女勇者は魔王の娘の手に落ちました
「行くって、その……飛んで?」
「むろん。レイナを抱きかかえて飛んで行く」
「おおーー……、ちょっと怖いけど大丈夫? 途中で腕がしびれて落としたりしない?」
「妾を誰と心得る。真竜族が娘ぞ。人間一人なぞ鳥の羽一枚つまみ上げたのと変わらぬわ」
そう言うと、エクレアはいとも簡単にレイナを抱き上げた。
「ひゃあっ! ま、まあ羽で飛ぶんだからおんぶってことはないだろうけど、お姫様抱っこは不意打ちだわ」
涼しい顔をしているエクレアを、令奈は顔を赤く染めながら見つめた。
「落とすことはないが、レイナも妾に手を回しておくのじゃ」
「うー、わかってるわよ」
自分がどれだけ令奈の心を揺さぶっているかも知らずに、エクレアはしっかりと令奈を抱きしめる。
「あ、そうだわちょっと待って」
令奈はバッグをお腹の上に移動させると、スマホを取り出した。
「それは?」
エクレアが興味津々にスマホを覗き見る。
「これは、説明が難しいのだけど、私の世界のちょー便利なアイテムよ」
「ほう」
「写真撮るからちょっと動かないで」
「写真?」
「そ、危険なアレとかじゃないから心配しなくていいからね」
写真と言われてもエクレアには通じなかったが、令奈のことを信じて言われるままに令奈のすることを待つ。
「エクレアもスマホの方を見て」
カメラを起動させて、腕を伸ばして自分とエクレアが入るように位置を調整する。そして、エクレアは両手がふさがっているので、自分だけポーズを決めてシャッターを押した。
カシャッと言う音にエクレアが一瞬体を震わせたが、目を少し見開いただけで令奈を落とすようなことはなかった。
「んふ、ちゃんと撮れたわ」
令奈が撮った写メを見せると、エクレアはさらに目を見開いて「おおー」と声を上げた。
「これはなんなのじゃ? 妾たちの姿を切り取ったのか? 今描いた物ではないじゃろう?」
「まあそういう感じかな。光を取り込んでどうたらって感じで詳しい原理は説明できないけど、これが私たちの世界にある科学の力よ」
「ううむ、そのスマホとやら、妾も触ってみたいのじゃ」
「それはいいんだけど、バッテリーがーって、まぁそこらはお城に着いてから説明するわ。ちなみに写真を撮る以外にもいろいろな機能があるわよ」
「ほほう。嗚呼――妾はレイナと出会えて今とても嬉しいのじゃ。レイナは妾の目指している世界を実現する為に欠かせない存在になる気がするのじゃ」
エクレアは興奮したまま勢いよく空へと羽ばたいた。
今までに感じたことのない浮遊感が令奈を包む。
「きゃーっ、ちょっと怖いけど、空飛んでるわー」
あっという間に地面が遠くなり、先ほどの泉が小さく見えた。
「レイナっ、城へ着くまでも色々と話しをしたいのじゃ」
「わ、わかったから安全飛行でお願いねっ」
風で言葉が届きにくくなる。二人は出来るだけ顔を近くに寄せて、お互いのことを話しながら空のデートを楽しんだのだった。