序章:死と束の間の楽園
太陽が窓を照らす
朝がやって来たのだ
「ううっ...もう朝か...」
俺はいつものように再度布団にくるまる
「あと...5分だけ...」
「ダメですよ!今日は大切な日なのですから!」
そうだ、今日は”あの”日だった!
とは言っても、俺にとってはさほど重要ではないのだが...
どうせ、この日のことで何かが変わるというわけでもないのだから
俺、結城叶夢(この世界では「キーン=アイリス」だが...)は少し前にここに転生して来た。
転生前、俺はなんて事のない生活をしていた。
ただ大学を出て、すがりつくように就職、そこから働き詰めでもう10年ほどだ、最近では疲れ果てて、ネットやテレビを見る気力すら失せて来ている...
そして、特技というか、優れていると自覚できるのは悪知恵が人一倍働き、ガキの頃はよくイタズラの計画や悪巧みをして怒られてきたということぐらいだろう。
そのおかげなのか出世は同期よりもかなり早い方だ!
まぁ、同期の中ではレベルなのだけどね。
あとやっていたことというか、悲しい過去というのは高校、大学の時ぐらいの時に女の尻を追い続けていたということぐらいだろう。
まぁ、今では二次元の女の尻になってしまっているけれど
そのお陰で女の扱い方だけは上手くなっていったのだが、そんなことはどうでもいい。
ある一際月が輝いていた日の帰り、そんな月をまじまじと眺める余裕もなく次の日の事を思いめぐらしていた。
コツコツとくたびれた靴を鳴らし重々しく体を動かす。
そして
(明日の会議は...)
と嫌々考えていた次の瞬間、自分の頭に鉄のような何かが
ゴンッ!
とぶつかったのだった。
何がぶつかったのか確認する暇もなく
(あれ?これ、もしかして...死ぬんじゃ...)
と思いながらその場で倒れこみ、気付けば暗闇の中にいた。
その暗闇には傷1つない自分ともう一人、いかにも女神のような人物がいた。
(あれ?ここってどこだ?俺は何かがぶつかって気絶してたような?ならここは病院...という雰囲気の場所でもなさそうだし...)
必死に状況の整理をする、ある日いきなり何かにぶつかって倒れ、目が覚めたら暗闇の中女神とふたりっきり...
あれ?考える必要もなく異世界転生ってやつか?俺にもようやく運気が回って来たってことか!
と、事の成り行きをポジティブに考えていると
「初めまして、結城叶夢さん。私は運命の女神フォルトナ、貴方は先程ビルのベランダから落ちてくる物干し竿にぶつかり即死しました。今体は病院の方に運ばれていますが、既に手遅れです。なぜなら貴方の精神は今ここにあるのですから」
そうか、やはり死んだのか...って物干し竿かよ、せめて戦場で
「俺はもうダメだ、後は任せたぞ!」とか
「ここは俺が何とかする!お前は逃げろ!」
とか言いながら死にたかったものだ。まぁ、現代じゃあ叶わない夢ではあるけれど...
まぁ、この謎の空間に来れたんだ、おそらく次のセリフは
(もう一度人生をやり直しませんか?ここではなく異世界で!)
「もう一度人生をやり直しませんか?ここではなく異世界で...」
よしっ!完全に被った!間違いない、これは異世界転生だ!俺にもようやく人生の春が来たってもんだ!(死んでるけれど)
「ただ、異世界は過酷で貴方がそのままその世界行けば3日と持たず死んでしまうでしょう、なので貴方は3つの好きな能力を習得して行くことができます、それもこれまでの記憶、肉体を保って...」
ああ、来たなチート能力付与...ってあれ?3つも?どこぞの戦闘民族達の星でも最初は1つが限界だったはず...大丈夫なのだろうか、1つでも世界のバランスを崩壊しかねないのに...
そして、
「3つもか?しかも好きな能力って!どんな能力でもいいのか?」
「はい、構いません」
なんとなく...怪しい...
