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#3「ワルキューレの朝」

「……ちゃん。なっちゃん」


「んん……」


 誰かの声に起こされた。夢と現の間で揺れながら認識できたのは、そのことだけだった。そして数秒後、今の声を自分は知っている、と思い出した。


「あっ……!」


 そして、即座に思い出した。


 笹苗名津稀。15歳。今、"裏世界"にいる。自分のことは覚えている。そしてら彼女のことも。


 目を開ける。昨日出会った少女が、自分自身でもあるササナエ・ナツキが、ベッドで眠る自分の上に座っていた。昨晩取れた義手の左腕も、もう元に戻っていた。


「……ナツキさん」


「ふふっ、おはよ。ちなみに添い寝でしたよ昨日は」


 笹苗名津稀と、ササナエ・ナツキ。1人で迎えて2人で迎える、最初の朝であった。






「あれ……もうお昼なんだね。ごめん、私寝過ぎちゃったかな?」


 時計を見て、名津稀は言った。彼女の世界とは文字が反転しているが、針の位置で大体の時刻はわかった。12時ちょうどぐらいだ。


「明け方まで起きてたんだから、こんなもんじゃない? 朝に寝て昼に起きるっていうの、こっちでは割と普通の習慣だしね。さてと……何から話そっか」


 ナツキが小さな部屋をうろちょろとしながら言う。壁や天井がボロボロなのは目立つが、部屋としてはしっかり機能していて、最低限の家具が置いてある。作り自体はホテルの一室のような部屋だ。


「……えっと」


 一方名津稀の方は、どうしようか迷っているような様子でベッドの上で膝を抱えている。ベッドのそばの鏡台の横に置いてある自分のメガネを見つけ、とりあえずかけるのだった。


「楽にしていいよ? あたしの部屋だから」


「あ、うん……えっと、私あの後どうなったんだっけ……昨日の夜」


 昨日の夜、ナツキと出会った。化け物に襲われた。生きたいと思った。そして、"生きるとは何なのか"、それを考えた。笹苗名津稀は、真に"生きた"。そこまでは覚えている。


「あの後、なっちゃんが怪物を倒したじゃん? すごい銃で」


「え……あ、ホントだ。うん、そう」


 そう。そういえば、そうだ。名津稀は確かに戦った。


「何も考えずにとりあえず撃って……運良く倒せて……」


 名津稀は1人で呟く。呟いたものの、正直実感が無い。自分が、いつだって"やられ役"だった笹苗名津稀が、あの化け物を退治しただなんて。


「そんで、倒したらなっちゃんそのまま気を失っちゃってさあ。疲れたんだろうね」


「そっか……そうなんだ」


 記憶が曖昧で、彼女の言葉を信じる他なかった。だけど。


「だけど……じゃあ、何で今ここに……」


「最初はあたしがここまで背負って運んであげようと思ったんだけど、流石にしんどくて。力自慢の仲間呼んで運んでもらった。今はもう怪物もいないし、ここは安全だから大丈夫」


「え……あ、うん……うん……?」


「……そんな説明じゃ混乱するだろ、彼女も」


 返答に困っていた彼女がはっきりと何かを言う前に、部屋の戸が開く音がした。


 戸を開けて部屋に入ってきたのは、女性。紫の髪を長く伸ばした、整った顔立ちの大人の女性だ。なかなかの長身かつスーツを着ているのが、クールな印象を与える。


「あー、マスター。こんにちは」


「あ、こ、こんにちは……」


 ナツキに倣って、名津稀もすぐに挨拶した。


「こんにちは。君が向こうの世界の名津稀ちゃんだな」


 名津稀と目が合うと、彼女は微笑んで話しかけた。少し低めの鮮明な声が、名津稀の耳にすっと入ってくる。寝ぼけた頭では言葉のインプットに時間がかかったが、意味をすぐ理解した。


