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魔王の娘は○○が欲しい!

 令奈が渋々と答えると、エレクトゥリアスはパッと顔を輝かせた。


「レイナか。お主によく似合う可愛らしい名じゃ」


「あ・り・が・と・う。それよりも、パンツ返して」


 若干顔を赤らめながらレイナはエレクトゥリアスに手を伸ばす。


「妾の名は聞いてくれぬのか?」


「もうっ、はいはい、貴女のお名前なんですか?」


 投げやり気味に令奈は問いかける。


「よくぞ聞いてくれた。妾の名はエレクトゥリアスじゃ」


「え、えれくt……」


 エレクトゥリアスの名前の発音は文字にすれば簡単かもしれないが、巻き舌を多用するような発音で、令奈の耳にあまり馴染みのない音だった。それゆえ上手く発音することが出来ない。


「エレクトゥリアスじゃ」


「ええと、……エクレア。そう、エクレアでどう? 愛称で呼ばせて欲しいわ」


「……まあ、なんでもよいが。ふむ、エクレアか。妾のことをそのような愛称で呼ぶ者は今までおらなんだ。悪い気分ではない」


「そう、良かった。で、名前も聞いたしそろそろパンツ返してくれる? 私もいい加減服を着たいんだけど」


「欲しい」


 唐突にエクレアは叫んだ。


「はっ?」


「これ、欲しいのじゃ。触り心地は今までに体感したことのないほどスベスベでなめらかじゃし。何よりこの匂いが妾を虜にするのじゃ」


 恍惚とした表情で、エクレアは再び令奈のパンツを鼻に押し当てた。


「ちょーっ」


 令奈が目にも留まらぬ速さでエクレアからパンツを取り上げる。


「触り心地はともかく、匂いがいいから欲しいって言われてあげられるわけないでしょっ!」


「なぜじゃ?」


「なぜって、これ、私が穿いてた物なのよ。しかも、二日も穿き続けて汚れてるし、そんなのあげるかぁっ!」


「欲しいのじゃ」


「ダメっ」


「欲しいっ」


「ダーメッ」


「どうしても欲しいと言ってもダメなのか?」


「……あのねぇ、私、着の身着のままこの世界に召喚されて、着替え一つ持ってないの。これをエクレアにあげたら私ノーパンじゃない。丸出しで歩けって言うの?」


「レイナの世界のことは知らぬが、丸出しでも問題無いのでは? 妾はむしろその方が嬉しいぞ? レイナのつるつるのお尻が見れるのじゃろう?」


「問題無いわけないでしょうっ。私は痴女じゃないのっ」


「ではどうすればくれるのじゃ?」


「ああ、もうっ。どうしても欲しいって言うなら、代わりの寄越しなさいよ。それと同じくらいの履き心地のいいパンツをね。あと、あげるときは当然洗濯するわよ」


「別にこのままでいいのじゃ」


「ぜーーーーたいダメっ」


「……むぅ。わかった。今すぐにこれと同じ程度の物は用意できぬが、必ずや代わりの物を用意しよう」


「用意出来るあてはあるの?」


「難しいが、森の奥に住んでいるエルフなら作れるかもしれぬ」


 エクレアの領地の傍に、エルフや四大元素から生まれるとされる妖精族が住んでいる森がある。彼らは手先が器用でエクレアの着ている衣服もエルフに作らせた物だった。エクレアの着ているものは動物の皮を加工したものなので、令奈のパンツのような絹糸から作られた物が出来るかどうかは不明だが。