俺の勘はそう感じた、しかし今までの過酷な生活を考えると口は自然とこう答えてしまう
「本当にいいんだな?なら乗った!それなら1つ目は世界を操る力...」
「ごめんなさい...流石に世界は難しいのです、自分自身を操る事ならできるのですが...」
「どういうことだ?自分自身を操るっていうのは」
「つまり、貴方が望めば自分自身の姿を変え、自分自身の理性、感情を完全にコントロールし、貴方が望んだ物を即座に作り出すことができます。ただし、私の力を超えた事は出来ませんが...」
「それって控えめに言っても最強じゃないか!自分をいくらでも強くできるという事でだろ!本当にできるのか?」
「はい」
ますます怪しい、だがそれでもこれまでのような人生はうんざりだ、断ることもできるが、断りたくなかった
「よし、なら1つ目の能力はそれにしてくれ、そしたら2つ目の能力だが...」
正直1つ目の能力だけで十分なのだが、それでもあと2つも選べるのなら選んでおくに越したことはない、とは言っても何を...そうだ!それならこれにしよう
「俺の容姿を金髪美少女に...」
そう言いかけて止まった。
一度は言ってみたいセリフ!なってもみたい...
だがわざわざ異世界に行くのだ。どうせならもっと大人のエルフとかサキュバスとかにイチャイチャしてもらえるような容姿がいい!
ならショタか?いや、それでは風呂には一緒に入れないではないか?それならば両方の利点を生かせるような容姿にすれば良い、なら答えは一つ
「俺を金髪ボーイッシュ美少女に!」
なんだか凄く変な響きだが、これならいいだろう。
“ボーイッシュガール”でも良かったのだが美少女の方が好みだから仕方がない。
「わかりました」
ヨシッ!っと、心の中でガッツポーズを取る。
これで周りから存分にチヤホヤされるぞ!と胸を踊らす。声のことを言い忘れたが、そこは察してくれると信じよう。
さて、最後の1つなのだが、どうするか。力、容姿とくればあとは心か?
でも綺麗な心のまま生活するのはなんだかくたびれそうだ。
なら何にするか?せっかくだからお願いしたい。そうだ!
「異世界で頼れる相棒が欲しい!」
「わかりました」
よし、これで3つか、最後のは正直話し相手が欲しいくらいの感覚だったが、これでいいだろう。
「ところで?相棒は現れないが、どういうことだ?」
「私が出来るのは、相棒を生み出すことではなく、異世界で作れるように私がその人物を誘導することです。なので、異世界で貴方自身が作り出して下さい。」
騙された!と思った。これじゃあ不確定すぎるからだ。でも最初の2つで十分過ぎるのだからあとはその能力でいくらでも相棒を作ればいい。そう思った。
ようやく旅立ちの時だな!と思ったと同時に
勝ったな!とも思った。
せいぜい暴れてやるぜ...
「それでは3つの願いを叶えました、これから異世界へ転送します。言語は自動取得されますのでご安心を。」
ワクワクしてきた、年甲斐もなく遠足の前日のようなワクワクだ。あれ?遠足ってそんな楽しかったかな?
「では女神の加護があらんことを...」
バリバリ目の前の現役の女神様に祝福してもらったばかりなんだけどね!
