは世界が魔神によって滅ぼされるという所まで追い詰められたらしい。しかしそんな絶望的な情勢の中で女神さまは自身の身を犠牲に魔神の動きを留め、その隙に魔神を封印したと言われている。そんな恐ろしい魔神が封印された山が我がフウサの村の傍にある山だ。
山の頂上では女神さまの部下の天使さまが封印を護っている。そして我が村も部外者を山に入れることを防ぐため、畏れ多い言い方をすれば天使さまと同じように封印を守るために存在していた。
ただ村の人間は肝心の封印については知らない。
山について村ではただ禁断の山と呼び人が入れば災いが起きる危険地帯としか思われていない。
魔神が封印されている事は、我々の家系、先祖は神の眷族であり、この山への侵入を止める使命を女神さまから与えらた我が一族しか教えられていない。
なぜ隠すのかと言えば魔神の情報が漏れるのは危険だからだ。魔神の様な強力な存在が知られればどうなるか……特に魔神教なる魔神を崇拝する狂信者等に知られればどうなるか。
使命をおびた我が一族、村長はワシでちょうど100代目になる。冗談とされてるが本当だ。それだけ長くワシの一族は封印を守るために存在していた。
なのに……あぁ……
ワシの息子夫婦には一人娘孫娘が居る。
まるで先祖返りしたと思えないほどの美しく可愛らしい孫娘。……色々と変わった娘じゃ
ワシは孫娘のユキナが13なったつい一月前に一族の者として天使さまと魔神の封印について伝えた。その一月後じゃ……ユキナから村の近くに怪しい男が来ていると教えられたのは。
ユキナは魔神の封印を解きに来た者達じゃないか危険だとワシに言った。
それにワシは……違うだろうと答えた。
ユキナから言われる前に怪しい奴が来た話は確かにワシも聞いていた。ワシが直接確認すると怪しいもの達は魔法協会の学者達じゃった。
彼等は言った大規模な魔法実験をするのに来ただけだと。
怪しいがワシらの一族には秘宝である女神さまからいただいていた嘘を見破るアイテムがあった。そのアイテムに反応しなかった。女神さまの秘宝が間違うことなどない。つまりその者達が実験に来ていると事に偽りはないと言うことだ。
大規模な魔法実験、どういうものかは機密と教えられず判らないが周りへの影響を気にしてこんな辺境まで来る理由にはなると納得できた。
魔法実験でワシらの村に悪影響が無いかと言う質問にも無いと答えて嘘の反応は出なかったしの。問題ないと判断した。魔法協会の学者の一人がティアーレンの町に移住したこの村の出身じゃったしな。
それでもユキナは危険だと言っていたが、ユキナの親の息子夫婦は取り合わず、ワシも魔神の封印について知りユキナが無駄に警戒してるだけだろうと判断してしまった。……ユキナは変わった娘じゃったしな。
その時のワシは後から…死にたいほど悔いる事になるとは思いもしなかった。
「此所が指定の村で間違いないですよね頭」
「あ?あのデカイ山があるし間違いねぇな」
「ただの寂れた村にしか見えないんですがねぇ。こんな村を滅ぼすだけでドラゴン討伐並の報酬をいただけるなんて、担がれたとか無いですよね?」
「担ぐのにあんな前金を軽く渡したりしないだろ。前金だけでも十分なぐらいだ」
「魔神を崇拝するとかいう宗教からの依頼でしたっけ?彼処ってウチらの組織より戦力はありますよね。なんで自分達でなんでやらないんでしょう」
「魔法協会の奴等を貶めるのが目的だとよ。自分達が直接動けばバレるから俺達に依頼したんだと」
瞬く間にワシらは捕まった。
そしてこの様な会話が聞こえた。
「魔法協会が狙いね……そういや魔方協会の連中は依頼された魔方陣とやらは描いたのか?あの後にやらないと成功報酬は無いんだろ」
「あぁ確認した。」
「これで後は約束通りのやり方で始末すれば諸々協会の連中の仕業って事になるんだったか」
「アイツらの描いた魔方陣が後から全滅した村で見付かれば先ず犯人扱いされるだろう」
「魔神教はなんで協会の奴等を?」
「さぁな?其処までは聞いてない。だがあの魔法協会の奴等は方々でやらかしてるからな、大方魔神教からも怨みを買ってたんだろ」
「村人が惨殺された村に魔方陣、悪魔召喚でもしようとしたとか言われそうだ。はは実際は魔神さま何だけど」
「あの連中が否定しても誰も信じないだろうし良い身代りだぜ!」
「げへへ、この魔方陣の効果は感情をエネルギーにするとかで本当に問題ないのになぁ。頑張って研究した魔方陣が悪事の証拠になるとは協会の可愛そうに」
「お、おまえ嬉しそうだな。詳しいし」
「あぁソイツは魔法協会から追放されて恨みが有るとかで参加した奴だからな」
会話からあの魔法使い達は利用された無実な者達だと知れた。……相手が騙されていたなら嘘を見破るアイテムがあっても意味がない。そして会話から察する事が出来てしまうこと……ワシらを皆殺しにするつもりだ。
その事実は縛られて聞かされたワシら全員を恐怖と絶望で震え上がらせるには充分じゃ。
ワシも震えていたが違う。
ワシは恐怖もあるがそれより焦りが原因で震えていた。
目的は協会とやらを貶める目的なんかではない。魔神教が関わっているなら目的は魔神じゃ……狙いは確実に魔神じゃ!
「ふぬぅうううう!!!!ふぐううう!!!」
「あのジジイなにか言いたげだな」
「どうせ命乞いだろ」
ぐぬぅうコイツらは自分達がやろうとしていることの意味を知らない。口の縄がなければ奴等に魔神の事が伝えられるのに!
ダメじゃ!まるで此方の言うことを聞く気がない。焦りを感じながらワシは何故、ワザワザそんな会話を此方に聞かせたのか疑問を感じた。それも奴らが面倒そうな顔をするほど長々と……日を跨ぐほど長くなると、脅す理由が有る
たしか魔方陣が感情をエネルギーにすると言っていた。その魔方陣は……ただ冤罪を被せる為だけのモノなのか?もし、もし、魔方陣によってワシらの感情がエネルギーにされているなら………。
……イヤな予感を感じた。
そしてその予感が正しいというように、徐々に空には黒い雲が禁断の山を囲むように出ている。一筋の流星が山から流れた。
「おー本当に天候が悪くなってきたな。ならソロソロ良いな?後は此所に書かれた手順通り………はぁ、サクッと殺れたらなぁ。くそ面倒だ」
「全く意味わかんねー指示だよな」
「おら!お前らぐちぐち言ってねーでサッサと縛って並べろ!」
アイツらは会話をしながらワシらを板に縛り付けた。そして一人一人並べた。口を布で縛られたワシらは助けを乞うこともできない。呻き声と啜り泣く声しか出せない。
いよいよやられるのだと思った。
しかも魔神への生け贄となるような形で……心が恐怖と絶望に覆われた時……
「お?なんだ。雷か」
「雷の音じゃねーよ」
空からダン!!!ダン!!!ダン!!!と不気味な音がした。
「おいおい、音が大きくなってるぞ」
「山から何かくる!!」
確かに何か山から降りてきている。
山に掛かった雲を突き抜けて何かが現れた。
現れたのは……
巨大な……ひやぁぁあぁぁあ!!!!??




