プロローグ
プロローグ
見知らぬ部屋、見知らぬ人たち――
やたらと豪華な室内に、玉座? のようなものに座った偉そうな初老の男性は、もしかして本当に王様だったりするのだろうか。王様の周囲には金属の鎧を着た兵士らしき人たちが十数人は控えていて、さらには玉座から私のところまで続く絨毯の脇にも同じような格好をした兵士達がずらりと並んでいた。
さらにその兵士達の後方にある柵の後ろからは、見物人らしき人たちが所狭しとひしめき合いながら、私のことを値踏みするような視線を投げかけていたのだ。
ここは一体何処? 私は――私は、天城令奈。令和女学園高等部二年。今日は十月一日。衣替え初日だから良く覚えている。まだちょっと冬服を着るには暑くて、帰り道で額に汗を滲ませていた。……そこまでは確かに覚えている。
そのあと、目の前が真っ白になって、強烈な光に包まれた。そう……確かに光が急に視界に溢れて――気がついたらここにいた。
突然の出来事に、夢でも見ているのかと思ったけど、目の前の光景はあまりにもリアルだし、聞こえてくる声もクリアな音声で耳に届いてくる。夢と呼ぶにはちょっと無理があるだろう。白昼夢ならぴったりかもしれないけど……。
「勇者よ」
突然、王様が私に向かって両手を広げて語りかけてきた。
「はあ……?」
なんのこっちゃと思いながら、一応返事をしてみる。多分私に話し掛けてきたのだろうけど、勇者? この王様ゲームのしすぎか何かだろうか。それともあれか? これは一般人を相手にしたドッキリか? 今の時代そんなことあるはずないと思わせておいて、あえてその逆を行ったってこと? ……いや、無い無い。私にドッキリを仕掛ける理由が何一つとして無い。自分で結論を出したものの、とりあえずは王様らしき人の顔を見る。
「よくぞ我らが召喚に応じてくれた。その心意気に感謝する」
いやいや、何も応じてないし、この人何言ってるの? と思ったが、あの眩い光、あれが召喚の合図のようなものだったのだろうか。
「今、我らが王国、ひいては人の世が魔王に侵略されようとしている。勇者にはその魔王を倒し、この世界に平和をもたらして頂きたい」
「いや、ちょっと」
あからさまにおかしなことを言われているのでさすがに口を挟む、が――
「もし、魔王を倒した暁には褒美は望むがまま。もし、そなたが願うならば、王族として迎え入れることも可能であるぞ」
王様は私の話なんか聞く耳持たない感じで、一方的に話を続ける。
「ちょっと待って!」
私はそれに負けじと語気を強めて王様の話を遮った。
「何言ってるのか全然わからないんですけど。勇者とか、魔王も意味不明だし、私にそれと戦えっていうの?」
「無論。その為に勇者召喚に応じてくれたのであろう?」
「応じた覚えなんてないし」
「しかし、そなたがこの世界に顕現したことがなによりの証拠。どうか我らを救って頂きたい。無論その為の装備と路銀は与えよう」
王様が片手を上げると、脇に控えていた兵士の一人が私の前まで進み出てくる。
「どうぞ」
と言って渡されたのは、鍔に細かな装飾が施された剣と、革の袋だった。袋は持つとジャラッという音がして、中に路銀――つまりはこの世界のお金が入っていると思われた。
「その剣は、過去の勇者が使用していた聖剣――のレプリカである。そなたには特別にこれを与えよう」
王様がドヤっと言いたげな表情で告げるが――
「複製かいっ」
と、思わずツッコんでしまう。
どうせなら本物にして欲しい。
「複製といえどもモノは一級品。聖女の加護を与えられ、本物とほぼ同じ性能をしておる」
「いや、でも戦うとか無理だし」
私ただの女子高生だし。
「さあ、ゆくのだ勇者よ。この世界を魔王から救う旅に」
プワーーーーっと王様の近くに居た兵士達がラッパを取り出し、一斉に吹き出した。
あっ、これ旅立ちの音楽的な? 言うことは言ったから出て行け的な? この世界のこと何もわかってないけど、このまま放り出すの?
「ゆけっ、勇者よっ」
再び王様は叫んだ。
とっとと出て行けということだ。
「ええ~っ」
どん引きして一歩後ずさると、今度は脇に居並んでいた兵士達が一斉に剣を掲げ、私の出陣を見送る態勢に入った。背後の扉が盛大に開かれると、兵士達が掲げた剣を胸の前に引き下ろした。
もはやこの場で何を言っても聞いて貰えそうに無い。
何が何だかまったくわからないけど、とりあえず一度外に出てから戻って来た方がいい気がしてきた。