そうして眩い光に包まれたあと、地面に降りたという確かな感覚とともに異世界に佇んでいた。
そして、それからは楽園の様な日々だった。
素晴らしい容姿...巨乳美女の方が良かったかな?と望めばいくらでも湧き上がる力のおかげで苦労することもなく当然のように地位を上げていった。
最初は元の世界に戻ろうかなとも考えたが、この能力でも戻ることは不可能だったし、そもそも戻る必要のないくらい楽しい日々だった。
そして5年後、今俺は弱小だが1国の主人としてこの魔力で補強された城に住んでいる。
1から作らせるのが面倒だったし時間がかかるのでボロ屋敷を自分の魔力で補強したのだ。
もっと上へ行けたが、そこまで焦る必要もなく、その気になればいくらでものし上がれるのでさほど今の地位は問題ではなかった。
むしろ、闇雲に目立って目の敵にされるのも面倒だし、金も時間もあるこの今の状態が一番楽だった。
戦争など女神の力でどうとでもなり、また知恵も女神の力が補ってくれる、金も女神の力で金山を掘り当て、それを部下に掘らせれば自分は何もすることなく最高の生活を送れる、素晴らしい世界、素晴らしい能力、そしてずっとこの仮初めの能力に頼り、そしてあたかも自分の力の様に酔っていたのだった。
そして今日。太陽が窓を照らす
朝がやって来たのだ
「ううっ...もう朝か...」
俺はいつものように再度布団にくるまる
「あと...5分だけ...」
「ダメですよ!今日は大切な日なのですから!」
そうだ、今日は”あの”日だった!
各国の首脳が集まる会議の日...
この世界の方針が決まる会議の日...
とは言っても、俺にとってはさほど重要ではないのだが...
どうせ、女神の力を行使すればいくらでも変えられるので、
この日のことで何かが変わるというわけでもないのだから
それでも
「流石に遅刻はまずいな!」
と思い、体を起こすことにした。
腐っても首脳会議...下手に遅刻すれば信頼を失い面倒な事になる...起きる理由はただそれだけだった。
社蓄生活から脱出した反動か朝が本当に起きられなくなってしまった!
これは悩みでもあり幸せでもある。
そう酔いしれながら体を起こそうとしたその時...
「あれ?」
確かに体は動いてる、でも、何かが違う?
まるで転生したきた前の時の様な感覚?
少し頭に汗がのぼる
多少の恐怖に駆られながら、
(大丈夫!そんなことはない!)
と自分を鼓舞し、恐る恐るいつも行う寝起きの浮遊移動を行おうとする。
これは寝起きで歩いて移動するのが面倒なので浮いてそのまま移動してしまおうという算段なのだが、今日は...
「浮けない...」
確かにそうだ、何度試しても浮くことができない...
まずい、でもどうしてこんな事に?まさか、寝てるうちに力を奪われた!?
女神の力がか!?
そんなことが可能な人物はいるはずがない!
人、ゴブリン、エルフ、サキュバス.......
......悪魔、女神!
そう!女神以外.......
あれ?...女神...そう、女神!
女神以外いるはずが...?まさか、そんなことって...
女神が女神の能力を奪ったのか?なぜ?一体何の目的で?俺が目立ちすぎた?そもそもこの世界では使ってはいけない力だから取り上げられた?....
とりあえずまずい、本格的にまずい...
後先のことを考えれば考えるほど頭から血の気が引き、生気を吸われ切った抜け殻の様な姿になっていく。
そんな姿を嘲笑うかのように
「ふふっ、どうかしましたか?結城叶夢、いえ、キーン=アイリスさん?」
「お前は!あの時の!」
どこかで見た姿、そう!5年前の女神だ...
「どうしたもこうしたものねーよ!急にお前から貰った力が使えなくなったんだよ!どういうことなんだよ!説明しろ!なあ、分かるだろ?女神なんだから...」
必死だった、当然だ!今までそれに頼り続けてきたのだから
すると女神は
「アハ.....
アハハ!あんな世界を崩壊させるような力、ずっと使わせてもらえる気だったの?とんだバカね!最初っからこうするつもりだったのよ?力に頼り切ったところで、切り落とす!最高に楽しい暇つぶしよ!アハハハハ!
まぁ、本当はこの世界ごと消してくれればよかったのだけれどね!アハハハハ!」
(何を言っているんだコイツは?)
急に本性を現す女神に俺は理解に戸惑い、唖然としていると
「ただ1つだけ安心しなさい、”いままで”あなたがこの世界で作ってきたものだけは残しておいてあげる!
