エルフの里へようこそ
これがエルフの里かぁ。
初めて見る光景だけど、なんとなく懐かしさを感じるのは歴史で習った弥生時代当たりを思い浮かべてしまうからだろうか。
「あら、エレクトゥリアスじゃない」
エルフの里の入り口に差し掛かったところで、脇にある小さな小屋からエルフのお姉様が出てきて声を掛けてきた。これは、関所みたいなところかな?
「お姉えちゃぁん」
エルフのお姉様を見た途端、ティアが泣きながら抱きついた。
ティアのお姉様は、まさにこれぞエルフ、という感じの美貌の持ち主で、絶世の美女といってもいい美しさだ。口元に柔らかな笑みを浮かべて、深い青色の瞳でティアを抱きしめる。
腰まである長い金髪に、茜色の花をいくつか付けているのはティアと似ている。エルフたちの流行なのか、それともティアたち姉妹がおしゃれなのか、どちらだろう。
そして、ティアと同じく、ティアのお姉様にもやはり尻尾が生えていたのだった。
「あらあら、今日も負けたのね」
よしよしと、ティアのお姉様は、胸に顔をうずめるティアの頭を優しく撫でる。
「ようやく精霊魔法が使えるようになってきたみたいじゃが、まだまだじゃな。攻撃のタイミングがわかりやすすぎる」
「だって、こいつ今日は剣なんて持ってるんだよ。卑怯だよ」
ティアが先ほどまでとはうって変わって甘えた声を出すのが面白い。この子完全にシスコンだわ。
「あらあら、エレクトゥリアスも武器を使うようになったの? やっぱり人間と戦うことにしたのかしら」
「違う。これはレイナに貰ったのじゃ」
「レイナ?」
ティアのお姉様が私に視線を向ける。
「あらあら、何この子。人間? それにしては耳がまん丸だし、尻尾も生えていないじゃない。あらあら、まん丸お耳が可愛いわねぇ」
「こら、サリアよ。レイナは妾のものじゃ。手出しは許さぬ」
サッと、抱きついてこようとするサリアさんの前に、エクレアが立ちはだかる。この世界の住人はやたらと耳が丸いことと、尻尾がないことに反応するなぁ。
まあ、よほど珍しいのだろう。
「レイナは人間どもが召喚した勇者じゃ。しかし、妾と運命的な出会いをし、勇者を辞めて妾と一緒に暮らすことになったのじゃ」
「あらあら、それじゃあ異世界の住人なのね。でも勇者を辞めたって本当なの? お姉さん心配だわぁ」
サリアさんの目が一瞬だけ鋭い光を帯びた。
「案ずるなレイナは勇者とは思えぬほどか弱い乙女じゃ。殺気を出さずともよい」
エクレアがサリアさんの殺気を、パパッと手で払う動作をする。
今の殺気だったのね……。
「サリアはティアの前に森の番人をやっておったのじゃ。今は関所の番人じゃが里に仇なす者には容赦の無い、鬼畜エルフと昔は恐れられていたものじゃ」
エクレアがウンウンと何かを思い出しながら頷く。
「いやねぇ。もう○年以上前の話じゃない」
「サリアは精霊魔法とメイスのエキスパートじゃからな。妾も随分と手を焼いたものじゃ」
「サリアさんってそんなに強いの?」
「うむ、十回戦えば三回は追い返されておったのう」
「へぇ、人は見かけによらないねぇ」
「だから、昔の話なのよ。今は関所で事務仕事ばかりだから随分と腕も鈍っているわ。ってそんなことよりも、今日はどうしたのかしら。またお肉でも加工して欲しいのかしら。それとも何か欲しいものでもあるのかしら」
「うむ、今日はレイナのパンツを作って貰いに来たのじゃ」
「あー、パンツだけじゃなくて、一応服も欲しいかなって」
パンツ、パンツと連呼されると恥ずかしいので、服の方へ話を誘導したいものだ。
「パンツ?」
サリアさんが首を傾げる。このパターンはすでに読めた!
「うむ」
エクレアが頷くと同時に私はスカートを両手で押さえる。
「これっ……」
私のスカートをめくろうとしていたエクレアの手が止まる。
「何故めくらせぬのじゃ」
「そう何度も何度も人前でパンツを晒すわけ無いでしょっ」
勝った。そう思ったのだけど――
「ああ、これね。人間はよく穿いているらしいわね」
私の後ろに回り込んだサリアさんが問答無用でスカートをめくり上げていた。
「まあ、本当に尻尾が生えていないわ。恥ずかしいっ」
恥ずかしいのはこっちだ。
「あの、もういいでしょうか」
「あらあら、ごめんなさい。つい珍しかったから」
「珍しいって、エルフの人たちはパンツ穿いてないんですか?」
「ええ、穿いていないわよ。だって用を足すときに不便じゃない?」
そう言ってサリアさんがそっと自分のスカートをめくって見せた。
「ぶっ、わかりました。わかりましたから見せなくていいです」
「そう? ティアちゃんのもめくって見せましょうか?」
「いや、いいです」
「お姉ちゃん、わたしは最近穿いてる。木の上にいることが多くなったから、ショーツの葉を重ね合わせたのを穿くようになった」
ティアが自分のスカートをめくって、エッヘンと胸を張る。
「まあ、エルフがパンツを穿くかどうかはともかく、人間にはちゃんとしたパンツが必要らしいので、ほれ、機織りの得意な奴がいたじゃろう。あれにレイナのパンツを作って欲しいと思っての」
「まあ、案内はするけど、正直難しいと思うわよ」
「何故じゃ?」
「だって、レイナちゃんの穿いてるの、凄く繊細そうな糸を使っているもの。あんなの見たことないわ」
こっちの世界だと、まだその辺りの加工技術って発展してないのかなぁ。王都あたりならまだマシそうだけど、兵士の人の着ている服もけっこうゴワゴワしてたからあまり期待できないか。でも、ドレスは遠目には綺麗だったから、それなりに技術はありそうなんだけどなぁ。私たちの世界で今のパンツが出来たのっていつくらいなんだろう。
「まあそこまで上等じゃなくてもいいんだけど、とにかく代わりが欲しいんです。私これ一枚しかないんです。さすがに四日目はキツいんです」
「そうじゃ、変わりが無ければ妾がパンツをもらい受けることが出来ぬ。なんとしてでも作って貰わねば」
「ま、まあ、とにかく行ってみましょうか」
不思議な顔をしながらサリアさんは私たちを里の中へと入れてくれたのだった。