スマホ復活っ!
大げさではあるけど、スマホが使えるのと使えないのでは精神の安定度が全然違ってくる。
少しずつではあるけど、確実にバッテリーの残量が増えていく。
でも、その速度は普通に充電しているときよりも遅い気がする。
もうちょっと出力を上げて貰う? でもそれで今度は高電圧で壊れる可能性もある。成功している今の状態を維持するのが最善だろうか。
「レイナよ、これはいつまでやっていればよいのじゃ?」
「それなのよね……。一時間くらいで充電は終わると思うんだけど、今の状態をしばらく維持できる?」
「可能ではあるが、動けぬのは辛いのう」
「そうよねぇ。ああ、いいわ、充電できるっていうのが分かっただけでも十分だわ。少しずつでいいから今みたいなことやってもらえるかな。そうすればスマホを自由に使わせてあげられるんだけど」
「充電とやらが出来ればいいのじゃな。それならば術式でも組んでみるとするかのう」
「術式?」
「うむ、今は雷撃器官を直接解放しているから調整が難しいのじゃ。術式を組んでマナに働きかけてやれば、自動的に出力を押さえたまま長時間維持できるようになるはずじゃ」
「おおー、それは是非頑張ってもらいたいわ」
よしよし、やっぱり魔法って便利よね。原理はまったくわかんないけど。この力は争いなんかじゃなくて、生活の為に使うべきだわ。
「充電できるようになったらスマホの使い方教えてあげるからね。それまで待ってね」
「うむ、スマホの為に頑張るのじゃ」
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スマホの充電のことはとりあえず置いておいて、私たちは朝食を取りながらこれからのことについて話し合っていた。
「今日はエルフの所へ行ってレイナのパンツが作れるか確認するのが何よりも重要じゃな」
「まあそうね。下着の替えはやっぱり欲しいわ」
一度泉で洗ったとはいえ、もう三日穿きっぱなしである。年頃の乙女としては、女子力が地に落ちる前に新しいパンツを手に入れたいところだ。もしゲームみたいにステータス画面を見ることが出来たら、女子力の項目が毒を受けたかのように毎秒減っていることだろう。
「それからレイナが元の世界に戻る方法じゃが、ハッキリ言って見当もつかぬ。無論魔法に長けた者に聞いてはみるが、妾の知る限り人間以外が異世界の者を召喚したという話は聞かぬ。魔王といえどもそのような魔法は使えまい」
「うーん、だとすると召喚した人に聞くのが一番かしら」
「そうじゃな。いずれ人間の街へ行って、その者を攫ってきた方が良いかもしれぬな」
「攫うのはちょっと……。私が街へ行けばいいんでしょうけど、今戻っても追い返されそうなのよね」
「勇者なのに入れぬのか?」
「うん……。何か魔王軍と戦った成果を持ち帰らないと入れて貰えないっぽいのよ。あの街の王様元勇者なんでしょ? 勇者時代の経験から、勇者がサボらず必死に戦うようにってことなんでしょうね」
「それは困るのう。出来れば早い内にその者と接触した方がよかろう」
「どうして?」
「もしあの街を魔王軍が落としでもしたら、街の人間なぞ生かしてはおくまい」
「それは困るわ」
エクレアと一緒にいると忘れそうになるけど、人間と魔王軍は絶賛戦闘中なのである。今も犠牲者が出ているかもしれないのだ。
「魔王軍は今どのあたりまで進軍しているのかしら」
「どのあたりも何も、むしろ後退させられているところじゃろう」
「えっ、そうなの?」
「人間は成長するスピードが恐ろしく速い。普通の人間相手なら互角かもしれぬが、そこに勇者が加わっておるとなるとかなり分が悪い。魔王は今でも人間より強いつもりかもしれぬが、個としては勝てても、総戦力ではすでに負けておる。それを何度も言ったが、妾の話など聞きもせぬ」
エクレアは盛大なため息を付いた。
「何か成果が無くてはならぬというのであれば、そのうち魔王の角でもへし折って来てやろう。それを土産に持っていくがよい」
「それはちょっと、エクレアの家庭が崩壊しちゃうわ」
「元々崩壊しておる。気にする必要はないのじゃ」
「……」
なんとも言えず黙り込んでしまう。
「よい、まずはエルフの所へ行こうではないか」
「そうね」
木の実の入っていたお皿を片付けて、今日の所は目の前のことからやっていくことにした。
****
魔法もそうだけど、空を飛べるのも、もの凄く便利なことだと思う。私も魔法で飛べるようにならないものかしら。
昨日降り立ったお城の屋上に私たちは立っていた。
一応バッグも持って、準備万端だ。バッグの中には水やタオルやスマホや……教科書は置いてきても良かったな。まあ、色々入っている。エクレアは聖剣(レプリカ)を装備して大きく羽を広げた。
「さて、ゆこうかの」
エクレアが流れるような動作で私をお姫様抱っこする。
何回されてもこれはドキドキしてしまう。軽々と持ち上げてくれるものだから、こちらとしても気分がいい。大人しく抱っこされて、エクレアの首に腕を回す。元の世界に戻れたとして、同じようなことをされる日が来るのだろうか。
「ゆくのじゃ」
「うん」
ぎゅっと私が抱きつくと同時に、エクレアが地面を蹴って空へと羽ばたく。
これもまた怖いけど心地がいい。生身で空を飛ぶこの感覚は病みつきになりそうだ。