魔王の娘に聖剣(レプリカ)をあげました
令奈が着替え終わった頃、エクレアが行ったときと同じ低空飛行で戻ってきた。
「早いわね。投げ捨てたの結構前だったけど見つかったの?」
「うむ、これじゃろう?」
そう言ってエクレアは手にした剣を令奈に見せる。それは、確かに令奈が一時間ほど前に捨てた聖剣(レプリカ)に間違いなかった。
「良く見つけたわね」
「これの放つ聖なる魔力が感知出来たのでな、簡単な事じゃった」
「ふーん、そういうの出てるって事は、レプリカでもモノはちゃんとしてるってことなのかしら」
王様の言っていたことは、まったく信用していなかった令奈であった。
「ほれ」
「何?」
エクレアが聖剣を令奈に手渡そうとするが、令奈は頭の上にクエスチョンマークを浮かべただけだった。
「お主のものであろう」
「いや、だから私勇者なんてやる気無いからそんなのいらないってば」
「本当に妾たちと……いや、妾と戦う意志はないのじゃな」
「ないわよ」
「そうか、そうか」
エクレアが嬉しそうに顔を輝かせる。
「それならば妾はレイナと友になりたいぞ」
「友達? 別にいいわよ」
「本当か?」
「ええ」
「むふー」
エクレアがさらに嬉しそうに口元を緩ませる。
「嬉しいのじゃ。レイナからは知性を感じるし、良い匂いがするし、何より可愛いのじゃ」
「あ、ありがとう」
素直に言われるとなかなかに照れくさいものだった。
「私も襲われずに済んでなによりだわ」
「ところでこれはどうするのじゃ?」
エクレアが聖剣を抜き放ち、天に掲げてみせる。
「どうするって言われてもねぇ。エクレアはそれ使えないの? 手に持てるって事は、聖なるなんとかも平気なんでしょ?」
「まあ多少ピリピリする程度じゃな」
「なら、それエクレアにあげるわよ」
「本当か?」
「ええ、あっ……そうだわ、あげるけど、交換条件よ」
「ふむ、何を望む」
「それをあげる代わりに、私を元の世界に戻して」
「ふーむ」
令奈の言葉にエクレアは難しい顔をする。
「それはなかなか難題じゃ」
「難しいの?」
「ううむ、異世界から勇者が召喚されたという話は良く聞くが、帰ったという話は聞かぬ。勇者どもはいつまでもこの世界に居残り、ほれすぐ其処の人間の国の王も異世界から来た勇者だったはずじゃ」
「ええっ、 そうなの? あの王様がねぇ」
だから勇者の扱いに慣れていたのか、と納得いった。
「あーじゃぁどうしようっ、その剣は別にいらないけど元の世界に戻れないのは困るわ」
令奈は頭を抱えた。
「すぐ戻りたいのか?」
「うーん……」
エクレアに問われて少し考える。
「生活の保障があって身に危険がないのだったら少しの間この世界にいてもいいかなとは思うけど。海外旅行的な? 折角異世界的な場所に来たんだから、観光くらいはしたいわね」
「それならば妾の城へ来ぬか。レイナのことをもっと知りたいのじゃ。もし妾と一緒に来てくれるのであれば、元の世界へ戻る方法を探すことを約束するのじゃ」
「本当に?」
「うむ。ただ、その方法が見つかるかどうかは保証できぬが」
「うーん、どうしようかなぁ」
令奈は考える。普段のテスト勉強よりも必死に考えた。
「エクレアのお城って事は、魔王軍の皆様が近くにいるのよねぇ?」
「まあ妾の配下の者たちじゃな。幹部クラスの者たちは魔王城におるから普段は妾の領地には来ぬ。妾の領地は戦場からも離れておるし、普段は平和なものじゃな」
「そうなんだ。私が行って襲われたりしない?」
「それは心配ない。妾の支配下にある者ならば強制命令によって手を出さぬように出来るし、妾の保護を授けることもできるのじゃ」
「うーん…………、わかった」
レイナは決断した。
「私、エクレアと一緒に行くことにするわ。服も作って貰う約束したしね」
「うむ、レイナのパンツは妾がもらい受ける約束をしたからのう」
「う、うーん……それはまだちょっと抵抗があるけど、本当に新しい服とパンツが貰えるならあげるわよ」
「任せるのじゃ。では早速妾の城へ行くのじゃ」
そう言って、エクレアがバサッと背中の羽を広げて、二度三度羽ばたかせたのだった。