「は、はい。笹苗名津稀……です」


「知ってるよ。ナツキ……あー、そっちのナツキな。ソイツが昨日の夜説明してくれた。私は──」


「ナツキさあああああああんっ!!」


「って、もう1人来たか」


 女性は笑いながら言い、何故か横にズレて道を開けた。


「……?」


 名津稀は首を傾げた。なんだか、飛んでくる飛来物をかわすような動きだったから。


「ナツキさーーーーーんんん!!!」


 そして、そんな大声が再び聞こえてきたかと思うと。


「え……え!?何!?」


「大丈夫でしたかーーー!?!?びゅーん!!!」


 などとのたまいながら、何者かが猛ダッシュで部屋に飛び込み。


「ぐへっ」


「ええ!?」


 立っていたナツキ目掛けて、ダイブしてきた。ナツキが受け止め切れず、その人物ごと後ろに倒れて踏み潰される。


「ちょ、あっち。あたしじゃなくてあっち」


 壁ドンならぬ床ドンのような姿勢になりながら、ナツキはベッドに座る名津稀の方を指差した。


「おーっと! そっちでしたか!」


「そ。早くどいて」


 倒れ込んで初めて、そのフォルムが名津稀にもハッキリと見えた。ツンツンの髪型の少女……いや、少年にも見えなくもないが、おそらく少女だ。胸が膨らんでいる。


「あーっと、すみません!」


 少女は慌てて立ち上がったかと思うと。


「では改めて……名津稀さーん!!」


「え、ちょ!?」


 今度は、名津稀の方に飛びついてきた。上半身を起こしていた名津稀も同じくバランスを崩して、少女に抱きつかれながら再びベッドに倒れ込む。


「あ……あ、あの、何でハグ……?」


「敬愛と親愛とよろしくのハグですっ!」


「いや、あの、"何の"じゃなくて"何で"……」


「あ、WHATじゃなくてWHYでしたか。まあ理由はどうでもいいんですよ!」


「……コホン。カンナ、離れろ。落ち着け。離れて落ち着け」


「はーい」


 なんか、犬みたいだな──名津稀がそう思った少女は、先ほどの女性に諭されると、そそくさと離れて彼女の方へ戻っていった。


「驚かせて悪い。コイツはミツゾエ・カンナ。そんで、私はツヅミ・トモコだ」


 女性ことトモコは隣のカンナを指さした後、自己紹介した。


「えと、笹苗名津稀と言います……」


「知ってるよ」「知ってますね」


「……あっ」


 そうだ、この人たちは昨日から自分を知っているんだった──些細な間違いが妙に恥ずかしくなり、名津稀はすぐさま毛布に顔を埋めた。


「はは、なっちゃん可愛っ。誰に似たのかなー? あー、あたしか」


 ナツキが茶化すように言う。ついでに自画自賛を添えて。


「なっちゃん? あー良いですね、その呼び方!」


「へ?」


「両方ナツキだと呼びにくいしな。よし、君はなっちゃんだ。これはリーダー命令」


「ふぇ……」


 結局、この人たちも何言ってるのかよく分かんない……とは、流石に名津稀も言わなかった。


──────────────────────

 それじゃあ、この世界のことから話そうか。ナツキが話したと思うけど、ここは君の世界の裏、裏返しの世界だ。裏返しだから、そっちの世界と同じ人間が生きている。裏返しだけど、歴史や常識は全く違う。そして怪物が蔓延っている。そこに理由も何もない。"こっちの世界はそう言う世界"、それだけ。


 怪物_まあ、カゲクイって言うんだが。奴らが初めて現れたのは数十年前のことだ。それ以来、裕福な人々は大陸に要塞を作って安全を確保し、庶民や貧困層はこうして怪物に怯えながら生活している。今の日本は列島全体がこんな感じの状況だ。国単位での政治なんてあったもんじゃないから、そこらじゅうに私営の軍や戦闘部隊が闊歩してる。怪物と戦ってくれる慈善団体ばかりじゃなくて、武力で悪さする連中までいたりしてね……。


