エルフの里観光ツアー
「待っている間、里の中でも案内しましょうか」
と言うサリアさんの提案で、エルフの里を見て回るという貴重な経験をさせてもらえることになった。
エルフの里は牧歌的で、ゆったりとした時間が流れているのを肌で感じることができる。機械的な音が一切しないのが、まったりさ加減に拍車を掛けているように思う。大きな神社を訪れている感じというのが一番近いかもしれない。
露天などのあったメインストリートを外れると、それが一層顕著になる。
大木の乱立する森の中を進むと、かなり大きな泉が姿を現わした。その水辺でエルフの美少女達が水浴びをしながら歓談に花を咲かせて、琵琶のような楽器に合わせて笛を吹く優雅な空間がそこにはあった。まさにファンタジーな世界だ。
きゃっきゃうふふと裸の美少女エルフがいちゃつく様は、同性の私が見ても幻想的で美しいと思う。妖精かな、と思ってしまう。
少し気になったのは、皆裸のまま恥じらいもないのもそうだけど、全員が女性だと言うことだ。そういえばこの里に入ってから男のエルフを見ていない。
「あの、男の人っていないんですか?」
「ああ、男連中は今はみな狩りに行っているわ。戻るのは数日後かしら。だから皆ああやって開放的に楽しんでいるのよ」
私の考えを見抜いてサリアさんは答えてくれた。
「狩猟してるんだ。そっか、農業じゃないんだ」
そういえば、エルフが汗水垂らして土を耕すところを想像出来ないなと思った。いや、狩りだって汗水を垂らすだろうけど、弓を使って狩りをするイメージの方がエルフっぽいと感じたのだ。
そんな水辺で戯れるエルフ達が、私たちに気がついたのか、チラチラと視線を送ってきていた。
「ほら、あの子達がエレクトゥリアスに気がついたみたいよ。手を振り返してあげなさいよ」
どうやら裸のエルフ達はエクレアがお目当て? みたいだった。
「じゃからそういうのはやらぬと言っておる」
「えー、なになに、エクレアって人気者なの? エクレアは一応この辺りの領主だし、結構慕われているんだ」
「そうよ。魔王が勝手に決めた事だけど、エレクトゥリアスはむやみに私たちに暴力を振るうことはしないし、ユニコンを狩ってきてくれるし、他の魔王軍の人たちと違って理性的で助かっているわ」
サリアさんが代わりに手を振って応える。
「当然じゃ。エルフは手先が器用じゃし、加工技術も持っておる。妾の理想世界を作る手助けをして貰わなくてはならぬ」
「わたしは手伝ってあげたいのだけど、長老達がいい顔をしないのよねぇ」
サリアさんがため息を付く。
「いずれあやつらも説得してみせる。レイナが来てくれたことで、ようやく妾の目指す世界が見えてきたのじゃ」
エクレアが立ち止まり、遠くに視線を向けた。理想に燃える姿はちょっと格好いいと思ってしまった。
そんなエクレアの姿を見て、裸のエルフ達がきゃーきゃーと騒ぎ始める。
「あらあら、そのポーズはあの子達へのサービスかしら?」
サリアさんがからかうような視線をエクレアに送る。
「そんなわけなかろう」
「エクレアはエルフに好かれて嬉しくないの?」
エクレアの性格からすると喜びそうな気がしたんだけど。
「好きも嫌いも無い。エルフは匂いが薄くて食指が動かぬだけじゃ」
「……」
「里の女の子はキレイ好きだから、匂いなんてさせないのよ」
「そもそもエルフは元から匂いが薄すぎるのじゃ」
「ん、あれ? ちょっと待って。エクレアは私の匂い好きとか言ってたわよね。それって何? 私の匂いが濃いってこと?」
「うむ。レイナの匂いは大好きなのじゃ。芳醇でいて香ばしく。妾を虜にする良い匂いなのじゃ」
「ちょっと待って! それじゃあ私が臭いみたいじゃない。私だってお風呂には朝晩入るし、匂いには気を付けてるんですけどっ! 確かにこっちに来てからはお風呂に入れてないけど、ちゃんと気を付けてるんだからっ」
「大丈夫じゃ、レイナはそのまま良い匂いのままでいて欲しいのじゃ」
「全然フォローになってないんですけどっ! この匂いフェチっ! ヘンタイっ!」
ええーっ、もう信じられない。年頃の乙女の匂いが好きとかっ!
もうちょっとデリカシーを持って欲しいわ。
「待つのじゃレイナ。妾はレイナのことが大好きなのじゃ」
早歩きで先に進む私の後をエクレアが小走りで追いかけてくる。
「私の匂いがでしょ」
「両方じゃ。妾はレイナのことが大好きじゃ。今までこのような気持ちになったことはない。妾はレイナの全てが好きになったのじゃ」
「っ~~~。もう、そういう恥ずかしいことを大声で言わないでくれる」
エクレアが追いついて腕を絡めてくる。それを振り払いたかったけど、なんとなくそのままにしておいた。大好きとか連呼されても嬉しくないんだから。
「二人とも仲がいいわねぇ。人間がエレクトゥリアスに迫られるところを見る日が来るなんて思わなかったわ」
「わたしはお姉ちゃんが好きだけどね」
「あら、ありがとうティア。そうだわ私たちも腕を組みましょうか」
「うんっ」
何故か後ろでも腕を組んで歩き始めたエルフが二人。良くわからないカップル二組風になりながら、私たちはしばらく里の中を歩いてジャニスさんの元へ戻ったのだった。