私のパンツを作って!
サリアさんに案内され、エルフの里を歩いて行く。
エルフの里は「自然と共に生きる」、を全力でやっている感じだけど、一応露天のような物はいくつか出ていた。ただ、どうやら物々交換で商売しているらしく、お金は使っていないようだった。
「ねえ、エルフの里は、エクレアの領地ってわけではないの?」
「領地の中にはあるが、妾には従っておらぬ、という感じじゃの」
「敵対しているってわけではないのよね?」
「わたしは敵だと思っているぞっ!」
「うむ、必要があればお互いを利用する関係じゃな」
ティアの言葉は黙殺するとして、エルフの人たちは知性も美貌もあるし、エクレアの目指す街作りに協力して貰った方がいいと思う。お城へ戻ったらそのあたりのことも言ってみよう。
私とエクレアは、エルフの人たちにジロジロと見られはするが、エクレアは何度も来ているみたいだし、危険を感じるということはなかった。
「ジャニス、入るわよ」
サリアさんがとある一軒家の前で立ち止まり、中に向かって声を掛ける。そして返事も待たないまま勝手に入っていった。
この辺りがエルフ流なのだろうか。田舎のおばあちゃんの家で、いつの間にか近所の人が入ってきて、野菜を置いていったりしていたのを思い出したのは内緒だ。
「あら、サリア。お客さんを引き連れてどうしたの?」
ジャニスと呼ばれたエルフの女性も、これまた美人だ。長い前髪が左目を覆って、ちょっとアンニュイな雰囲気を醸し出している。エルフは本当に美人しかいないなぁ。ついでにスタイルもいい。ちょっとナルシスト入ってる系な気がしないでもないけど、それを差し引いても魅力的だ。
「エレクトゥリアスがパンツを作って欲しいそうよ」
「あら?」
「妾の物ではない。レイナのパンツを作って欲しいのじゃ」
「パンツって下半身に付けるアレでしょう?」
少し嬉しそうにしながらジャニスさんは前髪をかき上げた。
「アレじゃ」
なんか凄い会話してるな。自然主義のエルフにとってパンツはアレ扱いか。
「そっちの女の子はもしかして人間かしら? それにしては違和感が……んんっ? 耳がまん丸じゃない」
ジャニスさんが目を輝かせて私の耳に熱い視線を送ってくる。この世界の住人は丸い耳に興奮する遺伝子でも持ってるのかしら。よっぽど丸い耳が珍しいみたいだ。
「どうじゃ、可愛いじゃろう。おまけに尻尾も生えておらぬのじゃぞ」
「あら、本当じゃない。素晴らしいわ」
エクレアとジャニスさんが私のお尻を――
「って、勝手にスカートめくるなぁっ」
慌ててスカートを押さえつける。こいつら自由だな。
「どうじゃ珍しいじゃろう」
「ええ、もの凄く珍しいわ。この子一体何なの? この世界の人間? 新種の生物?」
ジャニスさんが首をひねる。
「まあ、正解じゃな。レイナは人間達が異世界から召喚した勇者じゃ」
「ゆ、ゆう……しゃ……?」
ジャニスさんの顔が一瞬で引きつった。
どうやらこの世界では、エルフは人間とあまり仲が良くなさそうだ。
「心配いらぬ。レイナは我らと戦ったりせぬ。その証拠に見よ、こんなにも愛らしい姿をしておるし、耳は丸いし、尻尾も生えておらぬ。武器の一つも持っておらぬじゃろう」
「た、確かにそうみたいね」
最後の一文以外まったく関係なかったけど、まあいい。
「レイナは凄いぞ。妾たちの世界の遙か先を行く文明の世界から来たのじゃ。しばらくは妾の元に居て、妾の理想を実現する為に力を貸してくれると約束したのじゃ。じゃから、レイナのパンツを是が非にでも作って貰わねばならぬ」
「パンツとの繋がりが良くわからないけど、交換条件を出されたって事でいいのかしら」
「うむ。その通りじゃ」
ジャニスさんの理解は早かった。
「あ、一応パンツ以外にも服も作って貰えると嬉しいなって」