 怪物は夜に現れ、我々を襲う。逆に言えば、昼間は安息の時間さ。だから人々は深夜から朝まで膝を抱えて震え、朝を迎えてから寝て昼に起きる。下の世界と違って混乱するかもしれないけど、郷に入っては郷に従え。頑張って適応して欲しい。

──────────────────────






「ほら。かけてみてくれ」


「はい」


 ナツキの部屋の小さなテーブルを、四人で囲んで座る。トモコが手渡した一つの眼鏡を、名津稀は受け取り、自分がかけているものを外してそれをかけた。


「どうだい? この文字は読める?」


「……あ、読めます! あれ、さっきは文字が反転してたはずなのに……」


 この世界の文字は、下の世界とは反転した書かれ方をしていた。だが彼女に渡された眼鏡をかけるとどうだろう、文字は更に反転して今度は読めるようになっている。


「そっか、よかった。向こうの世界の住人が来た時のために、個人的にいろいろ作っていたんだ」


「本当にありがとうございます。さっきの説明も分かりやすかったです」


 名津稀は微笑んで感謝を告げた。最初は混乱したが、トモコは丁寧な態度で話しやすい。カンナは聞いてみると歳上らしかったが、フレンドリーで親近感を持てた。そしてナツキは、やはり自分自身だからなのか、隣に座っていてくれるだけで嬉しいほどに一緒にいて居心地がいい。


「それじゃあ、着替えたら2人で私の基地に来なさい。さらに説明することがあるし、その眼鏡も向こうでなら正確に度を合わせられる。ナツキの服を貸してやれ。同じ体格だしサイズは大丈夫だろう」


「基地……? あの、それって──」


「じゃあ、ナツキ。まだわからないことも多いだろうから、教えてやるんだぞ」


「はーい」


「え、あの……」


「それではなっちゃんさん! 拙者たち、先に行って待っております!」


 立ち上がって、最後にカンナがそう言うと、2人はそそくさと部屋を出て行ってしまった。


「さてと……よーしなっちゃん、こっちのクローゼットから好きな服取りなさーい」


「うん。ありがとう……あの、基地って?」


 ナツキに招かれるままクローゼットに近づきながら、名津稀は尋ねた。中を覗いて、一枚一枚服を見ながら、ナツキの返答を待つ。


「あー、それね。あたしたちのチームの基地だよ」


「え……チームって、スポーツか何かの?」


「スポーツ? なにそれ?」


「え……スポーツだよ。スポーツ」


「んー? 聞いたことないけど、そんな言葉」


 そうだ、昨晩ナツキに言われた。この世界の常識は、名津稀が元いた世界と同じとは限らない。こちらにはこちらの当たり前がある。スポーツという概念が存在しない。それがこの世界の当たり前なのだと、名津稀は今更気づいた。


「何でもない。ごめん、続けて」


「ふーん? えっと、んでね、チームっていうのは怪物と戦うチームのこと。その基地にこれから行くの」


「……!?」


「どしたの?」


 驚く名津稀の顔を見て、ナツキは首を傾げながら聞いた。


「いや……びっくりしちゃって。ナツキちゃんたちが怪物……カゲクイと戦ってるって。あれ、昨日のあの剣で戦うの?」


「うん。ああいうの、才能ある一部の人だけが使える力みたいでね。君の銃もそう、"ウツシミ"だよ」


「ウツシミ……?」


「ああいう、剣とか銃とかの力のこと。そういう子を何人かマスター……トモコさんが集めて、戦闘チームを作ってるんだ。今はそう言う有志の民間団体が、怪物から普通の人たちを守ってるのが普通。他の組織とも協力しあったりしてね」


