第26話
「こちらが王都にいる535名の名前と経歴、5000人の値段を大まかにまとめたものになります」
俺はマクベスからリストを受け取る。
なるほど。なかなか綺麗にまとめられている。それぞれの人間に対する評価も的確。それで、合計金額が……..白金貨80枚。手付け金は白金貨5枚。
これくらいなら想定内だ。大きくふっかけてはこなかったか。
「佐々木様、今回は初回、これからのお付き合いにも期待をかけて特別にサービスさせて頂き、合計白金貨75枚、手付け金4枚でいかがでしょう」
ふむ。悪くはない。
が、まだまだ下がる。
このリストは確かに優秀。しかし突っ込み所が無いわけでは無い。
535名分のリストをこの場で全てチェックできるはずがないとタカをくくったな。この程度の情報量なんて一目見れば暗記できるんだ。相手が悪かったな。
まずはふっかける。
「駄目ですね。ここは白金貨40枚、手付け金白金貨2枚が妥当でしょう」
「は。佐々木様、それは何のご冗談ですか。相場でもこれは安い方なんですよ。私はあなたを買いかぶっていたようだ」
マクベスが笑いながらそう言うが、俺はすかさず反撃する。
「もちろん。相場は存じておりますとも。このリストの値段は実に的確。が、これはあくまで普通に売った場合です。5000人となれば、いくら奴隷といっても商品、食事や健康管理にコストがかかるでしょう。535名の中でも特に容姿が良いとなっている136人についてはかなり気を使っているんでは?5000人の中ならさらに多いでしょうね?」
マクベスの顔から今日初めて笑みが消えた。
「確かに、その通りです。なるほど、逆の意味で見誤っていたと言う訳ですか。わかりました、下げましょう。が、白金貨60枚、手付け金3枚です。これ以上は下げられません」
マクベスが、やれやれといったように言う。
が、休む暇なんて与えないぜ。
「いや、あなたは下げますよ。ドミオ・ロビ、マシス・ゴグラ、ソリオ・マクベール、シカリア・コル。他15名。この人達の共通点がわかればね」
間髪入れずそう言うと、俺はマクベスに資料を渡す。
そしてマクベスは自身の用意したリストを見直し、やがて諦めたように目をつぶって言った。
「はぁ。わかったよ。君の勝ちだ。白金貨50枚、手付け金は3枚。支払い期限は3ヶ月だ。君ならわかっているだろうがこれ以上はどうにもならないぞ」
ついにマクベスからは敬語も消えた。
こっちが素なんだろう。
「ええ。もちろん。では今日連れて行く人間も12人選んでおいたので、用意してもらえますか。手付け金は明日、残りの王都の人間を回収するときに」
「ああ。受付に用意させよう。手付け金もそれで構わない。
しかし最後のはどうして気付いた。先ほどの136人という数字もそう。こんな短時間で気付くはずがない。お前は一体何者なんだ」
何者か。日本にいるのなら間違いなく佐々木グループ総裁。だが、この世界での俺は一体何者なんだろう。
真剣に悩み始めたその時、今までじっと事態を眺めていたシーナがぼそりと言った
「….神の迷い人」
「ふふふ。神の迷い人か。なるほど、あの伝説が相手なら私がコテンパンにされるのも納得だ」
マクベスが笑って言う。素で笑ったからだろうか。
一瞬マクベスの黒いオーラが白く見えた。
が、結局、すぐ黒に戻り
「しかしその手腕なら次の査定で金級に上がることも夢ではないだろう。が、そうなった時はくれぐれも敵を間違えるなよ」
とだけ言い残して部屋から出て言った。
どういう意味だ?金級と言うとギルド総会の話か?聞けばよかったな。
まあとにかくは白金貨50枚まで落としたし、今日のところは他のサキア人を連れて帰ろう。
しかし、予想の他時間をとったせいで食材を買えていない。明日はお弁当の販売は取りやめて、早朝に市場に行くしかないか。
だが、ガンゾもきっとサキアのみんなを見たら喜ぶぞ。
元々の真面目さもあるが、ガンゾは何も考えずに道に飛び出した事に責任をだいぶ感じていて、最近は倒れるんじゃないかというくらい働いてる節がある。これがいい緩和剤になるといいんだが。
受付に行くとまたもや番号札。仕方なくシーナと座って待っていると、シーナが興奮気味で
「さっきの交渉すごかったです!75枚だったものを、白金貨50枚にしちゃうなんて!まさにサキアの救世主、伝説の迷い人って感じでした」
と言ってくる。さっきまではマクベスがいたから抑えていたんだろう。
「でも、最後の共通点ってなんだったんですか?決め手になったって感じでしたけど」
そう言えば、マクベスが自分で気づいたからシーナは知らないのか。
「あれは簡単に言えば不良債権みたいなものなんだよ」
「不良債権?」
『そう。彼らは全員70を超えていて、これから高値で売れる見込みが全くない上に、商業ギルドには奴隷法というのがあって、いくら奴隷であっても殺したりして処分ができない。そして殺せないから食事は与えなきゃいけないけど、売れないから食費ばかりがかさんでるんだ。だから本来ならタダでもあげたい奴隷ってわけさ」
「なるほど、そんな事を一瞬リストを見ただけでわかったからマクベスさんは驚いてたんですね!本当にすごい!」
「そうだろうね、それと、マクベスが諦めた大きな理由はもう一つある。マクベスは俺がサキア人を買う理由がつかめていなかったんだ。逆にあっちに俺がサキア人を絶対に買うことがバレていたらこうはいかなかった」
そう。今回は結果だけ見れば俺の圧勝とも言える。が、マクベスが俺の目的を知っていたら、俺は逆に手も足も出ずにふっかけられていたかも知れない。
文化レベルが低くても商売敵は強敵ぞろいだ。それにだいぶ減らしたと言っても50白金貨は払わなくてはいけない。
大量生産に加えて情報収集をすぐにでも充実させなければ。
サキア人全開放まであと1万5000人。
これからまた大変になりそうだ。




