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裸で水浴びしましょっ

「重い……死ぬわ……」


 かれこれ一時間ほど歩いただろうか。


 景色は素晴らしい。それは認める。異世界の田舎道は見たこともない植物が多く、興味の引かれる道中であることは間違いない。小さな虫のようなものも、得体の知れなさはあるけど、珍しさからつい目で追ってしまう。生物の先生に見せたら目を丸くするんだろうなぁと、初めの頃はそう考える余裕もあった。


 しかし、今はもう周りの景色なんてまったく目に入らず、背負った荷物の重さで腰は曲がり、目の前に広がるのはただただ地面だけだった。


「あーもうっ、何が勇者よ。私はただの女子高生だぁーーーーー!」


 バックを地面に下ろし、そして背負っていた剣を地面に叩きつけた。


「これよ、これが重いのよっ。何㎏あるのよっバッカじゃないの。女子高生がこんな重い鉄の塊を持てるわけがないじゃない。竹刀ですらまともに振れないってのに。鉄の塊なんて振れるわけないでしょっ。モンスター? 魔王軍? そんなのが出てきたって戦えるわけないわよっ!」


 堰を切ったように言葉があふれ出す。ようやく今になって自分の置かれた現状がしっかりと把握出来た。


「あーもうっ、このままじゃ次の街まで行けっこないわ。……そうよ、そうだわ」


 私は考える。どうせ魔物が出てきても戦えっこないのだ。私には逃げの一手しかない。剣なんて持っていても使い道はないのだ。むしろお荷物だ。


 だとすれば……。


 私は――


 重い重い聖剣(レプリカ)を、よいしょーっと持ち上げ頭上に掲げると、そのまま――


「てーーーーーーいっ」


 と、街道脇の茂みに向かって放り投げたのだった。


 聖剣(レプリカ)が視界から消え、バサバサっと茂みが押しつぶされる音を聞くと、肩の荷が下りてさっぱりとした気分になった。


 バッグを肩に掛ければ、もういつもの登下校中の女子高生スタイルだ。


「これよこれ、これなら普通に歩けるし、元気も出るってものよ」


 再び歩き出した私の足取りは軽い。これなら数時間くらいなら歩き続けることが出来るだろう。


「あー、早く次の街へ行ってゆっくり休みたいものだわ。ホテルとかあるわよねぇ? 貰った路銀で足りるのかしら」


 一つ問題が解決しても、次から次に疑問が湧き出してくる。


「お願いだから元の世界に帰る方法を知っている人居てよ~」


 祈るような気持ちで次の街を目指したのだった。


    ****


 それから一時間ほど経った頃だろうか。


 太陽がサンサンと輝き、私の影を色濃く地面に落とす。


「あっっっつ」


 汗がにじみ出して、足下がふらつく。


「まずいわこれ、よく考えたら昨日から何も食べてないし、水も飲んでないわ」


 次の街に辿り着く前にせめて水分補給しないと倒れてしまいそうだった。


 鞄を漁るとクッキーが出てきたが、水のない状況で食べるのは躊躇(ためら)われた。

 水は、どこかにないのかしら。


 こういう山あいの場所だと川が近くに流れているイメージがあるのだけど。

 視線を上げて、耳を澄ませながら辺りを見廻す。


 すると、風に乗ってサラサラと水の流れる音が聞こえて来たような気がした。


 そんな馬鹿なと思うかもしれないけど、一切雑音の無いこの世界だと、自然の音が良く聞こえる。


 音の聞こえる方を見れば、道の先が消えているように見えた。つまりは、崖のように一段下がり、そこに川が流れている可能性がある。いや、あって欲しい。


 わずかな可能性にかけてその方向へ向かうと、


「あるじゃないっ」


 木陰を抜けたその先に、山の上から流れる小さな滝が作る泉があったのだ。


「やったわ」


 全速力で泉の傍に行って水面を覗き見る。


 泉は浅く、膝くらいまでしかなさそうだけど、逆にわけのわからない生物の影もないので安心できた。透明度も高く、両手で掬うとひんやりとして気持ちよかった。


 恐る恐る一舐めして味も問題無いことを確かめると、我を忘れて飲み漁った。


 クッキーを食べて水を飲み、ようやく体中に元気が戻ってくるのを感じた。

「はー、助かったわ」


 バッグの中から飲み干してあった空のペットボトルを取り出し、水を補充する。


 そして――


「時間がないのはわかってるけど、我慢出来ないのよっ」


 誰に言うでもなく呟き、辺りを見廻す。


「誰もいない、誰もこないわよね」


 実際、誰もこないだろうけど、自分を納得させる為に口に出して、私は制服を脱ぎ始めた。


 ブラもパンツも脱ぎ、木の根元に畳んで置いておく。


「まさか、異世界に来て全裸で水浴びする羽目になるとは思わなかったわ」

 私は静かに泉の中に歩みを進める。


 そう、昨日から汗をかきっぱなし。せめて水浴びでもしないと気持ち悪くてしかたなかったのだ。


 水を(すく)って(からだ)に掛けていくと汚れと疲れが取れていくようだった。


「あー、気持ちいいわ。何よりこの開放感。ヤバいわ」


 両手を頭の上で組んでポーズを取ると、自然と笑みがこぼれてしまう。


「癖になりそう」


 異世界へ来て良かったと思える初めての時間だったが、その時私は知らなかったのだ。この後あんな出会いがあるなんて――


次回、魔王の娘・エレクトゥリアス登場予定

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