「そっか……やっぱり勇敢だね、ナツキさんって」


 名津稀はクローゼットの方を向いたまま、背後のナツキに言う。


「うん……そこまで勇敢ってわけでもないんだけどね。でもあたし、あの剣を託されたから。ある人に」


「託された……?」


「うん。だから、やらなきゃなって思って。あたしが」


 そう語るナツキの顔が寂しげだったのは、クローゼットと向き合う名津稀には分からなかった。


「そうなんだ……でも、ありがとう。ナツキさんのお陰で私、あの時助かった。ナツキさんが助けてくれたの」


「最後にアイツ倒したのは、なっちゃんじゃん」


「でも、あの銃もナツキさんがいなきゃきっと使えなかったもん。ナツキさんが私の心を晴らして、覚悟を決めさせてくれたから」


「……そっか。ふふん、照れるなあ」


 ありがとねー、と、恥じらいをごまかしながらナツキは言った。


「ところで、まだ悩んでるの? 着てく服」


「うん……だって」


 ナツキに覗き込まれながら聞かれ、名津稀は口を開く。


「だって、棚に入ってるの全部ジャージなんだもん……」


「ジャージ好きだからね、あたし」


「いやだからって、服全部ジャージじゃなくても……今ナツキさんが着てるのだってジャージだし……あー、なんかジャージがゲシュタルト崩壊しそうだよ」


「あははー。頑張ってジャージを厳選しなさいな」


「そんなこと言われてもなあ……」


 名津稀は困り顔で、ジャージを何枚も並べて見比べ、うーんと唸る。


 それを眺めながら、ナツキは思い出していた。


『ありがとう。ナツキさんのお陰で私、あの時助かった。ナツキさんが助けてくれたの』


 自分自身が言ってくれた、些細な感謝。だけど戦って誰かを助けたと言う事実が、ナツキはすごく嬉しかった。


 そして彼女は、思いを馳せてもいた。あの人に。


(ねえ……あたし、成長できてるのかな……?)


 あの日失った、かけがえのない"彼"に。




(あたし、今でも愛してる。あなたのこと)