「その人たちに頼んだら他の服なんか作って貰えるのかしら」


「妾が頼めばイヤとは言うまい」


「へえ、エクレアって結構顔が広いのかしら」


「まあそれなりじゃな」


 エクレアが胸を張りながら、背中の羽をバサりと動かした。


 そこで令奈は、エクレアが明らかに人とは違うということを、改めて認識した。


 パンツを握りしめながら、エクレアから一歩離れる。


「どうしたのじゃ?」


 エクレアが不思議そうな顔をする。


「ううん、なんでもないわよ」


 令奈のこめかみを冷たい汗が流れる。


「あの、エクレアってさ、この辺りに住んでる人じゃないわよね?」


「そうじゃな、この辺りには住んでおらぬ」


「こっちの世界の普通の人って飛べたりするのかしら」


「魔法を使えば飛べる者はいるかもしれぬな」


「羽では飛ばない?」


「人間には羽は生えておらぬな」


 ゴクリと、令奈は息を飲んだ。


「エクレアは……」


 エクレアの角、羽、尻尾をもう一度確認してアレっぽいなと令奈は思った。


 ……そう、アレだ。


「エクレアはドラゴンと関係がある?」


「ほう、良くわかったのじゃ。妾は真竜族というぞ」


「そ、そう……。あと、エクレアは人間が嫌い?」


「妾は別になんとも思っておらぬ」


「ご家族とか、友人とか、近くにいる人は?」


「そうじゃな、妾以外は人間を嫌っておるじゃろうな」


「その人たちは人間と戦っている?」


「戦っておるのう」


 もうそこまで聞いて、答えは一つだなと思った。


「エクレアは魔王軍に所属している?」


「ま、そうじゃな」


 あっさりとエクレアは頷いた。


「いよっし、じゃなくて。私用事思い出したからちょっと失礼するわ。またどこかで会えたらいいわね。さよなら」


 令奈はスタスタと泉から上がって、制服を置いてある場所まで早歩きで逃げだそうとするが――


「待つのじゃ、どこへゆく」


 一瞬にしてエクレアが回り込んできた。


「いや、その、だってエクレアは人間の敵みたいな? 人間と争っているんでしょ?」


「それは父が――魔王がやっていることで妾は今のところは関与しておらぬ」


「父が魔王?」


「ああ、そうじゃな。妾は魔王が娘、エレクトゥリアスじゃ」


「っ! ほら、あれよ。そんな凄い身分の人と私なんかが話してちゃ悪いわ。私は消えるから、私のことは気にせずこの世界の人間たちと戦って頂戴」


「待つのじゃ」


 エクレアは強引に令奈の手首を掴んで振り向かせると、近くの木に寄せ、逃げられないように両手をその木に押しつけた。いわゆる異世界壁ドンである。


「ちょっと」


 途端に令奈は大人しくなる。顔を背けて、未だに全裸のままの体をよじらせて頬を赤く染める。


「妾は人は襲わぬ」


「……本当に?」


 令奈が真っ直ぐにエクレアと視線を交わす。


「ああ」


「私のことも襲わない?」


「襲わぬ。逆に令奈の方が妾を襲う方ではないのか?」


「なんで?」


「令奈は勇者なのじゃろう? 妾たちを倒す為に召喚されたのじゃろう?」


「ああ、そういえばそうだったわね」


 令奈は嫌なことを思い出したと、眉をひそめる。


「私ね、それ辞めたの」


「辞めた?」


「そ、勇者っての辞めることにしたの。剣なんて渡されたって私には使いこなせないんだし、そもそも私の世界ではね、女子高生は戦いなんてものはしないの。なんで勇者として召喚されたのか意味不明だわ」


「つまり妾たちと戦う意志はないと?」


「ないわよ。もう貰った剣も捨てちゃったし」


「剣を捨てた?」


「ええ、なんか昔の勇者が使っていた聖剣のレプリカとか言っていたけど、重かったからあっちの方の街道の脇にある草むらに投げ捨てちゃったわ」


「ふむ、それが本当なら令奈の言うことは信じられるし、妾と争う理由も何一つとしてないと言うことになる。どれ、その剣とやらはあちらの方で捨てたのじゃったな」


 エクレアが令奈の指し示した方に視線を向ける。


「どれ、見てこよう」


「えっ?」


 令奈が何かをいう間に、エクレアはあっという間に低空飛行で街道の彼方へ飛び去っていってしまった。


 残された令奈はというと、とりあえずパンツを泉で軽く洗って丁寧に絞り、湿ったままのパンツを穿き、制服を着たのだった。


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