プロローグ2
私が仕方なく扉の方に歩き出すと――
「勇者様の旅立ちに幸あらんことを」
「勇者様のご活躍を耳に出来ること心待ちにしております」
「我らに代わってどうか魔王を倒して下さい」
すれ違いざまに、兵士達が次々にいかにも用意してました的な声を掛けてくる。勇者をヨイショして気分良く送りだそうって魂胆なのだろう。
「いや、あなたたちが戦いなさいよ」
「我らはこの王都を守る役目がありますので」
「あっそ……」
私のツッコミに、悪びれもせず答える兵士A。こんなやつ兵士Aで十分だ。
「勇者様は男のわたしから見ても惚れ惚れするような男前です」
「それ男の勇者が召喚される前提で考えていた言葉よね」
「……」
兵士Bは沈黙した。
「勇者様は、こうなんというかつるりとしてます」
「それ今考えたんでしょうけど、意味不明なんですけどっ」
「いや、見た目がつるりとしています」
兵士Cはボキャブラリーが足りない。肌が綺麗だとでも言いたいのだろうか。
「勇者様の剣技、お見それしました。あの疾風怒濤の技があれば、魔王もイチコロでしょう」
「剣なんて一度も振って見せてないけどねっ!」
もうむかついてきたので、兵士Dに舌を出してアカンベーをしてやった。
「なるほど、それが挑発スキルなのですね。いやーこれは参った。勇者様に挑発されるとは光栄ですなぁ」
「こいつらは~っ」
声を掛けられる度にイライラが増してくる。
こんなのいちいち相手にしてたら胃に穴が空きそうだ。
もうとにかく一回出てそれから入り直そう。うん。
そう決めて、むかつくけどとっとと部屋を出ることにした。
「はいはい、勇者様のお通りですよ」
投げやり気味に歩き出た扉の向こうには、小さな踊り場と、その先に続く階段が広がっていた。
驚いたのは、階段の脇にも兵士が居並び、私を送り出そうと待ち構えていたことだった。
くっ、部屋だけじゃ無くて、このお城からも出ないとダメか。
ゲームなんかだと、ここから自由行動が出来るパターンもあるのに。
兵士や、物見客たちによる無言の「早く旅立って」の声に押されて、仕方なく階段を降りて、今度はお城の正面扉をくぐり抜ける。
時間を気にしていなかったが、どうやら今は昼間らしく、お城の外では太陽の光が降り注ぎ、カラッとした暑さが肌を撫でる。この世界に四季があるのかはわからないが、感覚的には初夏の頃合いだろうか。過ごしやすそうな気候に、少しだけ心のイガイガが収まってきた気がした。
「さっ、勇者様、街の正門までお送りいたします」
「えっ?」
私が空を見上げていると、扉の近くに居た兵士が少し先の方を指差した。そこには馬車――馬のようでいて私の知っている馬では無い何かの引く馬車が用意されていた。
「いや、あの送ってくれるのは嬉しいのだけど、私まだこの街に用があるというか、ほら、まずは情報収集しないといけないし」
「いえ、勇者様にはすぐに旅だって頂くよう仰せつかっています」
「いやいや、ほら折角貰った路銀を使って装備を整えたり――」
もちろんそんなことをするつもりはないが、そう簡単に街の外に放り出されるわけにはいかないので抵抗を試みる。
しかし――
「事は一刻を争います。魔王は既に我が国の領土を犯しつつあります。一刻も早く倒しに向かって頂かなくては国民が安心して暮らせません」
「言いたいことはわかるけど、こっちにも事情ってモノがあるし」
「大丈夫です。近くの街へ行けばそこで装備を整えることも出来ましょう。まずは旅だって頂くこと。それが大事なのです」
「……」
なーんで、この人たちは自分たちで『勇者様』、なんてヨイショする相手を追い出そうとするかね。
「何? 勇者はすぐに街の外に放り出す決まりでもあるの?」
「決まりではありませんが、この街に留まらせておくといつまで経っても出発しない勇者様が過去に何人もいましたので、とりあえず旅立たせてしまえということになっています」
「ああ、そう……。包み隠さず答えてくれたことには感謝するけど、ほっぽり出すのに変わりは無いって事ね」
「なにぶん勇者様は最後の勇者様となっておりますので、他の方達に追いついて貰う為には悠長にしているわけにはいかないのです」
「はっ? 他にも勇者を呼んでるの?」
「はい、勇者様は十人目の勇者様です。最初の勇者様は一月前に旅立たれ、そこそこ活躍していると聞いています」
「そこそこって……。っていうか、そんなにも勇者を召喚しなきゃいけないくらい魔王軍? っていうのかしら。そいつらは強いの?」
「ええ、もちろん。並の兵士では手も足も出ないくらいには強いです。まあ雑魚モンスターくらいなら倒せるんだけど、まぁ勇者様にやらせたほうが安全で確実みたいな?」
「あれ、なんか急に砕けた口調になってない? 少し話して親近感湧いちゃった? 私勇者なんでしょ? ちゃんと最後までヨイショしよ?」
「さすが勇者様には敵いませんな。さ、すぐさま街の外へ送り出して差し上げます。参りましょう」
「はいはい、生意気言ってゴメンナサイね」