 ナツキの部屋の二階上。ボロアパートを彷彿とさせるようなコンクリートの廊下を抜けて、ナツキと共に奥の部屋にたどり着き、名津稀はガチャン……と、戸を開けた。


「……すごい。オフィスみたい」


「まあ、オフィスだし?」


 声を漏らした名津稀に、ナツキが軽くツッコミを入れた。


 部屋の中は校長室を彷彿とさせるような整った上品な空間で、奥の机にトモコが座り、その隣にカンナが立っていた。


「お疲れ様です、2人とも!」


「ああ、ようこそ私たちの基地へ。って、やっぱりジャージか」


 カンナが頭を下げて挨拶した後、トモコは上下青ジャージ姿の名津稀を見て言った。


「その、ジャージしか無くて……」


「知ってるさ。だってそいつ……ナツキ、ジャージしか持ってないからな」


「えー? いいじゃんジャージでも」


「頼むから自分のファッションセンスを省みてくれ。あとTPOを弁えてくれ」


「いや待ってマスター! それならカンナさんだってファッションセンスおかしい時あるって! 今普通のパーカーとズボンだけどたまにどぎつい露出魔みたいな──」


「はいはい、座れササナエ君。なっちゃんも、本題に入るから座ってくれ」


「は、はい」


「はーい」


 正直、最後のナツキさんの発言が気になる……と思う名津稀であった。


 客人用であろう、テーブルを挟んで二つ設置されたイスに名津稀は座った。その向こう側にナツキも腰を下ろす。


「あ、カンナさんもお隣どうぞ?」


「いえ、お気になさらず。拙者、今日はこうして秘書っぽく立っていたい気分ですので!」


「は、はぁ……」


 カンナは意味不明な返答をする。最後の方は声色を低くしてカッコつけていた。


「あー、お前もナツキもお喋りが多いぞ。本題に入らせろ」


「トモコさん、ナツキさんからちょっとだけ聞きました。ここ、カゲクイ退治のチームだって」


「そうか、なら話は早い。カンナ、地図を」


「はい!」


 トモコに言われ、カンナは部屋の隅で天井から垂らされた紐を引く。ガラガラガラっと音がした。


「わっ……」


 そして反対側に白い幕が降りた。そこに描かれた図が何なのか、名津稀は知っていた。


「日本列島だ……」


 元の世界と変わらない形の、日本。東京を中心として周囲が青く塗られ、他の部分は赤く塗られている。


「青い部分が、人間がなんとか安定して生きていられる場所。赤い部分はすでにカゲクイが大量発生して、大規模な駆除作戦でなければ制圧が難しい場所だ」


 トモコが地図を見ながら語り始めた。


「もう、こんなに侵攻されてるんですね……」


「いや、むしろ侵攻度はまだ全然マシだ。地図上では押されているように見えるが、20個ほどの都道府県がまだ無事。結構私たちの領土は広い」


 そして、とトモコが続け、地図上を指差した。


「私たちは今ここ、チバにいる。ああ、君の世界では県ごとに色々な文化があっただろうが、こっちではどの県も大して変わらない。何せどこの県も同じように、大変な思いをして維持されているからな」


 千葉県──もとい、ここではチバ。名津稀が前いた場所から少しだけ離れている。世界を跨いでも、同じ座標で目を覚ますというわけではないようだ。そう考えると、名津稀が日本の、しかも安全な場所にやって来れたのは奇跡と言っていいだろう。いや、こんな異世界トリップそのものがすでに奇跡の産物なのだが──


「じゃあ、皆さんはチバを守るチームなんですね」


 考えごとが止まらなくなりそうだったので、名津稀は会話に頭を切り替えて言った。


「そう。チームの名は…………"ワルキューレ"」


「ワルキューレ……」


「「……」」


 繰り返した名津稀の横で、ナツキとカンナは何故か目を合わせていた。


「……ナツキさん、今トモコさんちょっと溜めて言いましたよね? ワルキューレって」


「溜めた溜めた。え、カッコつけたのかな今の」


「カッコつけたんでしょうかね? あんまりカッコついてる感じはしませんが」


「………………」


 こそこそ話の体勢で、だが周りに十分聞こえる声で喋る2人の様は、トモコからすればバカにしているように見えたのだろう。否、バカにしているのだろう。


「………………いいだろ、カッコつけたって!! 黙ってろ二馬鹿ども!!」


「「ブフッ」」


「笑ったな!! クビにするぞお前ら!!」


「……ふふっ」


「あー!! なっちゃん君まで……」


「あっ、ご、ごめんなさい……」


 名津稀は慌てて頭を下げる。実際は仲睦まじい三人を見て、笑みが溢れてしまったのだが。


「で、でもさリーダー、笑っちゃうぐらいリラックスできてて良かったじゃん、なっちゃん」


 ここぞとばかりに言い訳作りをするように、ナツキがリーダーに言った。


「確かに。困惑していても怖れはない、って感じですね」


「……ああ。大丈夫なのか? 無理はするなよ」


「え……あ、はい、大丈夫です」


 名津稀は少したじろぎながら言う。三人に一斉に注目されて、なんだか気恥ずかしいと感じながら。


「皆さん親切ですし……それに昨日、言われたんです」


「言われた?」


「はい、ナツキさんに。『辛くても、辛いこと全部背負って、抗って生きてくしかない』って」


 昨日の夜のこと。恐怖に震えていたこと。そして、ナツキのその言葉が、自分を奮い立たせてくれたこと。全てを鮮明に覚えている。あの夜、笹苗名津稀は生まれ変わったのだ。


「ほう。案外いいこと言うじゃないか、ナツキも」


「んー……あんま言わないで欲しかったな、なんか思い出すと恥ずい……」


「恥ずかしがることないよ。……それで、皆さんが怪物と戦ってるって聞いて、思ったことがあるんです。トモコさん」


「思ったこと?」


「はい。私、そうやって抗って生きてくって決めました。皆さんも、このチーム以外の人たちもみんな、そうやって生きてるんだと思います。だけど、それでも戦えなくて、怪物に怯えながら生きてる人もいっぱいいると思うんです……だから、私──」


 名津稀はそこで、息を吸い直した。


「私、そんな人たちのために戦いたい。このチームに入れてください」


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