エクレアに任せたままにしておくと、パンツしか出来てこなさそうなので、すかさずフォーローを入れる。
「そぉねぇ」
ジャニスさんは顎に手を当てて、小さく唸る。私のことを――主に制服に鋭い視線を送ってくる。
「それって、素材はなんでもいいのかしら」
「出来れば、肌触りがいい物だと嬉しいかな」
「うーん、ちょっといいかしら」
そう言って、ジャニスさんが私の制服に触れて、素材を確かめ始めた。
「さっきもちょっと思ったのだけど、随分と繊細な布を使っているわよね。あのパンツ、なんというか、素材からして何か違う気がしたわ。――ほらやっぱり!」
唐突にジャニスさんが私のスカートをめくり上げる。
「って、またかいっ」
完全に油断してた。
「何これ、もの凄く触り心地がいいわ。これ、何から糸を作っているのかしら。いくら何でも細すぎないかしら」
「やめっ、やめえっ」
押さえつけることなどお構いなしに、ジャニスさんがパンツをサワサワと触りまくってくる。
「こ、こりゃっ、それは妾の物じゃぞ、勝手に触るでない。妾もまだ一度しか触れておらぬというのに」
エクレアまで参戦して、私の下半身は大惨事だ。
「やめいっ」
容赦なく二人の頭に鉄拳を振り下ろす。まったくこいつらはっ。人のパンツをなんだと思っているのよ。
「ほら、しっしっ。元に戻る」
手で振り払うと、ようやく大人しく離れてくれた。
「さすが勇者ね。魔王の娘にいともあっさり一発を入れるなんて」
サリアさんがブルッと身震いをする。いや、こんなの二人とも叩かれること前提の行為だろうに。
「んで、出来るんですか?」
もう疲れてきたのでちょっと投げヤリ気味に聞いた。
「品質が少し悪いのだったら出来るわ。私たちは植物から糸を作っているけど、あそこまで細かく編む技術はないから。あと、少し時間が掛かるわね。動物の皮を使えば縫い合わせるだけだから、今からでも出来るのだけど」
「うーん……まあ、履き心地が良ければなんでもいいです」
同じ物っていうのはやっぱり無理か。代わりがあるだけマシと思うしかない。
「それじゃあ先ずは採寸しましょう。スカートをめくってくれるかしら」
「えっ?」
「だって、サイズが分からないと履き心地のいい物なんて作れないでしょう?」
「それはまあ、そうなんですけど」
「はいっ」
ジャニスさんがメジャーのような物を手にして迫ってくる。
「いや、さすがにこれだけ人が居るとちょっと……」
「あー残念。せっかく腕によりを掛けて作ろうと思っていたのに、本人が協力してくれないんじゃ作るのなんて無理だわぁ」
「いやいや、みんなが居る前でスカートをめくり上げるのが嫌なのであって、エクレア達が外に行ってくれればいいんだけど」
「やだぁ、ジャニスこわあい。人間の勇者と二人きりになったら何をされるかわからないわ」
「うわー」
このエルフの美人さん、なかなかいい性格をしている。
「うむ、その通りじゃのう。レイナが何かをするとは思わぬが、逆にジャニスに何かされるやもしれぬ。妾もこの場に居た方がよかろう」
「そうよね、エレクトゥリアスの知り合いだからって、人間の勇者とジャニスを二人にするのは不安だわ。私も残っていないと」
サリアさんまで乗ってきた。
「そうだ! 森の番人として村に入った者を監視する役目がある」
ティアまで参戦してきてしまった。
「って、あんた私にそこまで興味示してなかったでしょ」
「……いや、割と尻尾の生えていないお尻は良かった」
「……」
この世界の住人はみんな性癖歪んでるのかしら。
「いいから出て行って。すぐ終わるんだから、何かあればその時入ってくればいいでしょう」
かなり強引にジャニスさん以外を追い出すと、渋々とスカートをめくり上げたのだった。