白炎のメリジューヌが仲間になった?
「くっ、なぜだっ」
「ふむ、これは良い。いつまで命令が持続するかはわからぬが、お主の遊びに付き合わなくて済むのは助かるのじゃ」
「あ、遊びではないっ」
「くっくっくっ、今までさんざん迷惑を掛けられてきたからのう。よい気味じゃ」
エクレアは清々しい表情で立ち上がった。もうメリジューヌさんに興味は無いって感じだ。
「少し街の様子を見てくるのじゃ」
そう言ってエクレアは屋上から飛び立っていく。
続けて、私はメリジューヌさんにお願いをすることにした。
「あのね、メリジューヌさん」
「な、なんだっ」
怯えた表情をするのも無理はない。またよからぬ命令をされると思っているのだろう。
でも、そんなことはしない。
「しばらく、エクレアの街で暮らしてみる気はありませんか?」
「エクレアとは、エレクトゥリアスのことか」
「うん、そうよ。エクレアがやっていること、目指していること。それを見て欲しいの。それが、メリジューヌさんにとって馬鹿らしいと思えることなら、魔王さんのところへ戻っていいから。ただ、何も知らないままエクレアに突っかかることだけは止めて欲しいの」
「お前は人間の勇者なのだろう? なぜエレクトゥリアスと――エクレアと一緒にいるんだ」
「それは、私がエクレアの目指す世界に興味があるからよ。ただそれだけ――」
「……」
「あ、嫌だって言ったら命令するからね」
ニッコリと脅しを掛ける。まあ、興味が無くて帰りたいって言うだけならそのまま帰してあげるつもりだけど。
「くっ、いいだろう。エクレアがいかに馬鹿らしいことをやっているか確認して、それを報告してやろう」
「うん、まあとりあえずはそれでいいんじゃないかな」
よし、これでひとまず戦いは収まったかな。
「あ、街の再建も手伝って貰うからね。自分で燃やしたんだから責任は取ること」
「……」
メリジューヌさんはムスっと頬を膨らませたが、嫌だとは言わなかった。
「さてと、私も街の方へ行って怪我人の様子を見てきた方がいいかな。怪我人はお城の広間に集まって貰ってミレーヌちゃんに治して貰わないと」
「な、に……? 今なんて言った」
何故かメリジューヌさんが目を見開いて驚いていた。
「えっ? ミレーヌちゃんに治して貰わないとって」
「ミレーヌがいるのかっ?」
「ここにいる」
ミレーヌちゃんは先ほどからメリジューヌさんの横にいたけど、気がついていなかったのか。
「げぇっ、水竜ミレーヌ」
腰を抜かしそうな勢いで、メリジューヌさんが尻餅をついたまま後ずさる。
「失礼なの」
「ザッハディール様の元を離れて泉の傍に住んでいるとは聞いていたが、何故こんなところにっ」
「ちょっとした気まぐれ。私もしばらくはエクレアのやることに協力するから、そのつもりでいなさい」
「……」
「ミレーヌちゃん、メリジューヌさんに何かしたの?」
「別に何もしていない。昔、魔王の所にいたときに、躾がなってなさそうだったからちょっと指導してあげたことがあっただけ」
「な、何が指導だ。人を魔法の実験台にしていたではないかっ」
「そんなこともあったの」
ミレーヌちゃんは遠い目で空を見上げた。
ああ、トラウマ植え付けてたのね。ミレーヌちゃんも本気で戦ったら相当強いんだろうなぁ。しかも、メリジューヌさんにとってミレーヌちゃんって、火と水で相性悪そうだしなぁ。
「そうだ、レイナたちに新しい魔法を見せようと思って来たんだった」
「そういえばそんなこと言ってたね」
「ちょっと使ってみる」
「えっ? ここでっ?」
もの凄ーく嫌な予感がするけど、私の心配なんかお構いなしに、ミレーヌちゃんは両手を軽く前に突きだして詠唱をはじめる。
「世界に満ちたる神秘たるマナよ、我が呼びかけに応えよ――アクアストリーム」
いつものように詠唱し終わると、ミレーヌちゃんの両手の先に、小さな魔方陣が二つ現れた。
「MLCを応用してみた。こうやって出力を上げると――」
言いながらミレーヌちゃんが右手の魔方陣をゆっくりとひねっていく。
すると、左の魔方陣の中心から水がちょろちょろと沸き出した。
「おおっ、いいわね。蛇口を捻っているみたいで凄くいいわ。飲み水を出したりするのに使えそうだわ。色々便利に使えそう」
「えっへん」
私が褒めると、ミレーヌちゃんは嬉しそうに胸を張って見せた。
「はははっ、なんだそのションべんみたいな魔法は。その程度の威力しか出せないとはミレーヌも衰えたものだな」
あああ、メリジューヌさん、それは多分とてつもなく言ってはいけないことだと思う。
「……こうやって相手に魔方陣を向けながら、さらに捻ると当然――」
ミレーヌちゃんがメリジューヌさんに水の出ている魔方陣を向けて、出力を一気に上げた。
すると、シュパンっと、とてもいい音が鳴った。
「あああああっ、あたしの羽がぁああああっ」
うん、こうなると思ってたよ。
最大出力まではほど遠そうな威力だったけど、ミレーヌちゃんの出した水は、もはやレーザー並みの鋭さでメリジューヌさんの羽をあっさりと突き破ったのだった。
「馬鹿にする子にはお仕置き」
眉一つ動かさないで、ミレーヌちゃんは涼しい顔で言った。
うーん、さすがというしかない。
「ああああああっ!」
のたうち回るメリジューヌさんを見ながら、ようやく平和が訪れたかなと思ったのだった。