マジカルスマホ、欲しい? 欲しくない?
「魔法って言うか、科学の結晶? 作り方を聞かれてもわからないわよ。それぞれの分野の天才的な人たちが作り上げた物だから」
「フーッ! フーッ! 凄い、凄いのっ! なんて綺麗で細かい絵っ」
「こうやると動かせたりするわよ」
ホーム画面に戻して、指で画面をスワイプさせて表示を切り替えていく。ゲームを起動させてみたが、残念ながらネットに接続されていないのでタイトル画面から先へ進むことはなかった。
「ハーッ! こんな小さな箱の中に凄い術式を詰め込んでいるということはわかった」
「術式じゃなくて、プログラムだけど、ああ、でも術式もプログラムも似たようなものなのかな」
「詳しくっ」
「ええー? 私もプログラムは触ったことないけど、なんかこのスマホが理解できるプログラム言語ってので書かれたやつがあって、それがこの中で実行されている、みたいな?」
「指を動かしたら、この絵が動くようにしてある、そういうことっ!? 水を呼びだして、敵を切り裂く威力にして飛ばすには、こういう術式を組んで自分に刻印してるけど、それをこの小さい箱に刻んでるってこと?」
ミレーヌちゃんが猛烈な勢いで地面に六芒星を描いて、さらに周囲に読めない文字を大量に書き込んでいく。どうやらこれが水の魔法らしかった。
「ま、まあ、おおざっぱに言うとそうなるのかな。多分本当はもっと複雑なんだろうけど」
「うーっ」
突然、ミレーヌちゃんが頭を抱えてうずくまった。
「ど、どうしたの?」
「魔法を開発するのは好きだし得意だけど、こういうのは思いつきもしなかった。くやしいっ。レイナたちの世界では、これはどのくらいの期間で作られたの? 最低でも五百年くらいはかかったでしょう?」
「うーん、どうだろ、スマホ自体は二十年くらいじゃないかなぁ。この形になる前に携帯電話ってのがあるんだけど、それでも五十年ちょっとくらい?」
「そ、そんな短い期間で作ったの?」
「ああ、待って、コンピュータの歴史でいったら百年以上かも」
「たったそれだけでっ!」
フォローしたつもりだったのだけど、余計にショックを与えてしまったようだ。
「じゃ、じゃあ、私がこのスマホとやらに魔法を刻印したら、なんか指でパパッとやるだけで、魔法を発動できるようになるってこと?」
「そ、それは難しいんじゃないかなぁ。魔法が使えるような端末じゃないし、でも、魔法の言葉に対応したスマホが作れたらそういうのも出来るんじゃないかな。魔法アプリみたいな? 数百個の魔法の中から、指一つで発動させられます、とかいうのがあったら便利よね」
「むむむ……」
ミレーヌちゃんはかなりのカルチャーショックを受けていた。よく考えれば、普通の人にとってスマホは魔法の端末といっても過言ではないほどの性能をしていると思う。いやー、現代に生まれて良かった。
「話を戻させて貰うのじゃ」
エクレアが話に割って入る。
「レイナたちの世界の技術が凄いのはわかってもらえたと思うのじゃ。妾の目指す世界はまさにレイナたちの世界そのもの。こんな面白そうなものが使える世界はそれこそ面白そうじゃと思わぬか?」
「思う」
ミレーヌちゃんは即答した。
「うむ、じゃから、まずはこのスマホを自由に使えるようにしたいのじゃ。妾もまだ全然触っておらぬから、いっぱい触ってレイナたちの世界のことを知りたいのじゃ」
「その為に電気の力が必要だと」
「そうそう、これは電気の力で動いていて、バッテリーが充電されていないと動かせないのよ」
「それは、つまり雷の魔法で動いているということ?」
「雷の魔法……というわけではないかな~。私たちの世界に魔法はないから、魔法は非対応です。あくまでも、電気の力のみで動いているから、なんていうのかな、電気は何で作ってもいいのよ、科学でも魔法でも。重要なのは、電気があって、それが適切な出力でこの充電ケーブルを伝ってくれるかどうかってこと。魔法自体では多分無理」
「うーっ」
またしてもミレーヌちゃんは頭を抱えた。
魔法と科学。この違いは知らない人にとって、なかなか理解されないものなのかもしれない。
「もの凄くショックを受けたけど、やりたいことはわかった。エクレアが発動した雷の魔法が、スマホに適した出力になればいいのね」
「そういうこと。エクレアに雷を出して貰って、かなり力を押さえた状態で充電器を握って貰ったら充電出来たのよ。その辺りまで落として貰えるといいかな」
「エクレア、それはどれくらいだったの」
「ううむ、これくらいじゃったかのう」
エクレアが手の平に集中して力を込めると、バチバチという音と共に青白い光りがほとばしった。
「もっと抑えておったかな」
さらに集中すると、ほとんど光がわからないくらいになった。
「ぐぬぬぬぬ」
どうやらエクレアにとって、力を抑えるというのは非常に難しい行為のようで、額に汗が滲んできていた。
「なるほど、わかった」
「ふうっ。やっぱり疲れるのじゃ」
エクレアが大きく息を吐いた。
「魔法で制御せずに、自前の雷撃を抑えようとすれば疲れるのは当たり前」
どうやらエクレアが出していた電気は魔法ではなく、真竜族特有の技、というか電気鰻的な発電のしかたをしているらしかった。電気を作る器官が備わっているのだろう。
「一から雷撃を呼びだして、それを維持しつつ出力を抑えるのは大変だけど、エクレアが作り出す雷撃をほんの少しだけにするのなら簡単。それならすぐに出来る」
「さすがじゃの」
「エクレアの協力も必要だから一緒にやる」
「うむ」
「それなら早速奥の部屋へ行くの」
「私も見ていていい?」
「問題ない。むしろ、スマホを作り出した異世界人の意見も聞きたい」
「いやまあ、私が作ったんじゃないけどね」
というやりとりをしつつ、奥の部屋へ向かうと、そこはそこそこ広い空間があるだけの部屋だった。部屋の隅にいくつか壺と、巨大な葉を重ねて作ったと思われる箒が置かれているけど、それ以外のものは見当たらない。ただ、地面は平らに整えられていて、何か銀色に光る砂が撒かれているようだった。