例えば、この魔力で補強された城、あなたの容姿、あなたに漂う魔力...それだけは他者からなら今までと変わらないように補填してあげる!他者からだけはね...
当然あなたの容姿は自分では元の姿に見える、使える魔力もただの人間レベル...
魔力で補強されたこの城もあなたには壊れた城にしか見えないし、他人には見えて触れる壁も、あなたには見えないし触れない...
ウフフッ、他人が触れられるのに貴方だけがすり抜けるなんて滑稽な事になったら貴方の部下はどう思うのかしらねぇ?」
そうほざくと、
「まぁ、せいぜい頑張りなさい!貴方は何日持つのかしらぁ?」
と不穏なセリフを吐いてどっかに消えた
「クソッ!」
完全にハメられた...そもそもおかしかったのだ、あんな力を俺に簡単に渡すなんて虫の良すぎる話が!しかも3つもだ!なぜあの時のもっと不審に思わなかったのだろう。皆にそんな力を渡して転生させてりゃこんな異世界はとうに消滅してるのではないかという仮説は子供でもきっと立てることができたはずだ!ちくしょう!
もっと後悔はしたかったが、今はそれどころではない...
会議があるからだ...
クソッ!あの野郎!このタイミングを狙って...
当然だがいままでの会議も全て女神の魔力依存だ
力を失った殻の王の末路は簡単。
まず、いままで出来ていたことが途端に出来なくなり、いままで信頼されていた部下に不審がられ疑われる。
この時点でもう精神がおかしくなりそうだ...
次に殻の王は必要ないと判断され、良くて追放だが、恐らくは処刑だ!
多分簡単に殺させてくれるだけで慈悲がある方になるだろう...
そして最後に膨大な資産を求めた跡目争い、これが最も悲劇的だ、互いに金や土地を求めて争い合う...
威力も現代社会よりこちらの世界の方が圧倒的に高く、そんなのがぶつかり合えばその地は植物も育たず、生き物も住めない荒地になり後には何も残らないだろう....
そういえば、転生してからいままで、そんな荒地がいくつかあるという話や、急に王が沈んだという話を聞いたことがある。
もう数十年前のことのようだが、あの野郎、定期的に人を送り込んで同じことをしていたのか...
とりあえず、この状況をいかにして切り抜けるか
、だ!
他者から見れば今まで通り...それならいくらからやりようがあるだろう...
そう思うしかなかった...
「さて、どうしたものか...」
そう考えようとした矢先...
コン!コン!
ビクッ!
「王女、準備は出来ましたか?」
メイドがドアの外からそう声を掛けてきた。
まずい...まだ準備など何もしていないし、
かろうじて壊れていないが
俺にとってこの城は魔力の補強がないボロ屋敷だ...
迂闊に動いたら城が壊れて周囲から怪しまれかねない...
そう考えるほど動けなくなる...
「王女、どうかなさいました?」
「いや、なんでもない!」
「なら早くいらしてください、会議まで時間がありませんよ?」
「ああ、分かっている」
しかし、それでも出てこない俺にメイドが怪しむ。
この際、このメイドに頼るしかない、そう思った
「王女?本当に大丈夫ですか?」
ドア越しに心配そうに尋ねてくる
「あ、ああ、ただ寝違えたのか体が上手く動かなくてね...
恥ずかしいがすこし手伝ってはくれないか?」
「は、はい。それでは失礼します...」
そういうとメイドは俺の部屋の扉を
ギギーッとゆっくり開けたのだった...
そして、これが俺の第二の人生の本当の始まりを意味していることを知ったのは先の話である
初登校でございますが、いかがだったでしょう?
この主人公のアイリスさんはこの後どう切り抜けるのか、ご期待ください(現在ノープラン)
それと、思ったより時間かかるんですねこれ!
アホみたいに時間消えたんですけど!そんなことより今後もまったり投稿予定なんでお願いします。